回収屋ロウ
少しづつでもいいから、話が進むといいなぁ。
閉ざされた街に夜が来た。
街の至る所を走る古びた配管は激しい呼吸をあたりに響かせながらその役目を果たしている。ろくに手入れもされていないであろう歯車は一歩一歩踏みしめるようにその身を軋ませていた。
そんな夜が深みを増してきた頃だった。
深い霧の中ぼんやりと光るガス灯が、1人の男を照らし出した。
「都市時刻0時26分か。やはりこいつももう寿命か?」
そう言って男は自身の右腕を覗き込んだ。
暗いローブから覗かせる腕は、とても暗く、冷たかった。どうやら義手のようだ。時計はずれているらしい。その証拠に街の時間を知らせる大時計は丁度日付が変わった事を知らせる鐘を鳴らした。
「今日は市民奉仕の日だったな。いつもこんくらい人気がなきゃ、仕事も楽に出来るんだがな。」
そういうと彼は古びた建物を物色し始めた。
男の名はロウ。崩壊した区画から珍しいものを物色しては盗んで売り捌く(盗んでも誰も困らない物ならそれは盗みじゃないのさ「本人談」)ことを生業とする、所謂回収屋と呼ばれる者である。
その手慣れた動きで機械を分解し、回収する。
いつもやっていることだ。何も変わらない日常。
そのはずだった。
低く、腹の底に響く音。歯車の軋みでもなければ休みなく動き続けるピストンの弾みでもない。これはーー
「まずいな、ちっと調子に乗っちまったみたいだ。」
そう呟くとロウは咄嗟に今来た方へ身を翻すが、南無三、一瞬遅く、建物が悲鳴を上げ崩れ落ちた。元々まともに手入れもされていない地域だ。こんなことがあってもおかしくはない。ただ不運だったのは脚を蹴り出すための地面までもが砕けたことだ。石と鉄とが混じった瓦礫が重力に引きづられるように落ちていく。もちろんそれは人も例外ではない。
須臾の間を永遠に感じるほどに落ちたのか、脳は今正に落下していることを認識していなかった。いや、おかしいな。落ちているにしては何も感じないじゃないか。本当に落ちているのか?
ロウが目を開けると、そこでは不自由なはずの右腕が剥き出しのパイプを掴み彼の体重を支えていた。
金属が潰れる音。義手の力は今までにないほど強く、しっかりと壁を掴んでいた。
「今日は随分調子がいいじゃねぇか。」
義手が役に立つのは今日に限ったことではない。ただーーこんなに強く掴めたのかと驚いただけだ。
呟きと共に体を引き上げると、直ぐに建物は完全に崩落した。土埃と霧が混ざり合い視界を覆う。
暫くして霧が薄れると、そこに何やら輝く物が転がっていた。それはまるで、太陽のように力強く、そして宝石のように美しい「何か」であった。
見たことも、聞いたこともない装置。大分古いが、新しくも見える。周辺を見回してもそれに合った機械は見つからなかった。
仕方なくそれを拾うと、義手に何か軋んだような気がした。内部の圧力か、整備不良か、、、。やっぱり寿命か?
「まぁ、気のせいだな。今日は調子がいいしよ。」
そう判断し、とりあえずその「何か」をバッグに放り込み、呟くように言った。
「こんな目にあったんだからお宝の一つや二つ貰ったってバチはあたらねぇだろう。」
はやる気持ちを抑えつつ、帰路に着こうとした時だった。
ーーープツン
あまりに突然の出来事であったために理解するのに時間がかかったが、次第にわかってきた。都市の音が、光が、その呼吸が。
「止まった、、、?」
地震も竜巻もないこの都市で突然の停電などあり得ない。あり得るはずがない。
一瞬の静寂の後、都市にサイレンの音が響き渡った。ロウは、彼はこのサイレンを知っている。「奴ら」がやってくる予兆だ。急いで逃げなくてはーーー
幸い、灯りの消えたこの街をまともに歩くことなどできなかったのか、追っ手に遭遇する事なくアジトに戻ってくることが出来た。
都市の階層を繋ぐ機関車のトンネル。その使われなくなった管理用の部屋が彼のアジトだ。都市は日に日に広がっていく。「奴ら」の手によって。そんな奴らに過去の廃墟など眼中にないのだ。埃まみれのローブを脱ぐと、直ぐにベッドに倒れ込んだ。ベッドといっても木の箱に布を敷いただけの簡素な物だが、いつ追いつかれるかわからない緊張から解放されたロウにとって休憩するには十分すぎる代物だった。あぁ、今日は疲れたな。時間はもう5時を回っている。眠りにつく瞬間、ふと右腕に何かを感じた気がした。重い、というほどでも無い。ただ、そこに何かが残っているような、そんな感覚。だが、もう立つ気力もない。装置のことは起きたら調べよう。
そう思い立つと同時にロウの意識は深い闇の中へと落ちていった。
何だったんですかね、この駄文は。
深夜のラブレター症候群にかかっていたのなら、もっとロマンチックな分でも書けばよかったと思うんですけどね。




