10月、キャバ嬢アンナ
私には好きな人がいる。
同じ学校、隣のクラスの人。
背が高くて、ひょろっとした人。
静かで真面目そう。
廊下でよく見掛けるんだけど、喋ったことはあまりない。
よくある一目惚れだ。
私は彼のためにキャバ嬢になった。
綺麗になって、彼に私を見てもらいたいから。
いい女になれば、きっと見てくれると思っているから。
日曜日。
関さんとの約束の日。
関さんは普段のスーツ姿とは違ってラフな服装だった。そのギャップのせいか、少しかっこいいかも……と勘違いしそうになる。
酢豚やエビチリ、ワンタンスープなどの定番中華を食べながら、私と関さんは楽しい時を過ごしていた。
「私、酢豚のパイナップルが大好きなんですよ」
「変わってるなぁ。じゃあパイナップルは全部アンナちゃんにあげるよ」
「いいんですか?やったぁ!」
こんな私たちを、周囲の人はどう見るのだろう。
父と娘?
それとも……
チリンチリン
「いらっしゃいませー」
店に新しい客が入ってきた。
ふと出入口に目を向ける。
「!!」
同じ学校、同じクラスの男子生徒が3人……。
一瞬目が合った気がしたが、私は直ぐに目を反らした。
知らないふり。
男子生徒たちは、私の方を指さしながら何か話している。
どうしよう……どうしよう……
なにか言われたら、なんて答えよう。
お父さんです、なんて関さんの前では言えない。
バイト先のお客さん、いや、駄目だ。
彼氏、……無理がある。
どうしよう。
「アンナちゃん?どうしたの?」
「いえ……なんでも……」
頭の中は真っ白だ。
考えようとしても、思考回路が遮断されたような……
幸い、男子生徒たちは私を放っておいてくれた。
中華料理店を出て、カラオケに行かないかと誘われたが、この後用事があると言って何事もなく帰宅した。
だけど、私の頭の中はあの事でいっぱいだった。
明日学校に行っても大丈夫かな。変な噂がたってたらどうしよう。みんなに不純な女だと思われたら……どうしよう!やだ!やだ!!
関さんのせいで……
関さんのせいで……
あの人にも嫌な目で見られたら……
次の日。
私はいつも通りに登校した。
「おはよ」
軽く挨拶して、親友マキの隣に座る。マキは私がキャバ嬢であることを唯一知っている存在。
「マキ、あのさ……あたしの、バイトのこと……みんなにバレてないよね……?」
「えぇ?なに?ウチがバラしたとでも疑ってるわけ?」
「いや、ちがうよ……」
とりあえず、マキの耳には入ってないらしい。
少しほっとした私は、教授の有難い講義を聞きながらスヤスヤ眠った。
噂が徐々に広まっていることも知らず。