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08 瑠夏の秘密


 

 今日も地獄の訓練をこなすために、俺はマーモットへ行く。

 学校が終わると、毎日だ。

 瑠夏と別メニューの俺は、ナドカさんに連れられて地下射撃場へ。今日から射撃の訓練らしい。


 ようやく俺のグリードが発揮される時が来たようだが俺は不用意に浮かれないようにしていた。

 今まで散々期待しては梯子を外されてきたのだ。もしかしたらロケットランチャーをダンベル代わりに筋トレさせられるかもしれないし……。とりあえず体力訓練や組み手でさすがにメンタルがやられかけている俺はちょっと鬱。


「まずは拳銃からだ。本来なら撃つ前に教えることは色々あるが、お前の欲の力(グリード)の効力を見たい。一〇ヤード先。あの標的をこれで撃て」

「はい」


 ちゃんと撃たせてもらえるようで、俺はホッと安堵の吐息を漏らした。


 簡単な銃の取り扱いは教えてもらったが、撃つ時の姿勢とか、構えとか、コツ的なことはまだ何も教えてもらっていない。いきなり撃たされるのは、俺のグリードがどこまで影響を及ぼすのかを確かめるためらしい。

 ずっと石を投げ続けてきた俺としては、どういう結果になるのか大体わかってはいたが。

 

 一〇ヤード──九メートルちょっとくらいの距離。

 確かに、いくら筋力がついてきたとはいえ中学二年生。俺の腕力では、この拳銃は重いと感じる。

 というか、大人であろうがきっと普通は両手で持つんだろうな。精密に的を狙おうってんだからちゃんと両手で構えるのが常識だと思う。

 だけど、どう持とうが外れる気はしなかった。


 拳銃を片手で持った俺は標的に集中し、トリガーを引く。

 パン、と軽い音。

 マズルと呼ばれる銃の先端が跳ね上がったが、その具合とコントロールもなんとなくわかった。

 標的のど真ん中に、穴が一つ開く。


「……よし。次は二五ヤードだ」

「はい」


 さっきの標的よりも遥かに先、およそ二三メートルほどのところにある標的を指示された。

 まあだからといって何かが変わる訳じゃない。

 同じく片手で拳銃を構えて、他人から見たら無造作としか言いようのないタイミングで射撃する。


「これじゃ訓練になりませんね」


 ようやく、目を見張るナドカさんの顔が見れた。

 組み手でやられっぱなしだから、やっと良いところが見せられたらしい。


「標的を動かす。それを順次狙っていけ」

「はい」


 二五ヤード先にある標的たちが動いている。

 その速度はまあまあ速く、まともな人間が狙ったら苦労するだろうな。だが、それらがいつどこにあるか(・・・)が俺には解る。

 もちろん標的の動きだけじゃなくて、的に当てるために必要なことは何もかも全て解っている。


 眼が標的を捉え、それを脳が認知するまでのタイムラグ。

 脳が命令を出し、それから指を動かすまでに必要とされる神経伝達時間。

 トリガーが引かれてから弾が銃身を離れるまでの所要時間。

 マズルジャンプによる弾道への影響。

 銃弾の初速と減速率、減速による弾道の変化。

 片手で持つことによる銃の揺動。


 この世を統べる物理法則の全てがこの手の中にある感覚。

 何がどうなろうが、絶対に外すことはない。


「……マジか」


 最後まで片手のまま、全ての標的の真ん中に穴をあける。

 一言だけ呟いたナドカさんは、しばらく俺を見て立ち尽くしていた。


◾️


 結局、少しくらい銃が重くても、照準合わせのコツを全く知らなくても、命中率には全く影響しなかった。俺的にはとっくに分かってたことだけど。


 ただ、さすがに自分の筋力を超えるものは持てないし、無理をすれば筋肉痛になったり(スジ)を痛めたりする。

 つまり、そういう意味で射撃訓練による慣れや筋力強化は日課となった。


 そして、技術レベルの向上が必須なのは、弾丸の装填や撃鉄を引く動作など。これらには俺のグリードが適用されないからだ。


「それで言うと、銃が手元にない場合の対処がやはりお前の一番の課題になるな。射撃訓練はいろんなバリエーションで欠かさず行う必要があるが、それと並行して組み手で危機を凌いで逃走する訓練はシビアに考えろ」

「げっ……」


 ……と、いうわけで。


「おらっ! 見え見えなんだよその攻撃は」

「ぐえっ」


 喉輪で距離を離される。

 瞬間、死角から腹に蹴りが飛んできた。

 腹を手で押さえながらゴロゴロと転がる。俺は、吐きながらのたうちまわった。


 組み手はやばい。マジでこのままじゃ死ぬ。

 魔法がありゃ指一本すら触れさせずにコテンパンにしてやるが、ここは魔法なんて存在しない世界。

 それに、組み手のルールに武器は無し。

 だから、俺の欲の力(グリード)は使えない。

 

「ここまでだ。この後、事務所でグリードに関する話をする。一七時まで休憩。遅れたら腕立て五百回だ」

「……はい」


 這うようにしてベンチへ。

 こればかりは練習してもすぐには良くならなかった。地道な訓練しか手段のない道だ。

 しかしこうも滅多打ちにされると、さすがにムカついてくる。もしかして俺でストレス解消してんじゃねーのかあの人。


「そうちゃん、大丈夫?」

「見ていて大丈夫だと思うか。マジで死にそうだ。毎日毎日、馬鹿みたいに殴られて」


 俺は深いため息を吐く。


「……ごめん。あたしが、こんなところへ連れてきたから」

「アホか。なんでお前が謝るんだ」

「だって。蒼真はずっと忘れてたのに。あのままだったら、こんな目には遭わなかった」

「思い出せて良かったと思ってるよ。そこの前提は絶対だ。だから後悔もしていない。お前だけがカイとルナの復讐を願ってるなんて思うな。俺だって同じなんだよ」


 最優先すべきは今生きている瑠夏を護ることだというだけで、たった今口にした言葉も嘘じゃない。

 だけど、あまりにもストレスが溜まりすぎて感情が制御できていない。

 いくらなんでも言い過ぎだ。

 でも、瑠夏は怒らなかった。


「……うん。ごめん」


 これは謝らないといけないな。

 

「……すまん。ちょっと気が立ってて」

「ううん。……もう時間だよ。行こ」


 事務所に座ると、ナドカさんの話が始まった。


「今日はお前たちも知っての通り、欲の力──グリードと呼ばれるものについてだ。座学とかじゃない。お前たちの、これからのことだ」

「これからのこと、ですか?」

「そうだ。蒼真、瑠夏がどうしてお前を俺のところへ連れてきたか、その理由をきちんと伝える」

「いや、もちろんもう知ってますよ。紫眼の魔女を倒すには魔物と戦う戦闘能力が必要だ。だから、軍人として戦ってきたナドカさんに、実戦的訓練と称してボコボコにしていただいてるんでしょ」


 またイライラしてしまって、俺はつい皮肉ってしまった。

 でも、ナドカさんはこういうことで感情的になったりしない。


「そうだ。だけどな、それはあくまでおまけなんだ」

「え? そうなの? 俺っておまけでこんなキツい訓練させられてんの?」

「もちろん、それも全部必要なことさ。だが、最もお前に必要だったのは、銃だ」

「それはそうでしょうね。瑠夏は弾に威力を出せるから」

「ああ。お前が『モノを的に当てたい』と願ったからだよ。だから瑠夏はそういう願い事にしたんだ。その範疇で最も攻撃力を出せるのは銃だと判断した。瑠夏が俺のところへお前を連れてきた理由は、単純に、銃が手に入るからだ」


 それは最初から瑠夏が俺に説明していたことだ。

 だから「今さら何」としか思わない。


「それがどうかしたんですか。もったいぶらないでもらえます? もう少し休みたいんですけど」

「まぁ最後まで聞け。そうまでして威力を出したいと切実に願った瑠夏の能力の特質について話すと言ってるんだ。ここからは、瑠夏、お前が自分で話せ」

「はい」


 なんだよ。

 ちょっと大仰な感じだな。


「あのね。あたし、この力を望んだ時にね、力を込める弾の種類や威力に、制限を作らないでほしいって神様に願ったの」

「はあ。なんかよく分かんないけど。制限? つまり、無限に強くできるとか、そういうこと?」

「うん。あの天使は、世界最強とまで呼ばれた大魔導士のあなたと聖女のあたしが二人揃って足元にも及ばなかった。普通の手段で倒せる相手じゃないから」

「そりゃ、まあ。だから?」

「どんな犠牲を払ってでも弾に込める力に妥協はしない。それがあたしの願い。だから、あたしが力を込めた弾はあらゆる防御措置を無効化するし、その気になればたった一撃でこの星すら消し飛ばす。それと引き換えにね、弾に力を込めるとき、あたしは相応の寿命を消費するの」

「ん? 寿命?」

「そう」

「何言ってんの?」


 瑠夏の言葉は宙を舞い、まだ俺の頭に入ってきていない。

 そんな感覚だった。


「たとえばね。あたし、どんな形にしようかずっと考えてたんだけど、威力を級別にするのが分かりやすいかなって思ったんだ。だから、案としてはあたしの寿命を一日分込めた弾は四級魔弾、一〇日分込めた弾は三級魔弾、三〇日分込めた弾は二級魔弾、一年分込めた弾は一級魔弾、任意で決める場合は特級──」

「何言ってんだって聞いてんだよ!!!!」


 何言ってんだ。

 わけわかんねーよ。


「お前、俺とずっと二人で特訓してたじゃねーか。あれはどうなんだよ。あれも寿命を削ってたってのかよ」

「うん」

「はあ? …………はあっっ!?」

「ごめん」

「ごめんじゃねーよ! 何勝手に決めてんだ! なんで俺に相談しねーんだ!!」

「相談すれば。きっと、そうちゃんは反対するから」

「するに決まってんだろ!! 俺があの天使に弾を命中させれば倒せるかもしれねーじゃねーか!! なんで勝手に、」

「普通に当てただけじゃ絶対に倒せない。あの時あなたの魔力は、全て紫眼の天使に命中した。でも、あいつは全く意に介さなかった。間違いなくあの天使の持つ特別な加護が影響してると思ったの。それを貫く必要があるから。そしたら、あの神はこの条件を出してきて」

「あのクソッタレが……どこまで」

「本当にね。でも、だからこそあたしのグリードがあの天使の防御措置を全て無効化できるっていうのは百パーセントなの」


 じっとしているのが無理なほどに、怒りで体が震える。


 神だって?

 あいつこそ悪魔じゃないか。


「そうちゃんはあの女に弾を当てるために、厳しい戦いをしなきゃだから。お互い様(・・・・)だよ。あたしには、これくらいしかできないから」


 当たり前みたいに言うな。

 違う。俺は、そんなこと望んでない。

 お互い様だなんて、そんな意味で言ったんじゃない。

 俺は──……


「あたしは絶対に、あのクソッタレ天使を殺せる弾を作る。だからね……絶対に、うまく当ててよね?」


 そんな俺の本心を今さら口にしたところで、とっくの昔に手遅れだ。

 久しぶりに見た瑠夏の狂気が、瑠夏を護り抜きたいという俺の切なる願望に情け容赦なく影を差す。


 敵と戦えば戦うほど、瑠夏は命を削られる。

 紫眼の魔女にトドメを刺せるほどの弾。一体どれくらいの寿命を使わなければならないんだろうか。


 泣き出しそうな俺とは正反対の、乾いた瞳だ。

 もうずっと前に自分の命なんて諦め、ただ一つのことだけを成し遂げようと決意している。

 だから瑠夏は、紫眼の魔女から逃げることは絶対にしない。俺が協力しなければ、全寿命を込めた石を自分で投げてでも戦おうとするだろう。

 紫眼の魔女を倒す方法も、瑠夏の命を護り抜く方法も、これでただ一つだけに絞られた。


 最小限で倒すしかない。

 必要最小限の威力で。

 必要最小限の弾数で……。


 


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