〃 ~薬屋「スカーレッド」~
薬屋「スカーレッド」に入ると店主のローズが振り向いた。赤く長い髪を束ねてポニーテールにしている。
「あらぁ? ジゼットは~? また置いてきたのぉ?」
「その話し方やめろって」
「ちょっとふざけただけじゃないの。そんな風に言ってると毒飲ませるわよ」
「いや、お前の毒は死ぬから」
ジゼットを置いて、目的地に着いた俺。
俺の目の前にいて、先程「毒飲ます」発言をした女性がこの薬屋「スカーレッド」の店主、ローズである。ちなみに、今は不在のようだが、積極的な姉と正反対のおとなしい妹のリリィがいる。まぁ、二人とも毒殺を得意とする暗殺者だったりもするんだが。これは一部の人間しか知らないことだ。
本来、殺す対象が対人のこの姉妹に対し、俺たちは主に対獣だから相容れない関係だったのだが、過去の事件をきっかけに正体を知ってしまった。
それもこれもジゼットのせいである。
まぁ、それは置いといて。知り合いになった俺たちは話さないという条件で少し安く薬を買うことができている。
俺たちの事務所も裕福とは言えないからな、節約は基本中の基本だ。
「はぁ……」
「なにため息ついてんのさ。幸せが逃げるんだってよ、ロイド」
「いや、俺の人生にジゼットという名前が刻まれた時点で幸せはとっくの昔に逃げてるよ……」
やれやれ、といった風に肩をすくめるローズ。一回相棒になってみればいいんだ。きっと俺の気持ちがよく分かる。
「……そういえば、リリィはどうした? さっきからいないが買い物か?」
「リリィ? いや、リリィは薬のもととなる薬草を取りに行ったよ。それほど危険な場所でもないし、近場だからそろそろ帰ってくると思うよ。回復薬が欲しいんだろ?」
ローズの問いに肯定する。
「あぁ。回復薬はリリィの専門だからな。もう少し待っているよ」
ローズの入れたハーブティーを飲みながら、国から支給された端末を使って、以来場所である「永遠の雪山」の情報を仕入れる。
「あ~、そこにいったらさ、探してほしい薬草があるんだけど」
いつのまに画面を見たのか、ローズが言った。
「雪山に薬草なんて生えるのか?」
「珍種だよ。花が青白く光る性質があってね。寒いところでしか咲かないんだ。主に洞窟で見かけるようだね。取扱い注意の危険種でもあるけどさ」
つまりは毒性のある植物ってことか……。
「採取方法は?」
「茎とか葉には触らずに花だけをとって、袋に入れるだけさ」
「どうして茎や葉に触ってはいけないんだ?」
「いいかい、茎や葉には小さな棘が無数にあって、触ると血が出るんだよ。すると、血に反応して花が枯れてしまう。花が枯れてしまっては意味がないさ。毒薬にするには花を血に触れさせず、すりつぶす必要がある。うまくできれば水に溶けやすい粉末の毒になる。死にはいたらないけどね」
……血を流さずに、花だけか。
「分かった。探してみよう。持ってくることができたら、回復薬2個な」
「う~ん……まぁそのくらいが相場だね。分かった、それでいいよ」
「交渉成立だな」
うまく話がまとまったところで後ろからカランコロンと扉についている鈴が鳴った。
「リリィおかえり~」
ローズがそう声をかけたので、リリィが帰ってきたのかと後ろを振り向くと、リリィと一緒に……。
ジゼットもいた。