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57 階段室の作戦会議(美咲視点)

 

 会議室を出ると、何人かの構成員が呆気に取られたようにこちらを見ていた。

 さっきの立ち会いは派手な物音がしたはずだ。こいつらは間違いなく異常事態に気付いているだろうと思う。すでに桐谷へ電話された後かもしれない。


 ただ……そうだとすると、直ちに「支配」を発動されているはずだ。

 まだわたしたちが自由に動けているところからして、桐谷には伝わっていないのだろうか?

 

 ソファーに、人間ベースの虎獣人がいる。そんなにイケメンってわけじゃないけど、なかなか愛嬌のある顔をしてるし会話が面白ければ十分モテるだろう。

 もう一人は全身が中世ヨーロッパから出てきたような鎧兜。なんだろう。死霊系のやつだろうか。それか中に誰かが入っているのだろうか。もはやこいつは喋れるのかすら不明だ……とわたしが思案していると、お兄ちゃんも同じことを考えていたのか話が通じそうな虎のほうへ喋りかけた。


「何見てんだコラ」


 それって喋りかけたの範疇に入んの、っていうのは無しで。だって、どう話しかけるかが難しいなあってわたしも思ってた。


 戦闘が始まる前、清姫は戦うつもりじゃなかったはずだ。

 バッファローも会議室へ入ってきた後に事態を把握したようだったし。清姫とバッファローはこのことを外へは知らせていない。

 すなわち外の奴らからすれば、会議室の中から派手な物音だけが聞こえた状態。

 聞こえたのに応援にも来なかったってことは、こいつらわたしたちが喧嘩でもしたと思ってビビってたのかもしれない。だって、入ってしまったら戦うしかないだろうから。なにせここは暴力団の事務所だ。舐められたら終わりだからな。


 その辺りを勘案して、お兄ちゃんは様子見のコミュニケーションを仕掛けたんだと思う。……いや思いたい。


「……何かあったのか?」

「清姫とバッファローがいきなり襲いかかってきたからな。ちょっとお仕置きしてやっただけだ。向こうが悪い。桐谷様には報告したのか?」

「……清姫を? アランはともかく、清姫をやったってのかよ」

「何無視してんだコラ。お前も叩きのめすぞ」


 相手のペースに乗せられないってのは基本だが、この対応は強者だからこそ通用する。わたしたちが実力で清姫を倒したのは会議室に入ればわかることだ。負けるかもしれない相手を怒らせるのは得策じゃないからこいつらは大人な対応のフリをして引いた。

 ってか、「お仕置き」って。完全にぶっ殺したけどね……。


「電話はしたがな……お出になられなかった。お休みになられるとのことだったから、マナーにしているのかもしれん」

「そうか。俺たちは、これから桐谷様の命によりウェジーとかいう蝿を叩いてくる。桐谷様が来られたらそう伝えろ」

「ウェジー? なんだそれは」

「お前らはそんなことも聞いてないのか? 桐谷様に楯突くエージェントどもだ」


 こいつらは、あまり深い事情まで知らないのかもしれない。

 だとすると案外こちらが何を言っても真偽を見抜けないのかもしれないと思った。


◾️


 わたしたちは何食わぬ顔で六本木スローンズのテクノポリスを出て、地下通路を通ってブレスト・レジデンスへ向かった。桐谷はわたしを部屋へ呼ぶ気だったから部屋番号は予め聞いている。


 わたしたちが命懸けでイージスを消去しても蒼真くんの準備が遅れてたら意味がない。ってか、そもそも本当にちゃんと来てくれてるか確かめないとね。

 だからわたしは、移動の最中に蒼真くんへ電話をかけた。


「……もしもし。蒼真くん? わたしだよ、美咲。……え?」


 話を聞くと、蒼真くんはもう都庁の屋上でスタンバッてるらしい。良かった。安心した。

 そこから一部始終を見てたから説明不要、いつでも狙撃できるって言ってた。スゲーな魔眼。でも、まだ待ってるんだって。

 その理由を聞いたら、彼はすごいことを言った。「狙撃の弾には瑠夏さんの寿命を使う。このままだと瑠夏さんの命をめちゃくちゃ消費しなきゃだから、お前らがシズカの盾を何が何でも解除しろ」だってさ。


「……ふふ。あはははっ。ほんと君は面白いよね。なんでそんなこと馬鹿正直に言っちゃうの? 黙っててもわたしたちは行く予定だったんだよ、魔眼で見てて知ってたんだよね? ……なら、わたしたちがイージスを解除したら依頼料は大幅値引きしてもらうからね!」


 好きにしろ、だって。

 ふふ。ほんと馬鹿だ。どうせあいつタダ働きする気だよ。じゃなきゃ、わたしに夜の店で働かせなきゃいけないから。

 瑠夏さんの命を使うって? 馬鹿言ってんじゃないよ。

 余計な命の消費なんて、絶対にさせない!


 電話の声は、近くで聞き耳を立てていたお兄ちゃんにも聞こえてた。ニヤッと口元を歪めた様子ですぐに分かったよ。

 意志は共有できている。この命に代えても敵を討つ覚悟だ。

 なんだろ。なんでこんな男前な思想に浸ってんのわたし? これが竜人のメンタルなのかな。


 ブレストレジデンスの入口──地下通路からの扉を穏やかに通過するためには、剛毅かシズカに開けてもらわないといけない。が、もちろんそんなことはできない。

 ということで正面突破。


「まっ、待ちなさい! ……侵入者! 不法侵入者だ!」


 警備員に見つかった。

 しかし仕方がない。なにせ時間がない。手口は銀行強盗と同じだ。風のように押し入って本丸まで一気に詰める必要がある。

 認証が必要なエレベーターは使えないので選んだのは非常階段だ。


「四〇階まで一気に駆け上がるぞ」

「うん。でも、作戦どうする?」

「二つ、問題があるんだが」

「うん? 問題って?」


 魔人化したことで格段に体力が向上している。この程度の階段、喋りながらでも息を切らせることなく駆け上がれる。


「一つ目は、桐谷剛毅とシズカ、イージスがどっちに張られてるかだ」

「どっち? 二人ともに張ってるんじゃないの?」

「通常、シールドってのは誰かを基準に張るものだ。低級シールドなら二人同時もあり得るがあれほどのシールドを並行稼働するというのは無理がある。その証拠としてシズカは四六時中桐谷のそばを離れないだろ。とりあえずシズカのグリードであることは間違いないが、桐谷剛毅を中心にしているのか、それともシズカを中心にしているのかで作戦行動は一八〇度変わってくる」

「イージスって、攻撃したらどんな感じになるのかな」

「一度だけ襲撃されたところを見たことがある。その領域内では全ての攻撃が無効化される感じだった。弾丸ですら停止する。無敵領域が半径五メートル程度だとしたなら、仮にシズカに張られていたとしても少なくともそれ以上桐谷を引き離さなければならないことになる」


 階段を駆け上がる速度、お兄ちゃんにもついていけることにわたしは自信を持っていた。

 お兄ちゃんは豹だけど、わたしは竜だ。

 あれ? これってわたしのほうが強くなっちゃったんじゃないの? 豹と竜だよ?


「……おい。聞いてるのか」

「あ、はいはい。その点に関しては、なんか分かる気がするんだよね」

「あ? どうしてだよ」

「ん──……なんとなく。それより、どうやって二人を引き離す? そっちのほうが問題だよ。離れた時点で危険だってのはあの二人が誰より分かってるはずだから、そう簡単に離れてくれないでしょ」

「それが二つ目だ。幸運なことにあいつらは俺たちが清姫を殺したことを知らないだろう。だが、そもそもシズカは俺たちのことを信用していない。玄関先でチャイムを鳴らして素直に一人で出てきてくれるとは思えない。玄関ごと破壊すれば間違いなく桐谷本人が気づいてしまう。シズカを殺す時間は無くなってしまうだろうな」

「しかも、仮にシズカが一人で玄関ドアを開けたとして、剛毅が寝入ってるとかじゃない限りドアを開けたと同時に瞬殺しないとダメだしね」


 不思議な感覚だ。

 こんな速さで階段を駆け上がってるのにまるで疲れない。

 もう三〇階。あと一〇階で着いてしまう。それなのに精神状態がお花畑だ。なんとかなる気しかしない。ちょっと危ないなこりゃ。馬鹿になってる。


「そもそも、あいつの自宅を俺たちが訪ねる理由をインターホンで聞かれたらどう説明する?」

「わたしがもともと自宅へ呼ばれてんだからさ。それでいいんじゃない。お兄ちゃんは隠れてれば」

「……ちょっと待て。あいつ、半径五メートル以内に母親がいる状態でやる気(・・・)なのか!?」

「そういや、そういう時はいつも隣の部屋にいたね、あの母親。ずっとそういうプレイかと思ってた。そこだけはこいつキモッ! ってなっててさ」

「聞きたくなかったわ……」


 階段を登りながらも兄上様が肩を落としている。

 ショックを受けるなって。わたしだってもう大人だ。


「うぅ……しかし、だ。それだとドアを開ける前に桐谷を呼んでしまうんじゃないか? 桐谷への来訪者だ。母親が桐谷剛毅本人から離れるという危険を犯してまで勝手にドアを開けることはないだろ」

「ん──……確かにね。じゃあ『清姫の乱』作戦かなぁ。あの二人ってどういう関係?」

「お兄ちゃんベッタリの妹を、兄がウザがってる関係」

「あれ。嫌われちゃってたんだ。だからわたしにイラついたのかな」


 異性として好きな人がお兄ちゃんってのも大変だ。

 それでも、あいつは一生をかけて護り抜こうとしていた。そういう所はそんなに嫌いじゃなかったんだけどな。

 もし、こんなシチュエーションで出会ってなければ──……。


「『清姫が襲ってきた』って、素直にゲロってみようよ」

「それで玄関を開けてくれるかよ」

「シズカは母親だよね。返り討ちにしたって言ったら、どうすると思う?」

「怒り狂うだろ」

「だよね。でも、その情報を剛毅の耳に入れたいと思うかな。妹のことをウザいと思ってた。母親もそれを知ってただろうね。でも、家族だよ。しかも忠臣として扱っていた。妹の死を知らせることに躊躇してもおかしくはないんじゃない。それに、シズカもその情報を聞いて冷静でいられるかな。わたしたちは玄関前まで来ているんだ。即断しなきゃ。剛毅の耳に入れれば事実をそのまま伝えなければならない状況だよ」


 三九階を通過。

 全てを決める決戦の地は、この先にある。

 

 



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