10月、キャバ嬢アンナ
ダイくんとのメールは順調だった。去年までは。
新年になり、ダイくんはあまりメールをくれなくなった。
こちらからメールをしてもなかなか返事がない。
無視されることもあった。
やっぱり私に魅力がないのかな。
前よりもいい女になったと思うんだけど……
サラサラの長い髪、ブランドのバッグ、流行のファッション。
バッグや服、アクセサリーは、ほとんど関さんから貰ったものだ。
関さんは店に来る度、私にプレゼントをくれるようになった。
別に要求は全くしていないのだけど、勝手に持って来るので有難く頂戴していた。
関さんはこの頃少しおかしい。
「アンナの嘘つき」
ぼそっと関さんが言った。
今日も指名とプレゼントをくれたが、機嫌が悪い様子だ。
「どうしてですか?」
「正月、初詣行く約束しただろ」
確かに一度はした。けれど断ったはず。
「すいません。今年はこっちでゆっくりお正月を過ごすつもりだったんですが、親が実家に帰れってうるさくて」
「それが嘘つきって言うんだよ」
「……ちゃんと早めに断りましたよ。嘘はついてないです」
「……謝れ」
カチン、ときた。
私は嘘つきではない。
なぜ謝らなければならないのか。
「私、嘘つきじゃありません」
「アヤマレ!!!!!」
店内が一瞬にして凍りついた。店内の全員が私と関さんのテーブルに目を向けている。
私は関さんと睨み合う。
「ど、どうしたの?アンナ……」
隣のテーブルで接客していた先輩が小声で話しかけてきた。
関さんが言った。
「アンナが約束破ったのに謝らねぇんだよ」
「えっ?アンナ本当?」
「……違います」
「違わねえだろ!!」
なんか怖い。
関さんてキレやすいのかな?
DVとかしそうな感じ。
やっぱり男の人って嫌い。
「アンナ、意地張ってないで謝りなさい」
先輩は私が嘘つきではないと信じてくれているはず。
だけど店のことを考えて、謝罪の演技をしなさいという意味なのだろう。
キャバ嬢は女優だ。
「……ごめんなさい」
「ちゃんと俺を見ろ。二度としないと誓え」
あ゛ーーーもう!!
きもいきもいきもいーーー!!!
「ごめんなさい。もう二度と約束は破りません」
暫しの沈黙。
「ま、今回は許すわ。アンナはまだ子供だからな」
許してくれなくて結構。
子供相手に結婚したいとか言うな!
「でもさ、アンナがそうやって本音を言ってくれるってことは、俺を客として見てないってことだろ?」
「え……そんなことはないですよ」
「仕事だと割り切ってたら、客を怒らせるようなことしないよな、普通」
「……」
「アンナにとって、俺は普通の客以上の存在ってことだよ。俺を愛し始めている証拠だ」
関さんの勘違いっぷりに呆れた私は、もう返す言葉も見付からなかった……
学校では、そろそろ後期の試験が始まろうとしている。
私はマキと学校の図書館で勉強する約束をしていた。
マキは先に行っているとのことだったので、私は一人で図書館に続く廊下を歩いていた。
ん!!
前方にいい男発見!
もしかして……
やっぱり!
ダイくん!…とその友達。
「ダイくん!こんにちは!」
ダイくんは無言で軽く頭を下げた。
「あたしこれから図書館で勉強するんだぁ。ダイくん勉強してる?」
「あぁ……うん、まあまあ……」
「そっか〜真面目そうだもんね」
「あ……あのさ、コイツがさ……」
そう言って隣にいた友達を指差した。金色の髪をツンツンに立てた背の低い男。
「コイツ、キャバクラかどっかでボーイのバイト探してるんだけど、いい所知らないかな?」
ドキッ!!!
心臓が一瞬止まったような感じがした。
でも私は女優。
失いかけた笑顔を取り戻すと、震える声も気付かれないよう大きめの声で言った。
「えぇ〜?!あたしに聞かれても困るよぉ!わかんないわぁ!」
「そっか……」
「じゃあね!テスト頑張ろ!」
私は図書館へ急いだ。
「マキ!!!」
図書館でマキを見付けるなり、私は走った。
マキのテーブルの前に慌ただしく座ると、顔を近付ける。
「あたしのバイトのこと、皆にバレてないよね?!」
「……う、うん……」
フゥ。焦った〜!
「うん……あのね、あんた必死に隠そうとしてたから言えなかったんだけど……」
えっ?
「杉田くん達があんたとオジサンがデートしてる所とか、キャバクラのチラシにあんたが出てたとか言ってて……」
?!
「かなり噂になってるよ」
ああ……
もう学校辞めたい……
杉田……アイツだ……
中華料理屋で見られた……