隻眼の鑑定屋
カップ麺のちぢれ麺みたいのがたまに無性に食べたくなる時がある。
明くる日、時刻は既に真っ昼間の12時を回り、ただ労働者の体内時計を回すためだけに作られた人口光が壁のわずかな隙間から差し込んできていた。あんなに疲れていたんだから、仕方のないことだ。それにまだ1日は半分もある。気に病むことはないさ。
なんて言い訳を考えはするものの、まぁ、要するに、ロウは寝坊したのだ。
「ったく、ここは寝心地が最悪だぜ。あちこち痛くてしょうがない。」
体を捻りながら立ち上がったロウは先日の出来事が夢でないかと確かめるように鞄の奥に沈んだ機械をまるで宝石を愛でるように丁重に、そして確かに実在することを確かめるように触りながらつぶやく。
「鑑定屋のオッサンに持って行ってみるか。もしかしたら掘り出しもんかも知れねぇ。」
そういうと寝起きでふらふらした足取りで歩き出した。
しばらく線路沿いを歩き続けると町が見えてくる。町、といっても所謂スラム街だ。上階を追い出され、日々を日雇いや盗みで生きていくような奴らの集まる町。まぁ、俺もその一員なわけだが。
「よう、久しぶりじゃねぇか。」
町の端の端。暗い雰囲気が漂う半地下の建物。パイプでびっしりと覆われた重い扉を開けると、金属と油のつんざくような匂いと共に、片方だけの目玉をこちらに向けて、挨拶が飛んできた。彼の名はオリバ。ロウなどの回収屋が持ってきた機械を鑑定し、買い取ったり改造したりする鑑定屋と呼ばれる者だ。彼はその中でも1番の目利きであると評判で、その緑色のガラスで覆われた右目はどんな細かい傷でも見逃さない。もちろん、金の気配も。
「何だ、灰まみれじゃねぇか。体ぐれぇ拭いてこいよ。うちの商品はみんな珍しい、非売品レベルの宝何だからよ。」
「誰も欲しがらねぇガラクタだから残ってんだろ。非売品ってのは合ってるかもな。誰も欲しがらねぇから。」
実際、使い道もわからないような奇怪な機械(回収屋ジョーク)だらけでもはや足の踏み場も無い。
「今回はどうだ、おもしれぇもんは見つかったか?うちはつまんねぇもんは受けとらねぇぜ」
「わかってる。今日はそんなてめぇの為に良いもん持ってきてやったぜ。」
そういうとロウは古びた鞄から例の機械を取り出した。それは未だ美しい輝きを見せ、それでいて夜の霧を纏っているかのように厳かだった。
それを見た途端、人が変わったかのように急に黙り込んだオリバは、一息置いてから慎重にそれに手を振れる。まるで爆発寸前の爆弾でも触っているかのように丁寧に、顔を近づけたり手で触れてみたりしていた。そうしてしばらくの沈黙の後、彼は暗い顔をして言った。
「これ、、、どこで見つけた?」
「さあな、教える必要があるか?」
彼は黙って装置に手を振れる。金属の冷たさを指先で確かめるだけで、そこにいつものうるさいまでの機械オタクなオリバはいなかった。
「……お前、本当に何も考えずに持ってきたのか?」
「持って帰るのに必死だったのさ。そんなにヤバいもんなのか?」
男は小さくため息をつき、装置を棚に並べられた古い計測器の上に置く。
「はぁ、全くお前ってやつは、、、昔からそうだ。昨日のサイレンはお前の仕業だな。」
「さぁ、どうだったか。」
図星である。精一杯おちゃらけた顔をして誤魔化す。後から考えれば少し滑稽だったな。自分でさえなければ。
「...次の探索はいつだ?」
隻眼の大男は静かに問いかける。
「さぁな、付いてくるつもりか?」
「いや、俺はもうあまり動けん。無理が祟ってな。」
「なぁ、ロウ。この装置はウチで買い取る。それも通常の倍で買おう。」
「何を考えている?」
こういう時は碌なことがない。以前は買取額を上げてやると言ってアンドロイドと戦わされた。
「その代わりだ。次の回収、俺の仲間を連れて行ってくれねぇか。」
「...仲間、だと?」ロウは目を細めた。
「悪い話じゃないはずだ。お前がよく知っているやつを選ぶし、護衛にもなる。なぁ、いあだろう?」
このオッサンにここまで言われたのは初めてだ。いつもこき使ってくるくせに、こういう時は大抵何か企んでやがるんだよな。まぁいいか。邪魔するようならぶっ飛ばせばいいだけだ。仕事に支障はない。こいつを怒らせる方がよっぽど恐ろしいからな。
「いいぜ、ただし」
「仕事の邪魔はするな、約束は果たせ、だろ?」
ロウの言葉を遮るように奥から珍しい美しい金髪を下ろした青年が現れた。
「よくわかってるじゃねぇか。3年ぶりだってのによ。」
「そうだね。それ程に君は成長していないということだよ。」
あぁ、こいつは嫌いだ。昔から事あるごとにこいつとタッグを組まされて仕事をしてきた。まさか、今回の仲間って?
「おぉ、ちょうど良いところに来たな。わかってると思うが、今回お前が背中を預けるパートナーだ。」
俺は深くため息をついた。
「ため息とは心外だね。仮にも2年間一緒に仕事をした仲じゃないか。」
「2年間お前の自慢話とナルシストを見せつけられた仲、だ。」
「ふふふ、またまた。面白いことを言うね。」
「なら、改めて自己紹介させてもらおう。僕の名前はデオン。デオン・クィンさ。ところで僕は、、、まぁ、ちょっと華々しい活躍をしていてね、聞かせてあげようか。僕の武勇伝を。」
「わかったわかった。パートナーは引き受ける。ただ今日のところは勘弁してくれ。お前の話はなげぇんだよ。」
「ふふ、そうかな。」
「仲が良さそうで何よりだ。探索も頼むぞ。」
オリバの一言に苛立ちを覚えたが、今はとにかくこいつから離れたい。ロウは言い返しもせずに店を背にして歩き始めた。
全く、こいつらもあの装置が引き寄せてきたんだったら飛んだ災難だ。古来、美しいものは厄を呼んでくるというが、ナルシストを呼ぶとは誰も思うまい。店を後にしたロウは思い足取りでアジトへ戻るのだった。
またねー




