第二話一応、ここまでは。
いつもの交差点で空気たちと別れた。
空気は相変わらず地図をなだめていて、その地図は男子からアイスを貢いでもらったらしく、チョコとイチゴとバニラとレモンの四段重ねのコーンをはしゃぎながら食べていた。
「じゃね」
あたしが手を振ると、地図たちも振り返してくれて、普通の人生送ってるんだなあたしって、とぼんやりと感じた。
・・とりあえず、ここまでは、普通の人生を送ってるな、と。
横断歩道を渡って、二回左に曲がって、また右に曲がる。そうすると、もう家のある通りだった。
ドラ○もんに出てきそうなブロック塀が立ち並ぶ道を歩く。ちいさな、音がした。
家に少しずつ近づいていく。さっきまでかすかだった音がどんどんどんどん大きくなって、家の前にたどり着いて玄関のドアに近づいたとき、音源はこの家だとわかった。
「・・・ただいま」
またやってるのか。溜息をつく。鍵はいつもと同じ、開きっぱなし。いつも鍵が開いてるんじゃ、まったくもって意味がないと思うのだけど。
ドアを開けて玄関に入る。リビングにもキッチンにも和室にも台風が通った後。
大体これはあたしが後片付けをしなくちゃならない。今日で三日目。二階から聞こえる音はさらに大きくなっていく。
「ねー、そろそろ静かにしてさあ、片付けしてくんない?」
音に負けないように叫ぶ。自慢じゃないが、あたしは校内大声選手権で2連覇したという女らしさもへったくれもない女子高校生である。こんな音に負けるわけがあるはずがない。多分。
そう思ったのだが、あたしの声は予想と反して、聞こえなかったらしい。音はまた、大きくなった。
「・・・うそん」
軽くショックを受けた。もう一度呼びかけてみる。反応はない。負けは認めたくないので、もう一度、呼びかけようとした。
「おねえちゃん、たすけて!」
音に混じって、か細い声が聞こえた。やった、やっぱり聞こえてたんだ。部屋の中にいる星矢に聞こえているのなら、外にいるアノヒトにも聞こえているはず。返事しろよ、アホ。
「せーいやくーんが助けもとめてーんじゃーん、やめてやんなよー」
階段を上りながら間延びした声でつぶやく。正義感はあるんだけど勇気がない少年っぽく。
階段を上り終わって、あたしは顔を上げた。やっと気づいたらしく、あっちも驚いたようにこちらを見つめている。
「ね、おねえちゃん」
お疲れ様です。一応、星ちゃんの身の回りはこんな感じです。・・苦労人です。。。