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50 侵入工作を依頼しよう


 望まぬ来訪者がいなくなったマーモット。俺と瑠夏は倉庫内のテーブルでベンチに背もたれた。

 すると、どこに隠れていたのかバステト──いやベルが姿を現す。


「蒼真! 瑠夏!」

「ベルさん! 無事だったんだね」

「ああ。じゃが、美咲をみすみす魔物に変えられて、しかも操られてしもうた。それに清十郎の身柄も取り戻されてしもたしの。さすがに聖牢獄(セイントプリズン)を解除せざるを得なかった」

「仕方ないよ。どっちみち連れて行かれてただろ。お前のおかげで瑠夏の力はバレずに済んだかもしれないし」

「……さて。どうしよっか、そうちゃん」

「まずはコーヒーでも飲もうよ。この仕事、いい加減疲れてきたわ」


 俺は真面目に疲れていた。ナドカさんが懸念していた通りにマーモットへの侵入者を許してしまったし、いくらナドカさんが許可したとはいえ多大なご迷惑をお掛けしてしまったし。

 虎太郎だけは今回きちんと退避させていたけど、危ないところだった。

 そして数珠丸。奴は奴の仕事中だったとはいえ、生死の境を彷徨っている。


 瑠夏は、熱めのコーヒーを淹れてくれてた。それをテーブルに置く。


「もう会うことはないって言ってきたんだし、桐谷はきっとまだ刺客を送ってくるんだろうね」

「そうだろうな。あんまナドカさんに迷惑掛けたくないところだったけど」


 俺を殺そうとしてきた美咲は、泣いていた。

 嬉しそうな顔をしながら、それでいてこれから死のうと考えている奴がしそうな顔。

 前世と今世、二つの人格を抱える俺だからこそわかる。俺は上手く同居できたけど、美咲のは無理なケースだ。

 美咲は、心の内に生まれた敵とまだ戦っている。だがいつまで持つかわからない。意志の炎が吹き消されてしまうまで、もういくらもないかもしれない。

 俺は、ずずっとコーヒーを啜った。


「ふふ。ふふふっ。あたしさ、久しぶりだよこんなムカついたの。数珠丸さんも、清十郎さんも、美咲ちゃんも。マジで人をなんだと思ってんだ、あの蛇野郎」


 瑠夏の顔を見るのが怖いなぁ。

 これはメルのほうかと思ったけど違うな。どっちもだ。ダブルで怒ってる。

 グリード使いになったせいか知らんが、瑠夏がマジで怒ってんのがビシビシと伝わってくる。


 そして、そういうモード(・・・・・・・)に入った瑠夏は、秘めたる俺の願いとは絶対に反対の行動をとるに決まっている。

 もちろん俺も怒ってんだけど、相方が極限まで沸騰してんのに俺まで一緒になって燃え上がるわけにはいかんしな。なので、自然と冷静になる。


「ああ……でも俺はさ、自分で自分が嫌になってるよ」

「何がよ?」

「みすみす依頼者を魔人にさせてしまった。馬鹿野郎だよ俺は。だから、これからやることの原動力は単なる怒りとかじゃない。『落とし前』ってやつなんだ」


 怒ってることをアピールしながらも、瑠夏の熱に同調しすぎないようにした。冷めてたら怒られるし、同じように熱くなったら危険だし。

 それに、さっきのは本心だった。不覚をとった落とし前は、もちろんきっちりつける必要がある。


 ドラコの本体が異常なほどの熱を持っていた。

 こいつは俺の思いを受けとった時には銃身が過剰に熱を持つ。トリガーが俺の意志と連動したせいで、俺の思いも理解して作動するんだ。


 威力を上げずに──瑠夏に余計な寿命を使わせずに敵にトドメを刺す。


 俺が抱く願いは、普通に敵を倒すよりも格段に難易度が高い。こいつはそんな俺の願いを叶えようとする度に──細い細いクリアルートを辿れと命じられる度に、逆にテンションが上がっていくんだ。


 だけど、ここからはメルカの仕事。

 ドラコを愛でながら撫でて、俺は地下射撃場からメルカを持ってきた。


「だとするなら、むしろ絶対に生かしておけないね。何級でも好きなようにオーダーしてよ。絶対に仕留められるやつでいこう」


 つい俺もその空気感に同調してしまいそうになって、メンタルを逆へ振るため深呼吸する。瑠夏のこういう反応に、俺の中のジルの血が騒ぐのだ。

 

 ──ったく。厄介な話だ。


 絶対にぶち殺してやりたい敵が目の前にいるのに、そいつに手加減してやらなきゃ一番大切なものが護れないんだからな。


 肩で担ぐようにメルカを持って、俺と瑠夏はマーモットを出る。

 そうして美咲から電話が掛かってきた時にいた場所──桐谷剛毅の本拠地「六本木スローンズ」を狙撃できるポイントへ向かうことにした。


◾️


 俺たちがマーモットにいる美咲からSOSの電話を受けたとき、実は、俺たちは狙撃ポイントを探すために侵入工作代行業者と会うため待ち合わせ場所に向かっているところだった。美咲からの電話が入ったので急遽時間変更してもらったのだ。


 メルカの射程は五キロメートルだ。


 六本木スローンズは、高さ二三〇メートルを超えるオフィスタワーを中心としてタワマンや商業施設などが一体となった複合施設だ。


 バジリスクの事務所はそのオフィスタワーの四〇階にある。これと同等の高さから狙撃できる超高層ビルを、射程である五キロ圏内から選ぶことにした。


 侵入工作は自分自身でできるならしても良いが、面倒ならエージェントギルドを通じて侵入工作代行業者を紹介してもらうこともできる。ただ、そうするとここでも金が要るわけだ。


 都庁はエージェント・ギルドの業務に割と協力的……というか黙認しているところがある。魔人の職員も多いが、人間の職員に話を通せばそんなに難しくないようだ。一応はあからさまに入れないが、侵入工作報酬は割安になる感じ。

 距離で言えば麻布あたりのほうがターゲットに近くなるが、安いという理由で俺たちは都庁の屋上、ヘリポートを選定した。


 業者との待ち合わせは新宿駅西口付近を提案したが、なぜか東口でと指定された。

 俺たちは、歌舞伎町にある焼肉屋へ。その業者は焼肉屋を待ち合わせ場所にしてきたのだ。


 この流れで三メートル級の長物は目立つので今のメルカは少年化。

 店の前で電話すると、四人テーブル席に座っていたおじさんがこちらを振り返って手を振った。


 至極普通の、人間のおじさんだ。

 くたびれたグレーのスーツを着ていて、髪は白髪まじりだが禿げてはいない。人の良さそうな顔をしていて、事前に何も言われなければ注意して見ることもないし印象に残らないようなタイプだった。


「こっちこっち」

「あ、ども。ウェジーです。ルーキスさんですか?」

「そうそう。さ、食べよう食べよう。注文してね」


 そんなことやってる時間ないのだが。 

 瑠夏は、観念したのか、それとも単にお腹が減っていたのか特に躊躇することなく店員さんを呼ぶ。


「わたしランチメニューで。カルビ定食」

「じゃあ俺はそれのロースで」

「いやいや全員コースだよ。飲み放題付きで」

「「えっ」」

「もう昼過ぎだし腹が減っとるから。あ、もちろん君たちの奢りだよ?」

「あ、あの……仕事のほうは大丈夫なんですよね?」

「もちろんだよ。もう済ませてある」


 まあ……確かに昼過ぎだし、まだ食べていなかったからお腹は減っていたけれど。

 しかし奢る金がどうこうより昼間っから飲み放題のコースで行くほど食べたいとも思ってなかった。

 ルーキスさんはご機嫌だ。侵入工作業者ってあんまり儲からないのだろうか。それともこの人だけだろうか。

 

「かんぱーい」

「あ、はい」


 肉が届き始め、網に乗せてジュウジュウと美味しそうな音を立てる。

 瑠夏は生中を煽って「プハーッ」って言っている。今回は居酒屋潜入ではないし、特段イライラしているわけでもないので俺は酒など飲まずジンジャーエールにした。

 メルカは例によってオレンジにしようとしているようだ。だけど、お店のメニューと睨めっこしながら唸っている。


「どうしたんだよ」

「これって果汁はどうなってる」

「知るか。焼肉屋のオレンジに果汁の有無を求めるな」

「不満だ」

「家に帰ったら百パーのやつあげるから我慢しとけよ」


 果汁を気にするようプログラミングされたアンドロイドみたいな反応を見せるメルカは置いといて、俺はホルスターに仕舞ってあるドラコを撫でて一生懸命に宥めなければならなかった。擬人化させる予定がなかったのでドラコは銃装化のままこの流れになっていたのだ。

 彼女は焼肉が食べれなくてとても怒っているのだが一言言わせて欲しい。お前らこれは仕事だぞー!


 俺たちが仕事モードから食うモードに変わりつつあった頃、それを見越したようにルーキスさんは急に真面目な話に入った。


「電設業者として入ってくれ。それで屋上まで行ける」


 ルーキスさんは、足元にある大きなバッグを渡してきた。

 中を見ると、服とか職員証とかが入っている。俺たちが扮するのは「株式会社黒竜電設」の作業員らしい。


「……だけどその子どもはいただけないね。電設業者として入る限りは連れてはいけない」


 ルーキスさんがジロッとメルカを睨む。

 そしてメルカが対抗するように目を細める。


「大丈夫だ。連れて行かないよ」

「ならいいが。じゃあどうしてここには連れて来たんだい?」

「保育所がいっぱいでね。預けられないんだよ」

「夫婦でエージェントかい。大変だね。そんなに金が必要か?」

「報酬はエージェントギルド経由だ。今から前金を振り込む」

「……ん。オッケーだ。ささ、焦げちゃうよ。早く食べよう」


 スマホを操作し終えてから、焼いた肉をタレにつける。

 ふと見ると、メルカが我先にバクバク食っていた。銃身が途轍もなく熱いところからしてドラコは完全にイライラしている。


「おいメルカ。お前は何をそんなに肉ばっか食ってんだよ」

「僕はお肉が好きなんだ。人の勝手だろ」


 それでバーベキューも擬人化のままずっとテーブルのところにいたのかな。

 その肉はどこをどう通って何になってどこに出るんだよ?


「金が掛かるんだよ。ただでさえこっち持ちなんだぞ、ここの昼食代は」

「子どもに肉くらい食べさせてあげなよお兄ちゃん。育ち盛りだろ? なあ僕、お腹すいたよなぁ?」


 こいつは武器ですから──とは言えないし。

 そもそもあんたが肉を奢れと言わなかったらもっと金が掛からなかったけどな!

 



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