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54 再就職先探すの決定したわ(ソフィア視点)


 完全に観戦モードに入った私たち監視室の面々。

 だって絶対に無理だもん。あんな化物、どうしようもない。


 クインシー様は、エージェント・ギルドの指定魔人でランクはA級だ。

 通常、エージェントたちの中ではB級までが単独で討伐対象にできるランク。A級になってしまうと、一部の上級エージェントかもしくはエージェントでチームを組むしか対応できない案件だ。

 だから、常識的に考えると一人で乗り込んできたあの女にクインシー様が敗れるなんて普通は考えられない訳だけど。


「ソフィアよ。あの侵入者は、もうクインシー様のお部屋にまで到達したか?」

「うん。今、ドアを破壊したね」


 真正面から突っ込んできて軒並み守護者(ガーディアン)を薙ぎ倒した侵入者が丁寧にドアを開けるなんてことは当然しなかった。派手にぶっ壊して彼女は中へ入っていく。


 私の監視業務は、クインシー様のお部屋を除く城内のすべて。

 よって、勝手にお部屋を覗き見ることは死、あるのみ。

 でも、この場合はね。


「お部屋の中にクインシー様はいらっしゃるよ。ちょうど相対したね」


 あ。やば。クインシー様ってば、スマホを取り出した。絶対に私たちへ電話する気だ。

 プルルルル、とコール音が鳴る。

 おいタンクトップの女! お前はなんでそれを黙って見てんだよ! やるなら早くやれって! 私たちが困んだろ!


「どうするんじゃ」

「……どうするって」


(出るしか、ないよね)


「……はい」

【どうした。何故ならず者の侵入を許している。俺への報告はどうした】

「申し訳ございません。守護者(ガーディアン)は全滅しました。ご連絡をする間もなく侵入者がそちらへ──」

お前ら(・・・)はお仕置きが必要だ。あとで覚えていろ】


 電話は切れた。

 スマホから漏れた声で、コーネリアスも事態を把握しているようだった。だって、やれやれって感じでため息をついているから。

 

「……こうなったら是が非でも侵入者に勝ってもらうしかないのう」

「マジでね」


 私たちは、あのミナトほども忠誠心はないしなぁ。

 裏切ったら後が怖いんだけど、倒されてしまったら仕方ないよね。

 さて、では……私たちの運命を左右する戦いを観戦するとしますか。


 私は、神の眼(ゴッドアイ)に没入する。



 ────…………



「クインシー様のお部屋を覗いてはならない」という掟は、破ったことはない。

 これは嘘じゃない。私だって、ミナトほど忠誠心がないとはいえ掟を破った時の懲罰は怖いから。


(広っろ)


 面積だけで言ったら二百人クラスの集会でも余裕でできるなぁこれ。

 まだ他にも部屋はあるけど、ここが一番広いしクインシー様がくつろいでいるお部屋だ。

 執務室は威厳に溢れているけど、それとはまた違った(おもむき)

 全面が窓ガラスになった広大な壁。木目ブラウンやクリーム色を基調にした内装は普通に高級ホテルのロイヤルスイートって感じだ。

 吹き抜けがあり、メゾネットになっていて天井は高い。この広さはギガンテスであるクインシー様専用ということだろう。


 侵入者の女とクインシー様は、メインのお部屋──おそらくリビングであろう部屋で相対していた。


【……それで? 貴様はここまで侵入できたことで良い気になっているわけか】

【以前フェンリルがここへ来ただろう。切断されたあいつの足を取りに来た。どこにある】

【ああ。お前はあのゴミの仲間か。それなら粗大ゴミに出した。火曜がゴミの日でな】


 これは嘘だ。クインシー様は、切断したフェンリルの脚を冷凍庫で保存しろとユーリに命令していたから。

 脚を餌にすれば侵入者の仲間を釣れるかもしれない、そう考えているようだった。そう言われてユーリが提案していたのは「フェンリルの足肉」とでも銘打ってオークションに出品する案だった気がする。


 いずれにしても足は捨てられていないし、まだ調理場の冷凍庫にあるのだけれど……クインシー様の対応は、この鋭いナイフのような印象の美しい侵入者を途轍もなく怒らせたらしい。


 刻印は服の下かもしれない……なんて思ったのはやはりシロップのように甘い幻想だった。ポケットに両手を突っ込んだ水色髪の女の両腕に、蒼い双龍が現れる。

 禍々しい。こんなに禍々しい刻印は滅多にお目にかかれない。クインシー様ですら刻印は至ってシンプル。

 戦斧(せんぷ)グリード「解体屋(リューシス)」。刻印は、右肩に両刃の斧「ラブリュス」が描かれているのみだ。

 

【ほう。龍……か。まぁどのようなグリードを持っていようと結果的に重要なのは『欲の強さ』だ。グリード効果が高いなら、イマジネーション次第で如何なる特殊効果も弾き返せ──】


 クインシー様の言葉がどうして止まったのか、監視グリードを持つ私ですらそれを理解できたのは一、二秒後。

 やはり彼女のグリード──あのナイフは飛んでいない。気づいた時には刺さっているんだ。

 クインシー様の右大腿部。

 ナイフは、そこにあった。


【馬鹿デカい図体だからそのくらいじゃ怪我のうちに入らんか。それとも躱すまでもないか?】

【調子に乗るな!】


 クインシー様の右肩に、赤く光る刻印が見える。

 その右腕を大袈裟に振り上げて、乱暴に振り下ろす破壊行為はこれまで何回も見てきた。

 解体屋(リューシス)は、別にわざわざ腕を振らなくても発動できる。それをするのは、分かりやすく言えば気分だ。


 グリードとは欲の強さ。

 本人のイメージと合致するほどしっくりくる。気迫も、思いも、攻撃に乗る。


 耳がキーンとなるほどの破壊音。集音感度を下げないと耳がイカレる。それほどの威力だ。クインシー様は自分の部屋のフローリングを大破壊してしまった。

 床の破片が宙を舞い、その隙にも次の斧が水平に回転しながら侵入者へ向かって飛んでいく。視界を遮る粉塵を上下二つに割りながらだ。このタイミング、普通に考えたら回避不能。

 

 ギャリギャリギャリ、と金属同士が衝突する音。

 それは、敵が突如として発生させた蛇のような龍が、クインシー様の斧を弾いた音だった。


 これは一体なんだろうと思いながら侵入者のグリードを観察する。

 龍……だけど、なんかトゲトゲしていて。

 そうして至った結論は、龍を構成するそれらが全てナイフだということ。

 おぞましいほどの数が集まったナイフの集団。それが龍を形成しているのだ。


【……なるほど。それがお前のグリード。龍か。なかなかやるではないか】

【次】

【なに?】

【お前が傷つけたフェンリルの憂さ晴らしをしに来てるんだが】

【その憂さ晴らしとやらは、もうこれ以上叶うことはないだろう。イキがる小物を大人気なく叩き潰すのは趣味ではないが、裏切り者の肩を持つ奴らは徹底的に潰さなければ気が済まんタチでな】

【俺は今まで幾度となくこういうこと(・・・・・・)をやってきたが、心を折るのに一番有効な方法は全部やらせることだ。最期なんだからお前にとってもそのほうが良いだろう。悔いを残さないようにやってくれ】

【口数が多くなってきたな。焦っている証拠だ!】


 クインシー様は、「来い」と挑発するかのようにクイッと人差し指を曲げる。

 しかしそれは挑発じゃない。その動作に呼応するように、侵入者の足元から巨大な斧が現れた。

 グリードによって形作られた斧。その強度はグリードの威力そのものだ。

 すなわち「欲の強さ」。裏切り者には死を……それがご主人様の力の根源であり、その欲の強さは並の魔物じゃ相手にならない。もちろん、人間などもってのほかだ。


 ギャリギャリギャリ、とまた金属音が響く。

 刃の龍は侵入者の体を覆うように高速旋回していて、彼女は一歩も動かずに超デカい斧をカケラも残さず削りとった。


【次】

【……舐めるなぁっっ!!】


 クインシー様の腕に、無数の斧の刃が生えた(・・・)

 その斧ごと、ギガンテスの怪力を活かして敵へ致命の一撃を叩き込む。

 全体重を乗せた、A級指定魔人の底力が全て込められているであろう一撃。恐らく飛び道具のほうが回避はされにくいが、インパクトした時の単独衝撃力はこちらが格段に上のはずだ。そしてそれが完全に敵を捉えていた。

 なのに──……


【素直に斧を飛ばしていれば、もう少しの間そんなことにはならなかった。ほら、腕を拾え。待ってやる】


 クインシー様の右腕が、二の腕の途中で切断されている。ご主人様は、落ちた自分の腕を呆然と眺めていた。

 相変わらず侵入者の周りでトグロを巻くように悠々と回遊し続けるナイフの龍。

 彼女はまだポケットから手を出してすらいない。

 

【……馬鹿な。そんな馬鹿なことがあるか。なんなのだお前のグリードは】

【次】


 問い掛けに対する回答はしない。

 侵入者は、最初からクインシー様と会話をしていない。自分の考えていることだけを話している。


【カアアアアア!!!!】


 ここまでやり込められたクインシー様が出す技は、もうあと一つしかない。

 奥の手。全力でグリードを発現させた斧の乱れ打ち。全方位から嵐のような斧の投擲を打ち込んで敵の逃走経路を奪い、捉えてからは一箇所に攻撃を集中させてシールドを一点突破する。

 確か、技の名は「ストーム」。


【ほう。ようやくマシなやつが来た】


 連射される斧とナイフの龍が、ギギギギギ、と音を鳴らして火花を散らす。

 火花の位置が、二人の勢力の拮抗している箇所を示している。それは徐々にクインシー様が押し、侵入者へと近づいていた。


【クカカカ。これで終わりだな】


 ……と私も思っていた。

 黄金色の火花が視界を満たしている。それはどこか風流にも見えて──きっと火花のせいだけじゃなくて、涼しげな侵入者の表情がそう感じさせたのだろうと思った。


 火花の位置が押し戻される。

 うねる龍の回転が速くなり、まるで絶対不可侵の壁が迫っていくかのようだった。

 同時に、部屋の至る所に大量のナイフが出現し始め……それはまるで満天の星だ。刃の煌めきをプラネタリウムみたいだなぁとか思えちゃうのは結局のところ私がこの死闘の部外者だからだろう。

 クインシー様が、絶望を滲ませた声で呟く。


【……なんだ。何者なんだお前は】

【とりあえず最後はこれを見せて終わることにしてるんだ。やられるにしても冥土の土産くらいは欲しいだろう】


 彼女は、クラウドバースト、と呟いた。


 瞬間、爆発火災でフラッシュオーバーが起こったかのように、部屋の全てが一挙に燃え出したかのように。

 空間を埋め尽くすほどの刃物。

 それはどこからか飛んで来たのではなくて、そこに直接具現化されていて。


 もちろんクインシー様の体内にも出現している。

 飛んで刺さってはいない。最初から、心臓や、肝臓や、膵臓、肺、臓器だけでなく骨や血管、ありとあらゆる場所──クインシー様の体の中に突如として具現化している小さな刃の大群。

 肉を裂き、骨をすり潰し、内臓を掻き混ぜ、竜巻のようになった刃の群れはクインシー様の体組織をただの雫に変えた。


 あまりにも理不尽で凶悪な嵐が過ぎ去って、主人がいなくなり静寂が訪れた広い部屋の中、彼女は一人囁くように言う。

 

【……さて。足を探すか】


 そっちのほうがよほど面倒だとでも言いたげに、一貫してポケットに手を突っ込んでいた彼女はダルそうな様子で部屋を出る。

 私は、どのように対話すればこの化物に許してもらえるか、すぐさまそれをコーネリアスと相談することにした。





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