10月、キャバ嬢アンナ
関さんとは、あの日以来ギクシャクしてしまっている。
関さんは相変わらず私を指名してくるけれど、私は一方的に関さんを突き放した。
もう二度とデートに誘って欲しくはなかった。
私は関さんとお酒を飲んでいても全然楽しくないし、いつも無愛想な接客をしていた。
「アンナどうしたの?最近関さんに冷たいじゃん。いい客だよ〜関さんは」
「えっ……、そんなことないです。普通ですよ?」
先輩キャバ嬢とは毎回こんな会話ばかりだ。
ある日、また関さんから指名があった。
関さんはいつもの明るい様子とは違い少し思い詰めているように見えた。
「アンナちゃんは俺のこと好きなんだろ?」
はぁ?!
この男は突然何を言い出すんだとかなり驚いた。
私は今まで一度も好きだなんて言ったことはないし、好きと思われるような発言もしてこなかったはずだ。
それどころか最近は嫌われるような行動をしてきた。
「好きですよ。お客様としては」
私は無難に返答した。
「客としてか……どうしたら客以上の存在になれる?」
「えっ?」
「俺はアンナちゃんを愛していることに気付いた。だからアンナちゃんにも俺を愛してもらいたいんだ」
愛すどころか消えて欲しい、と心の中で呟いた。
しかしそんなことは言えないので、う〜ん……と少し考える。
「アンナちゃん、俺はアンナちゃんと結婚していい家庭を作っていきたいと思っているよ」
結婚?!ますます意味がわからなくなってきた。
「アンナちゃんは結婚相手には何を求めてる?やっぱり経済力?」
「ん〜……そうですねぇ……」
とりあえずアナタじゃない人がいい。
「わかった!頑張って経済力のあるところを見せるよ」
この日、関さんはスッキリした顔をして帰って行った。
「あ〜ぁ、マキ今日休みかぁ」
ある日の講義。
マキは風邪でお休み。
いつもはマキが席を取っておいてくれるんだけど、今日は自分で探さなくてはいけない。
「あ……」
あの人だ。
私の好きな人。
あの人も一人でいる!
チャーンス!!
「あの、隣、誰か来ます?」
顔が熱くなるのを感じた。
「……いえ、どうぞ」
彼は少しこちらに顔を向けただけで、ぼそっとそう言った。
暇そうに指でペンを回す彼。
講義はまだ始まっていない。
よし!!
ガンバレ!私!
「あぁの……お名前、なんていうんですか?」
「……えっ?俺?」
「はい」
突然話し掛けられてびっくりした様子だった。
「フジサワ」
「下の名前は?」
「ダイ」
彼は相変わらずボソボソ喋る。
賑やかな教室内では、よく聞き取れない。
私はかなりの集中力で彼から出る音を聞いた。
「ダイくんか……ダイくんはクリスマスはやっぱり彼女さんと過ごすんですか?」
「いや俺彼女いないし」
ぃよッし!!!!
心の中でガッツポーズする私。
ダイくんの話によると、クリスマスは一人で寂しく寝て過ごすらしい。
ならば私が一緒に!
……と言いたいところだが、流石に知り合って直ぐにそういうのもどうかと思う。
「あの、あたしもクリスマスすっごい暇なんですよ。もし良かったら、迷惑じゃなかったらでいいんですけど、あの、あの……」
顔がカッと熱くなる。
汗で鼻が光ってたらどうしよ。
「あの、暇つぶしにあたしとメールしませんか?」
「え?!」
やっぱりびっくりしたみたい。
彼、ダイくんは今までで一番大きな声を出すと、初めて私の顔を直視してくれた。
「え……?!ぃや、いいけど……」
こんな感じで、私は携帯番号とアドレスを交換した。そしてクリスマスを待たず、当日から毎日メールをするようになった。
……メールは私からしないとダイくんからは絶対来ないけど……。
そして私たちは急速に仲良くなっていった。