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死神と少女

日も暮れはじめた夕方。

とある小さな公園のブランコに、幼い女の子が座っていた。

少女は赤い夕日を眺めながらゆるくブランコを漕いでいる。

「こーんばーんわぁ」

いきなり隣から能天気な声が聞こえてきて、少女はびっくりしてそっちを見る。

隣のブランコには、いつ来たのか、真っ黒のマントを着た若い男がニコニコと微笑んで座っていた。

沈んでいく夕日よりずっと赤い髪の毛がフードの下から覗く。

それと同じくらい赤い瞳を、少女は素直に綺麗だと思った。

「こ、こんばんは」

少女は困惑しながらも挨拶を返す。

すると若い男は嬉しそうに笑った。

「わぁ、今まで何度か同じ挨拶をしてきたけどちゃんと挨拶が返ってきたのは君がはじめてだよぉ」

「そ、そうなの?・・・ダメだねその人たち、こんばんはって言われたらちゃんとこんばんはって返さなきゃいけないのに」

「ホントだよねぇ」

そう言ってケラケラ笑う若い男を、少女は不思議と恐いとは思わなかった。

「そういえば、確認なんだけど、君の名前は武藤 琴羽ちゃんで合ってるかなぁ?」

「うん、そうだよ!お兄ちゃん凄いね!ことはの名前当てちゃうなんて。お兄ちゃんの名前はなんていうの?」

「リルだよ」

「リル?お兄ちゃん男なのに女の子みたいな名前だね」

「そ、そうかなぁ」

「うん」

「それよりね、琴羽ちゃん。ワタシね、死神見習いのお仕事をしてるんだけどもね」

「死神?」

「そう、死神。正確にはまだ見習いだけどねぇ」

「ことはの横にいきなり現れたのは死神だから?」

「んー。まぁ、そうだねぇ。それより」

「死神ってお兄ちゃん以外にもいるの?」

「えー・・・。うん、いるけど?」

「いっぱい?」

「いっぱい」

「その死神さんたちもみんなお兄ちゃんみたいな格好してるの?」

「・・・うん。微妙に違ったりはするけどね。基本的には一緒かなぁ?」

「じゃあ、死神さんたちは」

「あのさぁ、琴羽ちゃん。話、先進んでも良いかなぁ?」

「あとも一個だけ!」

「・・・なぁに?」

「死神さんたちってみんなお兄ちゃんみたいにいきなり現れるの?」

「あー。それは違うねぇ。他のマジメな死神達は一週間から一ヶ月くらい前に自分の担当する死亡予定者の近くで過ごしてね、その人が本当に死ぬべきなのか、死んでも問題ないかを調べてから死亡予定者に生きるかそのまま死ぬかを選ばせるんだよぉ。ワタシの場合、調べる工程を飛ばしてるんだけども、まぁその方法でも問題はないからねぇ」

「・・・よくわかんない」

「だよねぇ」

リルは苦笑いを浮かべる。

自分の苦手分野を見付けた。

子ども、面倒臭いかも・・・。

「で、その死神の仕事の上司から渡される死亡予定リストに今から七分後、六時五分にね、君に死亡予告がでていてねぇ。上から看取って来いって言われてるんだよぉ」

「しぼうよこく?」

「そう。アナタはこの日のこの時間に死んじゃいますよー。っていうお知らせみたいなやつ」

「・・・ことは、死んじゃうの・・・?」

「うん、そうなるねぇ」

目の前で優しく微笑むリルと、そのリルが告げた言葉とが繋がらず、琴羽は理解ができず、必死で頭を動かす

「あ、でもねえ。さっき話したように死亡予定者がまだ生きる意思があるなら助けてこいとも言われてるんだよぉ」

「いきるいし?」

「そう。まだ生きたいと思うなら、助けてあげるんだ」

「・・・ことはがどうやって死んじゃうか、お兄ちゃんには解る?」

「解るよぉ。聞きたい?」

ほとんど陽も落ちて暗くなっている。それでもリルの白い肌はくっきりと見えていて、その口元は綺麗な弧を描いている。

琴羽は一瞬迷ったあと首を強く横に振った。

「そお?じゃあ事故だとだけ教えておくよ」

「お兄ちゃんが助けてくれたら、ことは死なない?」

「・・・助けてほしいの?」

「まだ、死にたくないもん・・・」

「・・・そ。じゃあ助けてあげる。けど、前もって言っておくよぉ?」

「?」

「まず、君が今日事故に遭うのは、これはもう決定事項だから変えられない。君には悪いけどぉ事故には遭ってもらうよ」

「・・・でも、助けてくれるんでしょ?」

「うん、助けてあげるよ。でもぉ、ワタシが助けるのは君の命であって、君の将来じゃあない。他のマジメな死神たちは将来も約束するんだけどねぇ」

「・・・?どういうこと?」

遠くで六時のチャイムが鳴る。

リルは綺麗な笑顔を作ったまま言葉を続けた。

「あー、それとぉ、ここで今あったことは全て脳から消去されるからそのつもりでねぇ」

「え、それって・・・」

「ここは人気も多いから、助け方も人間みたいにしてあげる」

たまには死んでみるのも楽しいかなぁ?リルが呟くように言って笑顔をより一層深くしたとき、強い一陣の風が吹いた。

琴羽は思わず目をつむり、次に目を開けたとき、綺麗なオレンジ色に染まった空が視界いっぱいに広がった。

ブランコから落ちて仰向けになったまま、琴羽は首を傾げる。

「あれ、さっきまで誰かと話してたような・・・。夢、かな?」

いつの間にか、眠ってしまっていたのかもしれない。

落ちて、背中や頭を打ったかもしれないが、全く痛くなかった。

公園のシンボルでもある大きな時計台を見た。

帰る時間にはまだ少し早いようだ。

家にはあまり居たくない。

琴羽はもう少しここにいることにして、背中に付いた砂をはらいまたブランコをゆるくこいでいた。


二十分くらいたったとき、遠くで六時のチャイムが鳴った。

・・・寒くなってきたし、あんまり遅いとお父さんから怒られちゃう。

琴羽はブランコから飛び降りて公園を出た。

大通りに出たとき、後ろで誰かの悲鳴が聞こえて振り返る。

すぐに暴走した大型トラックがこっちに向かってくる様が目に映った。

トラックは迷いなく琴羽の元に猛スピードで突っ込んでくる。

に、にげなきゃ。

そう思うが、思うだけで体が動かない。

トラックはもうすぐそこで、もうダメだ、と目をつむった時、ドンと強く胸元を押され後ろに投げ出された。

何が起こったのかわからず慌てて目を開けると、さっきまで自分が立っていた場所に赤い髪の若い男が立っていて。

その顔は、恐ろしいほど綺麗な笑顔を作っていた。

その一瞬後、トラックが若い男を高く高く跳ね飛ばす。

血飛沫が舞って、甲高い悲鳴が辺りにこだました。


「目の前で人が轢かれるのを見て、精神に深いショックを与えたのでしょう。ですが、元に戻らないとは限りません、根気よく、治療を続けていきましょう」

先生の言葉にお母さんが泣いて、お父さんは怒っているような、諦めたような目をして自分を見ている。

琴羽はそのことに何の感慨も覚えないまま、虚ろな瞳で病室から見える赤い夕日を眺めていた。


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