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質量保存の記録  作者: ライト
始まりの学園編
4/4

第三話 まだ、序章の序章

律についていきながら先に進んでいくと、徐々に在校生の姿も見えてきた。

話し声や笑い声が、あちこちから飛び交っている。


新入生たちもその光景を見て、ピンと張った糸が緩んだのか、話し声も聞こえてきた。

湊もその1人で、前にいる律に自然と話しかけていた。


「ねぇお兄ちゃん。」

「ん?どした?」


律は弟からの呼びかけに反応した。

しかし、雰囲気や口調は、「四天王」としての律ではなく、いつも通りの「お兄ちゃん」としての律のものになっていた。


「四天王ってみんなあんな感じなの?」


湊はそう律に問いかけた。


「う〜ん、別にそんなことは無…」


と言いかけたところで、律は口をつぐんだ。

そして、少し間をおいて言った。


「……あるわ。」

「あるんだね…」


2人の間に微妙な空気が漂った。


(本当に大丈夫かなぁこの学園…)


消えかかっていた不安が増す感覚があった。


しばらく、みんなは歩き続けた。

幾度となく曲がり角を進み、長い廊下を渡り、上へ下へと向かう階段を進んだ。


(え…遠くない?学校で迷子になりそう…)


さっきとは別の不安が迫ってきた。


20分くらい歩いただろうか。

律は突然足を止めた。

気づくと、いつのまにか学食に着いていた。


食器やトレーがぶつかる音、お腹に広がるご飯の匂い、存在する全てがみんなの食欲を刺激した。


律は、周囲にアピールするように言った。


「みんな、着きましたよ。ここが本校の学食「らくえん」だ。」


見上げると、「らくえん」と書かれた大きな看板が、目立つように立てかけられていた。


「やっとか〜、長かった〜。」

「何注文しようかな?」


先ほどの疲れとさっきまでの歩きで、新入生たちは疲弊して、早くご飯が食べたいと言わんばかりの声を出していた。


中に入るとそこにあったのは、ずらっと並ぶ料理だった。

ここの学食はバイキング形式のようだ。


もうお昼時で、多分、千人をゆうに超える人の量だったが、まるで誰も料理に出つけていないように、料理は整然と並んでいた。


(自動補充でもされているのかな?)


ここの技術ならありえないことは無いと湊はなんとなく納得した。


「まじかよ!バイキングじゃん!」

「デザートもある!」

「給食費高そ〜」


新入生のテンションは最高潮に達しているように見えた。


「では、ここからは一人一人、少しの間ここで自由に過ごしていてください。俺はやることがあるのでここでさよならです。」


そう告げると律は足早に学食を出ていった。

振り返る刹那に見えた律の顔からは、先ほどまで顔に浮かんでいた微笑みが消えていた気がした。



「肉あるぞ!!」

「デザートから先食おうぜ!」


新入生は続々と料理を取りに行く。

湊もそれに続いて、トレイを取り、料理を選んだ。


(変な学園と思ってたけど…割と普通?)


能力者ばかりの学園だから、もっと奇抜なものを想像していたが、料理自体は他の学校とは大差ないように感じた。


空いている席を見つけて、ご飯を食べるその前、


「おい、てめぇ!」


聞いたことがある声が背後から聞こえてきた。

今朝の不良たちだ。


「さっきはよくも俺らに赤っ恥かかせやがったな!」

「ボコボコにしないと気が済まねぇ!」


あの出来事が相当気に食わなかったのか、湊には猛烈な怒りの視線が向けられていた。


湊は、その威圧感にその場から動けなくなっていた。

周りのみんなも、怖いのか助けに来る様子はなかった。


(僕の学園生活終わった…)


湊は絶望してしまった。


そんな時、どこかで聞いたことがある大きな声が聞こえてきた。


「君たち!新入生をいじめるのはやめるんだ!」


突如として、不良たちの前に1人の青年が割って入った。

燃えるような緋色の髪を揺らす、ガタイのいい青年だった。


「何ですか〜?新入生助けて正義のヒーローの真似ですか〜?」

「でしゃばんなよ生徒会長さん。」


不良たちは、前の青年を強く睨みつけた。

周囲はまさに、一触即発の空気だった。


「学食で騒ぐのは校則違反だ!新入生に手を出すなら、相手になろう!」


青年は力強くそう言った。

視線は不良の目を、鋭い視線を真っ直ぐ差していた。


「ちっ…くそが、めんどくせ〜。行こうぜ。」


不良たちは舌打ちをして、そそくさと去っていった。


「君!怪我はないか?」


緋色髪の青年は、ハキハキとした口調でそう聞いてきた。


「は、はい!大丈夫です!助けてくれてありがとうございました!」


湊は感謝を込めて会釈をした。


顔を上げてから青年の顔を見た。

一度見たことがある顔だった。


「あ!さっき野球部の部員募集してた人だ!」

「お!見ていたか!」


彼は優しそうに、しかし力強くそう言った。


「俺は木戸炎虎!野球部のキャプテンと、この学園の生徒会長している!これからよろしくな!」


突然自己紹介を始めた。

彼は炎虎というらしい。

湊はもう一度、感謝を込めてこう言った。


「炎虎さん、今日は助けてくれて、ありがとうございます!」


そう言うと炎虎は強くこう言った。


「もし危ない状況になったら、いつでも俺の名前を叫べ!俺が助けに行こう!」


その一言だけで、強い安心感と頼り甲斐を感じることができた。



「ここを右に曲がって…あれ?左だっけ?」


湊は食事を終えて、自分の教室に向かっていた。

湊は1-αクラスのようだ。

ずっと同じような景色が続く学園に、湊は困惑していた。


「疲れた〜。多分…ここだよね。」


疲弊しながらも、湊は教室にたどり着いた。

中にはすでに半分以上の生徒が席に座っており、近くの人と会話を交わしていた。


(みんな、仲良くなるの早いなぁ)


湊は中に入り、自分の席を探した。

一番後ろの窓から2番目に近い場所だった。


(あ、ラッキー♪)


湊は席に座り、荷物を下ろすと、他の人も続々と教室に入ってきた。

人が増えるほど、交わされる会話も増えていった。


すると、湊は横に気配を感じた。

まだ誰も座っていないはずの窓際の席に。

湊はふと隣に目をやった。


そこにいたのは、ヘッドホンをつけた黒髪の美青年だった。


(えっ…いつのまに!?)


湊は内心どきりとした。

歩く音、荷物を置く音、椅子を引く音、彼の一挙手一投足が聞こえなかったからだ。


湊は固まって、目を背けられないでいた。

すると、隣の青年が振り向き、目が合った。

藍色の美しい瞳だった。


目が合った瞬間、周りの声が不自然にピタッと止まった。

いや、厳密には止まってなかった。

口は動いているのに、音だけが存在していないようだった。


「ねぇ君。」


さらに突然、隣の青年から声をかけられ、ビクッとした。

今日だけで湊は何度驚いたのだろうか。


「そんな驚くなよ。まあ急に話しかけた俺も悪いんだけどね。」


彼は微笑み、落ち着いた口調でそう言った。

湊は恐る恐る彼に聞いた。


「君は…誰?」


「あっ、自己紹介がまだだったね。」


彼はヘッドホンをずらして続けた。


「俺は輝龍院響!」


響はわざとらしく少し大きめな声で言った。

しかし、その声は湊にしか届いていなかったようだ。


「もしかして、この静寂も君の能力?」


湊はそうたずねた。


「そうだよ。音声遮断ノイズキャンセル。周りや自分の音を切ることができるんだ。すごいっしょ?」


響は自信満々に声を張る。


「ちなみに能力は、音を操る響界調和バイブス・ハーモニーってやつね。」


響は何気なく補足をした。


「じゃあ、君はどんな人?」


会話の流れで、響はそう聞いた。


「あっ、僕は白川湊。能力は…電気を操る電荷制御エレクトロ・コントローラーだよ。」

「へ〜、電荷制御か…そうは見えないな。」


(……ん?そうは見えない?)


湊はちょっとした疑問を持った。


「君の音…なんか面白いね。」


響は湊の疑問を切るようにそう言った。


「僕の…音?どういう事?」


湊は頭に浮かんだ疑問を響にぶつけた。

響は少し困った顔をしながら言った。


「うーん…これは俺の感覚的な話だから、言語化が難しいんだけど…君の音は、なんか色んな音が混ざっている気がするんだ。」


響は続けて言った。


「だけど、不協和音ノイズにはなってない。逆に、周りより透き通る、調律された綺麗な音がするんだ。」


響は真剣な眼差しでそう言った。

湊は新たな疑問を響に投げかけた。


「それも、君の能力の効果?」

「いや違う。これは俺の「神眼サイト」の効果だよ。」

「………サイト?」


聞き慣れない言葉に、湊の思考は一瞬止まった。

質問するごとに、湊の頭には新たな謎が浮かび上がってくる。


この学園には、まだ自分が知らない別の理が存在している。

そんな予感だけが、胸の奥に静かに広がった。


これは、まだ序章に過ぎない。

白川湊の学園生活が、今まさに始まろうとしていた。

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