第二話 答えの先にあるもの
「力は、生まれついて決まっているものだけではない。」
律は話し始めた。声色は変わらなかったが、湊は心なしか力強く感じた。
「もちろん才能も大切です。
しかし、それ以上に重要なことは、
"考え、試し、挑み続ける"
ことだと俺は思います。」
新入生のみんなは、律の言葉に真剣に耳を傾けている。
まるで、一言も聞き逃すまいとしているかのようだった。
それは湊も同じだった。
「俺は、常に自分の限界を疑っていました。
そして、失敗を恐れずに何度も挑戦と調整を繰り返して来ました。」
律は過去を懐かしむように、そして少し楽しそうに話を続けていった。
「もちろん、全てが順風満帆にいったわけではありませんでした。
いくつもの壁にぶつかり、何度挫けそうになったかわかりません。」
律は少し微笑んだ。あの時の苦悩を他の世代に共有できたのが、嬉しかったのだろう。
「そんな時、俺はいつも自分にこう問いかける。
"ここがお前の限界点か?お前の探究は終わりなのか?"と。」
律の声は透き通り、しかし深く、講堂の空気に混ざっていった。
「だから、俺がここまで強くなれたのは、常に自分を信じ、"超え続けていた"からです。」
話を〆るように、律は話し終えた。
「少し、話しすぎてしまったかな?」
律は照れくさそうに微笑み、そう呟いた。
律は軽く咳払いをすると、話を切り替えるように口を開いた。
「さぁ。まだ時間はあります。他に質問がある人は?」
その時、1人の男子が手を挙げ問いかけた。
「四天王一位はどんな人なんですか?」
その質問の後、ざわめきは大きくなった。
「確かに気になる!」
「やっぱり強いの!?」
「どんな人なんだろう!」
そんな疑問が新入生から次々と出てくる。
そんな中、その質問を聞いた律は、少し困ったように笑った。
「そうですね…」
律は少し間をおいて話した。
「あいつは強いですよ。
強さなら右に出る者はいないし、容姿端麗、成績優秀なハイスペックです。」
新入生からは、感動の声が漏れていた。
「ですが….…」
律は申し訳なさそうに言った。
「あいつは絶望的なほど方向音痴なんです」
「………え?」
みんなから、驚きの声が聞こえてきた。
「1人になると学校さえ辿り着けずいつも遅刻ばかり。
挙句の果てには、空から学校を探して、見つけたら突撃してくることもあります。」
新入生は、想像と全く違う人物像に、声さえ出なくなっていた。
次の瞬間、
パリーン!!
壁の窓ガラスが激しく砕け散り甲高い音を響かせた。
新入生たちが悲鳴をあげる。
割れた窓から、1人の少女が軽やかに着地した。
長い髪を風になびかせながら、平然と立ち上がった。
「あ、やっぱりここだ。」
散歩にでも来たような軽い口調でそう言った。
新入生は驚きで言葉を失った。
「まさに、こんな感じでね。」
律は呆れたように、ため息をついた。
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突然の出来事に、新入生は唖然として、今の状況を理解できなかった。
「あ、律だ。こんなところで何してんの〜?」
まるで街でたまたま見かけたような口調で、周りのみんなを置いてけぼりにした。
律は額に手を当てた。
「雫…お前な、せめて突撃するなら玄関にって言ってるよな?ここは敵組織のアジトじゃないんだぞ?」
「仕方ないでしょ、入り口わかんないんだし。」
「俺がいない小学校の頃とかどうしてたんだよ。」
「さっきみたいに空からズドーンって。」
2人は軽口を叩くように会話をしていた。
新入生の間に沈黙が流れる。
律はもう一度ため息をついて言った。
「紹介しておきます。この人が噂の四天王一位、神代雫です。」
「えーーーー!!!」
新入生から、衝撃の叫びが広がった。
雫はそんな声を気にもせず、新入生たちを見渡していた。
「へぇ〜、今年の新入生はこんな感じかぁ〜。」
興味深そうに、雫は一人一人を眺めている。
しかし、ある所で雫の視線が止まった。
「……ん?あの子……」
雫は静かに首を傾げた。
その視線の先にいたのは、湊だった。
(もしかして…僕のこと見てる…?)
すると、遠かったはずの雫は一瞬で湊の眼前に迫り、突然声をかけた。
「ねぇ君、ちょっといい?」
「うわっ!!」
いきなり目の前に現れた雫に、湊は咄嗟に声が出ていた。
「なんだよぉ。
驚かれるとこっちも傷つくんですけど。」
雫は少し悲しそうな声でそう言った。
目の前に急に人が現れたら誰だって驚く。
雫はじっと湊の顔を見つめていた。
雫に見つめられ、湊は理由もなく落ち着かない感覚を覚えた。
「似てる……」
雫はふっと呟いた。
「どことなく律に似てる……」
兄の名が出てきてどきりとした。
「そりゃそうだろ。俺の弟なんだしな。」
律は平然とそう言った。
一瞬、時が止まったような静寂が訪れた。
そして、
「えーーーーーーー!!!!!」
先ほどの叫びより大きな声が講堂に響く。
その声は、四天王の2人、そして湊に向けられていた。
「あの四天王の弟!?」
「そんなの聞いてないよ!!」
「噂には聞いてたけど、本当だったのか!」
雫は、小さな声で、何かをぶつぶつ呟いている。
「おかしい…この子だけ、世界の引力が強い…未来を吸い寄せているような…」
湊は何かに集中している雫に恐る恐る問いかける。
「あ、あの…僕、何か変ですか?」
すると、雫は目線を上げた。
「いいや?」
雫は間を開け、意地悪な口調で言った。
「律に似て可愛いなって。」
いきなり言われた"可愛い"という言葉に、初心な湊は戸惑い、少し頬を赤らめた。
「俺の弟を口説くのはやめてくれないか?」
律は怒りまじりにそう言った。
「嫉妬かな?大丈夫だよ。
律も後でなでなでしてあげるから。」
「一発本気でぶん殴ってもいいか?」
雫の声色は、律の怒りに相反してとても楽しそうだった。
先輩に失礼だけど、なんで図太い人なんだと心の中で思っていた。
「はい。これが四天王一位の神代雫です。見ての通り図太いうざいやつです。尊敬なんてしなくていいですよ。」
「みんな〜、僕をあがめたてまつれ〜。」
とことん律の逆をいく雫に、新入生は終始困惑状態だった。
「では、ここで雫さんにはご退場していただきましょう。皆さん、盛大な拍手を。」
律は半強制的に式を進行し始めた。
「え〜〜、まだ居たいのに〜。」
「とっとと出てけうざ女。」
律がそういうと、雫は後ろに後退していった。
でもどこか不自然だ。
後退してるのは、多分雫の意思じゃない。
まるで見えない謎の力に引っ張られているようだ。
「あ〜体が吸い寄せられる〜。これが親友にする所業か!?」
律は雫の声が聞こえていないかのように、新入生の方に視線を向けていた。
「無視すんな〜〜〜〜!!」
雫の抵抗も虚しく、彼女の姿は扉の奥に消えていった。
まるで、嵐が通り過ぎたようだ。
律はことが済むと、安堵のため息をついた。
本日3回目だ。
「さて、ちょっとしたアクシデントがありながらも、無事入学式を終えることができました。」
律は終止符を打つように話し始めた。
律の声は、心なしか初めの頃より明るくなった気がした。
「これから、君たちの入学を祝うため、学食で祝賀パーティーを上げます。新入生たち、俺についてきてください。」
その言葉とほぼ同時に、新入生は立ち上がり扉へ向かう律の後ろに続いた。
律が湊の横を通り過ぎる時、律は湊の目を見た。
まるで、
(こっちに来いよ)
と言わんばかりの目線だった。
そんな律に従い、湊は前列に紛れ前に進んだ。
この学園での未来に想いを馳せながら、湊たちは大講堂の扉を開けた。
「未来を吸い寄せている…」
なぜか、雫のあの言葉が、かすかに律の胸に残っていた。




