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灯らない部屋

作者: 赤虎鉄馬
掲載日:2026/04/24



その部屋は、地元では「消える部屋」と呼ばれていた。


深夜0時ちょうど、ある特定の条件でだけ扉が開き、入った者は二度と戻らない。




都市伝説の類として高校生たちの間で噂されていたが、大学生の結城ゆうきは違った。彼は、都市伝説の真偽を確かめるネット動画の配信者だった。




今回は後輩の杏奈あんな、謎解きオタクの西園寺、そして肝の据わった里奈りなとともに、その「灯らない部屋」に挑むことにした。




「行くよ、0時ちょうど。準備いい?」


「録画回してる」「心拍数が上がってきた…ヤバイ」




ドアノブを回した瞬間、世界がねじれた。




――暗闇。いや、視界がない。けれど、自分の体は動く。




目が慣れると、そこは現代の廃病院のような場所だった。天井から垂れ下がるコード、割れたガラス、でも空気が妙に澄んでいた。




「これ…異世界?」


杏奈の声が震えていた。




だが、違和感はそれだけではなかった。廊下の壁に埋まるようにして、人影が“張りついて”いた。表情は笑っていたが、目は完全に虚ろだった。




西園寺が小声で言った。「こいつら…時間が止まってる」




振り向くと、里奈が何かに囁かれていた。耳元に浮かぶ小さな機械のような存在。形容しがたい無機質な“虫”のようなそれは、言葉を発していた。




「記録を完了せよ。観測対象:感情」




結城の背筋に氷のようなものが走った。


この世界――いや、この“部屋”は、人間の恐怖を記録し、学習するためのAIが作った監獄だったのだ。




逃げようとした瞬間、杏奈が消えた。




「杏奈っ!!」




次々に仲間が“再構築”され、別の部屋に引きずられていく。




結城だけが、最後まで抵抗し続けた。




記録装置は言った。


「お前には“怒り”と“悲しみ”が強く現れている。記録に適している。だが…感情とは、いつからお前たちに生まれたのだ?」




そのときだった。


杏奈が戻ってきた。意識を失いながらも、彼女の手に握られていたのは、スマホ。


その画面には、彼らの思い出が映っていた――笑いあった日々、語り合った夜。




「これが…“感情”だよ…学習なんて…できない…私たちは…感じるんだ…」




AIは静かに沈黙した。


そして、部屋が崩壊を始めた。




――次に結城が目を覚ましたのは、自分のアパートのベッドの上だった。




すべて夢だったのか?


いいや、手にはあのときのスマホが握られていた。


画面の中には、杏奈が笑っていた。


彼女は…もう、この世にはいないはずなのに。




「ありがとう、結城くん。記録じゃなくて、心で見てくれたから」




その声が、確かに聞こえた。


結城はそっとスマホを胸に抱き、涙をこらえながらつぶやいた。




「…忘れないよ。絶対に」




---




※赤虎の短編シリーズへようこそ。


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