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48 気の重い近況報告(桐谷視点)


 事務所へ車を走らせていた俺は、スマホを取り出して念のため電話を掛けた。


「俺だ。美咲とルークに尾行はついていないか。……そうか。ならいい」


 バッファローの獣人・アランを、美咲とルークに張り付けてある。どうやら異常はないようだ。

 俺がまだ電話を切る前、助手席にいる母さんが顔だけこちらを振り向いた。


「剛毅。美咲という女を直接事務所へ向かわせるのはリスクがあるわ。グリードを使えば私たちに気づかれることなく追跡することは可能でしょう」


 コバルトブルーの髪に触れながら俺へ忠言するため口を挟む。いつも助言してくれる頼りになる存在ではあるが、若干口うるさいというか、心配が過ぎる。


「その可能性は極めて少ない。ソウマとかいうあの男のグリードが『銃撃』だとして、すぐ横にいたルカという女のグリードは、あの様子からしてルークを地下に閉じ込めていた牢獄的な効力のグリードで間違いない。ソウマが倒し、ルカが捕える。そういうコンビで決まりだ」

「……ソウマの能力は少し気になるところよ。あの特性が全てグリードだったとするなら数が少し数が多い気がするわ。異常なほどの早撃ち、正確極まりない射撃、特殊効力を発生させる弾、攻撃にグリードが乗っている件。どういう願望を抱けばそれが全部実現できるというの?」

「『いろんな効果のある弾を誰よりも早く正確に撃って敵を殺したい』で問題ないだろうが」

「グリードでの闘争を運命付けられた弱肉強食の世界で生きる私たち魔人ならあり得る話。でもあいつは人間よ。普通の人間の家庭でぬくぬくと育った奴が、それほど複雑で戦闘に特化した願望を物心ついてすぐの頃に抱けるとは到底思えない。それに、あの美咲はソウマの事務所で奴らと一緒にいたのよ。やはり危険だわ。いくら警戒しても、し過ぎることはない。あとをつけられたら厄介なことになる。あの美咲を直接事務所へ向かわせるのはやめるべきよ」


 俺はため息をついた。

 これほど真正面から俺に口ごたえする奴は、過去を思い返しても母さんだけだ。もちろん俺のためを思っているのが明らかだからこそ放置するのだが。


「……いい加減黙ってろ」


 最終的にはこういえば素直に黙る。

 髪と同じ色であつらえたチャイナドレスを直しながら、慌てて前方を向いた。


(……が、まぁ……一理なくもない、か)


「……ちっ。しゃあねえな。ここは母さんの顔を立てとくよ。おい。グレゴリーがやってるバーが近くにあったろ。そこへ向かえ清姫(きよひめ)

「承知しました」


 たまたま近くにあったうちの組織の構成員が営んでいるバーへ入ることにした。結局母さんの助言を聞き入れた格好だ。俺もまだ甘い。

 通話を繋ぎっぱなしだったスマホを耳に当て、俺の行き先を美咲とルークへ伝えるようアランへ命じた。


 母さんと清姫をカウンター席に座らせ、俺はソファー席に一人で座った。酒を飲みながら店の調子はどうかと店主に問うと、自分の店は大丈夫だが、最近、龍神会の幹部が居酒屋を訪れた際に暗殺されたという。

 手口は遠距離からの狙撃らしいが俺たちじゃない。俺たちの他にも龍神会を狙ってる奴らがいるのか?


 しばらく飲んでいると、カランカランと音がして店に美咲とルークが入ってくる。

 俺は二人ソファーへ座るよう促した。


「……申し訳ありませんでした。桐谷様」

「それはいい。最後にウェジーと戦闘した時の様子を報告しろ」

「は。気がつけば撃たれていたとしか言えませんが……気になることといえば、山田蒼真は奇妙な形をした緑色の銃を使っていました」


 ──なるほど。それでか。


 これで謎は解けた。魔道具を使用して銃撃グリードの能力補完を行なっている。それなら全て説明はつく。

 そうなると、銃の種類を変えることで能力の種類を変えてくるかもしれない。

 例えば連射系。そしてスナイパーライフル……いや、銃だけとは限らないか? 

 ボーガン、ロケットランチャー、グレネード……それに対して何の能力を付加してくるかについても色んなことが推察可能だ。

 さて、どこまで想定すればいいか。


 俺は今、ルークに「器の修正(ネイチャーモッド)」の支配効力を発動させていない。

 にもかかわらず、ルークは無言を貫いている。


「ルーク。怒ってんのか」

「……怒っておりませんが」

「ふーん」


 俺はグラスに口をつける。


「ちなみに、どうして怒っていると考えられたのか教えていただけますか」

「美咲を魔人化させたからな」

「……俺は」


 ルークは言葉を詰まらせた。

 拳を握りしめて、歯を噛み締めている。


 美咲を護るために健気に俺の命令を受け入れて龍神会の奴らを殺して回っていたルークのことだから、間違いなく俺を恨んでいるだろうと思う。こいつは美咲に、まっとうな人間としての幸せな人生を歩ませてやりたかったのだから。

 そして、それを知っているからこそ、俺は敢えて支配効力を発動せずに話をしている。


「……もう終わったことです」


 支配されてもいないのに、どうしてルークがここまでされても真正面から攻撃してこないのか。最速で攻撃すれば、俺がルークの命を握りつぶす前にワンチャン殺せるかもしれないのにな?


 それは、母さんがいる限り殺害は不可能と十分に理解しているからだ。

 そして、そうなれば自分よりも先に美咲が俺に殺されるであろうことも。


 ──キキキ。


 従順な美咲も可愛いが、悔しくて悔しくて仕方がない様子のルークを無理やり押さえつけるのも堪らない。

 だから俺は、こいつの支配効力を普段はあえて発動していない。自分の命を危険に晒してまで他人を助けようとする正義感の強いルークが、自らの意志で他者を殺しまくり、苦しみ、堕ちていく様を見たかったからだ。


 小さい頃に願った「欲の力」。やはりこの力を願って正解だった。

 素直に殺すことほどつまらないことはない。心を折り、感情を踏み躙り、それでも俺に逆らうことができないように首根っこを押さえつける。

 やっぱやめられねーわ……キキキ。


 ルークと美咲を裏口から出すよう店主に伝える。

 俺はしばらく酒を飲み、それから六本木スローンズへ向かった。


◾️

 

 六本木スローンズの中にある、超高層オフィスタワー「テクノポリス」。バジリスクの事務所はその四〇階にある。

 外でルークたちと合流した俺は、エレベーターを使って四〇階へ。

 顔が可愛くて胸がデカいという理由で雇った受付の猫魔人が俺にこう言う。


「シキ様がいらっしゃってます」

「……応接室か?」

「はい」


 この忙しい時に……と気が重くなる。

 来るなら来るで事前連絡が欲しいところだ。確かにトップが部下のところを尋ねるのにいちいち連絡がいるのかと言われればそれまでだが、部下にも部下で事情はある。

 それに、こいつと喋るには幾分気持ちを作る必要があるのでいちいち疲れる。一歩間違えればこの東京ごと消えることになるからな。


 俺は、母さん、美咲、ルークのことを清姫(きよひめ)に任せ、事務所で待機するよう命じた。

 そうしてから、同じフロアにある応接室へ一人で向かう。

 部屋へ入る前に服装を直した。

 あっちが大した服装をしていないはずなのでこっちも気にする必要はないが、それでも念には念を、だ。

 丁寧にドアをノックすると、「入りなさい」と返事があった。


「失礼します。いらっしゃるならいらっしゃるで、先にお伝えいただければご用意ができましたが。お元気でしたか」

「過剰なもてなしは必要ありません。近況報告を」

「はい」


 黒のスウェットパンツに、黒のパーカー。

 この場所へ来るのにフードを被ったままだと言うのが神経を疑う。だが誰もこの人を不審者として止めることはない。絶対に失礼のないようお通ししろとキツく躾けてあるからだ。


 フードの内側からは、鮮やかな紫紺の髪が垂れ出ている。

 俺を見つめるあどけない表情とは裏腹に、気持ち悪いくらいに鮮やかな紫の瞳からは情など微塵も感じ取ることはできない。

 こいつは、フードを外せばそこら辺の中学生くらいにしか見えない少女。

 しかし紫眼の魔女と呼ばれる、現時点で間違いなく世界最強のグリード使いだ。


「シキ」という名は、こいつが自分でつけた。

 というか、こいつは「別に名前などどうでもいい」と言っていたが、下々の者からすると(あるじ)の名前として「紫眼の魔女」は呼びにくいし、人混みの中で堂々と名も呼べない。

 そんな訳で、俺は恐る恐るご提案申し上げた。「(あるじ)」で良いですか? と。

 紫眼の魔女は首を傾げながら物思いに耽り、「あからさまに上下関係がわかる呼び名も感心しませんね」と宣った。

 

 ──ならばシキと呼びなさい。

 ──紫の姫と書いて紫姫(シキ)。それで良いでしょう。

 ──ああ、そういえば「死期」とも書けますね。

 ──ははは。私が探している者どもの末路にふさわしい。ははははは。


 こいつはそう呟いて、愉悦に浸っていた。


 シキは、既に出されていた紅茶に口をつける。

 もし、この紅茶にグリードで作った超強力な致死性の毒を仕込んでいたらどうなるだろうと何度も考えた。別にこいつを恨んでいるとかではないが単なる好奇心だ。世界最強が、そういった罠を全部自力で退けられるのか興味が湧くという感じか。


 しかし試さなくても結果は想像できる。なぜなら、こいつには何も効かない(・・・・・・)からだ。

 俺のグリード「器の修正(ネイチャーモッド)」が効かないのはもちろん、なぜか付与系も攻撃系も、ありとあらゆるグリードが無効化される。

 いくら化物でも、生物である限りは神が定めた絶対的ルールから逃れ得ぬはず。すなわち得られるグリードはたった一つのはずだ。なのに何も効かず、そのうえあり得ないほどの攻撃力を誇る。

 少なくとも、他者のグリードを弾く仕組みが理解できない限り逆らうことは許されない。


 俺のグリードは、いわゆる即死系というやつだ。

 視線が合えば必ず効力を発揮し、いったん支配すればいつでも命を奪うことができる。前情報なしで俺のグリードを防ぐことはほぼ不可能。

 多対一や、目に頼らず心眼で攻撃してくるような輩、俺の視線の範囲外から超遠距離攻撃してくるような奴らなどには対応策が必要だが、そのために母さんを常に随行させているから万全だ。

 未だかつて視線が合ったのに効かなかったのはこいつだけ。


「どうしました。聞こえていないのですか」

「……すみません。あまりにもお美しくて見惚(みと)れて──という類の話はお嫌いでしたね。本題に入ります。といっても一言で済みますが」


 キッと睨まれ、話を修正する。ちょっとくらい茶目っ気を見せていかないと空気感の境界線がわからなくてツライからなぁ。

 頭を地面に押さえつけられるばかりじゃ、俺のストレスを部下どもに横流しするしかなくなるし。


「ここ最近は、特に特筆すべきことはありません」

「そうですか」


 常に無表情のシキだが、この時だけは落胆の雰囲気を漂わせる。

 よほどご執心なんだろう。


「他の『三天』もやはり手掛かりは掴めていませんか? 異世界のトップウィザード……ジル、と聖女メルの消息」


 俺はこいつから「三天」というどうやら有難いらしい位をいただいている。

 天ってのは天使のことらしく、悪魔ならまだしもどうしてこの俺が神の手先みたいな称号をつけられなきゃならんのかと不満しかない。


 まぁシキもそんな呼び名をつけるつもりはなかったみたいだが、三人のことをまとめる呼び名がないと不便だということらしい。俺がこいつをシキと呼んでいるのと似たような理由であり、お互い様というわけだから仕方がない。


 ストレートに言えばシキは神を気取ったガキって訳だが、問題はマジで世界を壊せる力を持っているってことだろう。俺のイメージ的にはむしろ「サタン」のほうがピッタリ来る。


「実は転生していないのでは?」

「転生していないということはあり得ない。この私がそう感じているのです」

「どうしてそこまでして探し出すのですか? あなたならばそれほど気にせずともこの世に敵などいないはずでしょう」


 それほど失礼なことを言ったつもりはなかった。しかしシキの雰囲気が全くの予想外に一変する。

 桔梗(ききょう)色の瞳にドス黒い魔法陣が現れ、ビシビシと音を立ててまるで空間にヒビが入ったかのようになった。

 

「私ですらが届かぬ(いただき)にあのような下賎な者が近づくなどあり得ない。しかもそれが神の遣わした犬というなら尚更です」

「は……ああああああ!」


 俺より遥かにデカくて透明な怪力ゴリラが俺の手足をそれぞれ逆方向に引っ張っているかのようだ。

 空間に入ったヒビは、母さんの力が破壊され突破されていることを意味する。いや、この俺が気絶しそうなほどの痛みに苛まれている時点でなんの防御力も発揮されてはいない。

 体が引き千切られそうだがきっとこいつはまだ手加減しているのだ……俺が苦しむギリギリのところで。それでも、力加減を間違えるということもあるだろう。


 もう無理か──そう覚悟したとき、最初から何もなかったかのように超常現象は止む。

 空間のヒビ割れも無くなって、あとには俺の(ぜい)(めい)音だけが聞こえている。


「探しなさい。何をおいても必ず。始めに言い渡したとおり、私が神となった暁にはお前たちには最高位の天使の座を約束します。神の御座を護る熾天使どもを根こそぎ排除し、輝かしい功績に相応しい褒美をあなたたちへ与えましょう」


 ぜいぜいと息を切らせ、ろくに話が頭に入ってこなかった。こんなことをしておいて俺たちが快く従っているとでも思っているのだろうか。それとも、俺と同じように分かっていて愉しんでいるのだろうか。

「そんな褒美なんていらねーよ」と心の中で吐き捨てて、俺は卑屈な笑顔を作った。


 シキは立ち上がって部屋を出て行こうとする。

 と、母さんが慌てて入ってきた。


「剛毅!」

「……大丈夫だ。おいた(・・・)のお仕置きだよ。それだけだ」


 母さんは俺に肩を貸し、シキから庇うようにした。

 シキは、そんな俺たちの様子を一瞥して、いつもの無表情のまま部屋を出ていった。


 正直、この程度の用事なら電話で済ませて欲しい。

 こいつはいつもそうだ。電話連絡なら一瞬で済む話を、なぜいちいち直接聞きに来るのだろうか。直接会って俺たちに痛みを与える趣味でもあるのだろうか。


 いずれにしても、命の危機を感じる期中面談(・・・・)はなんとか終わってくれた。

 

 


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