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質量保存の記録  作者: ライト
始まりの学園編
2/3

第一話 都立黎明学園

湊の目の前に広がるのは「東京都立黎明学園」通称 始まりの庭。

能力者を育てる世界有数の超名門校。


その校舎は近未来的なガラス張りの建物と歴史を感じる講堂が融合し、空に届くかと思うほど高くそびえ立っていた。


噂には聞いていたが、実際目の当たりにすると、湊はその規模や最新鋭の設備、そして在校生の気迫に圧倒され、胸の鼓動が耳元で聞こえると思うほど高鳴っていた。



周囲には生徒と思われる人たちが立ち止まり、思い思いの時間を過ごしていた。


ヘッドホンで音楽を聴いている人、大きな声で野球部への勧誘をしている人、無数の女子に囲まれているクールな人、どこをみても個性的な人ばかりで、眺めるだけでもワクワクしてくる。


これから始まる学園生活を思い描きながら、湊は初めの一歩を踏み出した。


湊が大講堂の扉をくぐると、そこに広がっていたのは、まるで異界の神殿のように美しく壮大な聖堂だった。


整然と並ぶ新入生たち、音楽隊の演奏、幾千の星の様に輝き、天井から垂れるシャンデリア、どれも湊の想像を上回っていた。


「うわぁ……すごいな。噂の通り、いや噂以上だよこんなの。」


講堂に満ちた迫力と音楽は、湊の高鳴っている鼓動さえかき消すほど大きかった。


大講堂の空気は、ただでさえ熱気と気迫で張り詰めていた。


しかしそんな中、1人の男が壇上に登ると、先程までの喧騒が嘘の様に鎮まり、皆前の者に注目した。

湊もそのまま壇上を見ると、思わず目を留める顔があった。


「……お兄ちゃん?」


学園四天王2位、そして、湊の兄である「白川律」である。

壇上に立っている兄は静かに新入生を見渡していた。


落ち着いた視線、整った姿勢、何より、常に全力を尽くす者のみが纏う威風堂々とした空気がそこにあった。


皆の視線は自然と律に吸い寄せられ、思わず息を呑んだ。

その瞬間は、まるで律が世界の中心に立っているかのようだった。


そして、律は静かに語り始める…


--------------------


「あ、あー。皆様、聞こえていますか?

ハロー。」


律の落ち着いた声が、大講堂に響き渡った。

広い会場だったはずなのに、律の透き通った声は、不思議なほどはっきりと聞こえた。


少しざわついていた新入生たちの声も、いつのまにか消え、誰もが壇上の彼に目を向けていた。

それは湊も同じだった。


(やっぱり…お兄ちゃんだ…)


毎日見ていた背中なのに、今目の前に立っている姿は、どこか遠い存在のように感じた。


「俺は白川律。

この学園で、四天王二位という称号を持っています。」


その言葉に、新入生は小さくざわめいた。


「え、あれが四天王の白川律!?」

「歪みの調律者の異名を持つあの!?」

「まじかよ…」


そんな驚きの声が、男女問わずあちこちから聞こえてきた。

湊は思わず肩をすくめた。


(家ではいつもご飯を作ってくれる、あの優しいお兄ちゃんが……四天王!?)


すると、律は続けて言った。


「本来は、四天王一位の者が登壇する予定でしたが、本日は欠席のようなので、僭越ながら俺が出てきた、と言うわけです。」


圧倒的強者の風格を纏いながらも、他者への敬意と謙遜の姿勢を忘れない美しい立ち振る舞いに、会場の誰もが目を奪われていた。


しかし、壇上の律はそんなざわめきを気にすることもなく続けた。


「今日は、皆様のご入学をお祝いして、俺から一つの応援の言葉を送ります。」


律はコホンと一つの咳払いをして、新入生の方に視線を向けた。


「努力は必ず報われるとは限らない。」


その言葉に、会場の空気がわずかに揺れた。

希望に満ちていた新入生の表情に、ほんの少し戸惑いが浮かんだ。


「ただし、焦る必要はありません。」


それに相反して、律の声は優しく穏やかで、不思議と安心感を感じられた。

その声に、ざわめきは次第に小さくなった。


湊は思わず息を呑んだ。

家で見る姿とは違う…堂々とした姿だった。


「報われない可能性があるのなら、それを一つずつ潰して行けばいい。」


律は、身振り手振りも交えて言葉を淡々と紡いでいく。

決して大きな声ではなかったが、その言葉の一つ一つに、とてつもない重みがかかっている気がした。


「この世に絶対はない。」


周りの空気が、ぴんと張り詰める。


「だが、不可能も存在しません。」


その瞬間、まるで全員の視線が律一人に吸い寄せられたかのようだった。


湊の胸が、わずかに高鳴る。


「地道な挑戦を続ける事で努力は真に報われる。」


律はそこで一度言葉を切り、少し微笑んで、終わりを告げるようにこう言った。


「それだけでも覚えておいてください。」


話し終えると、律は静かに頭を下げた。

その瞬間、講堂には割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


(すごいな…お兄ちゃん。)


いつかあの場所に立つ。

そんな決意が心の中で密かに燃え始めていた。


「俺に何か質問はありますか?」


律は響き渡る拍手を区切るように話を切り出した。

その後、大きな拍手は小さなざわめきへ変わった。


そんななか、1人の男子が手を挙げた。


「そこの君、挙手ありがとう。質問をどうぞ」


その男子に、律は視線を向けた。


「どんな能力を持っていますか?」


律は優しく答えた。


「磁力を操作する磁場支配マグネット・ルーラーです。」


それを皮切りに、手を挙げる新入生が増えてきた。


「彼女はいるんですか?」

「いませんよ。絶賛募集中です。」


律は、微笑みながら肩をすくめながら答えた。


「四天王になって良かったと思う経験は?」

「いろいろありますけど…学食のメニューが安くなったことですかね」


ちょっとした雑談も入り交ぜながら、律は質問に答えていった。

そんな中、湊は迷っていた。


(僕も質問してみようかな…でも、何を聞けばいいのか…)


胸の中では、いつの間にか熱い決意が芽生えていた。


湊は手を挙げていた。

小刻みに震えた手だったが、それでも真っ直ぐに伸ばしていた。


その後律は、手を挙げた自分の弟を見つけた。

緊張が伝わってくる手の挙げ方に、思わず軽く微笑んだ。


律は表情を整え、湊をじっと見つめた。


「そこの君、質問をどうぞ。」


声色はいつも通り落ち着いていた。

誰にでも分け隔てなく接する律の態度から、兄の優しさが自然と伝わってきた。


湊は一つの深呼吸をして、言葉を絞り出した。


「お兄ちゃ…いや、あなたは、どうしてそこまで強くなることができたんですか?」


律は目を細め、わずかに頷いた。

まるで、長年見守ってきた弟の成長を、今ここでひしひしと感じているかのようだった。


「いい質問ですね。その答えは…説明するには少し長くなるかもしれません。興味があるなら、最後まで聞いてください。」


小さなざわめきの中、湊の鼓動は小さく高鳴った。

あの場所に立つ決意が今、確かに心の中で燃え上がった。

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