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42 転職サイトで潜入しよう(数珠丸視点)


 ナドカさんに案内されて地下射撃場へ降りる。

 光の檻に閉じ込められている獣人は凶暴そうな表情で内側から檻をドンドン叩いていて、真っ当な意識を保っているとは思えなかった。


「操られてますね」

「こいつはずっと帰りたがっている。恐らく桐谷に報告したいんだろうな」

「なら、清十郎が帰ってこなければ、桐谷はここへ追加の追っ手を差し向けるかもしれませんね」


 恐らく間違いないだろう。やはり急がなければならない。

 私は、阿弥陀を発動した。


(桐谷の居場所を教えなさい)


 心で問いかけた質問に対する回答は、頭の中に直接返ってくる。それは、あらかじめそこにあったかのように、記憶に刻まれる。

 それによると、桐谷の本拠地がどこかは清十郎も知らなかった。会ったことがあるのも数回のようだ。なので私は次々に質問をしていく。


 清十郎を直接飼っていたのは「クインシー・キッドマン」という男。

 どうやらコイツはバジリスクの幹部であり桐谷の右腕。エージェントギルドのA級首として指定されている武闘派だ。


 姿かたちも記憶に入ってくる。

 デカい男だ。身長は三メートル程度か。

 清十郎には理解できていないが恐らくは巨人族──ギガンテスの混血種。顔は仮面で隠されていて一つ目かどうかまでは断定はできないが、仮面の中央に空いている横長の穴に緑色の光が一つだけ浮かび上がっていることが単眼であることを印象付けている。


 人間とは比べ物にならないほどの密度を持つ物凄い筋肉量。

 下半身はとりあえず黒っぽいズボンを履いているが、コイツに合う服を作ることができないのか上半身は裸。

 武器は持っていない。

 が、武闘派でグリード使いであることは本人の口から清十郎が聞いているようだ。

 コイツから直接読めば桐谷の居所はわかるかもしれない。

 

「どうだ数珠丸。何かわかったか」

黒竜(ヘイロン)の上空に浮かぶ浮遊城。そこに桐谷の右腕であるクインシー・キッドマンという男がいるようです。そいつなら桐谷の根城もわかるでしょう」

「……そうか。何度も言うがくれぐれも気をつけろよ。お前は戦闘用グリードを持たないんだから」

「ふふ。ご心配をお掛けして申し訳ありませんね、私があんなことを言ったから。危険だと感じたらすぐに撤退しますよ」

「ああ……」


 詭弁であることはもちろんナドカさんもわかっているだろう。グリードを使った戦闘というものは途轍もなくシビアなのだ。

 だから普段は、魔族暴力団が相手であってもある程度時間をかけて関係者から情報を読み取るのみで、潜入まではしない。


 それほど敵の領域に飛び込むというのは危険だ。準備万端で防御と罠を整えている死地へ、戦闘グリードも無しに飛び込むなど自殺行為。いや、戦闘グリードがあったとしても普通は自殺行為と言える。


「どうやって潜入するんだ」

「クインシーが管理する浮遊城『ロイヤル』の求人情報を清十郎から読み取った限りでは、クインシーは移動屋を雇いたいと思っているようです。奴は空中を移動する能力を持っていないので浮遊グリード持ちを専属で雇っていたが、癇癪を起こしてそいつを殺してしまったようで。だから今は浮遊タクシーを利用している」

「フェンリルであることを売り込むわけか」

「ええ。私のジャンプ力なら容易に浮遊城へ届きます。その乗り心地をどう判断するかは奴次第ですが」

「そうか。『ロイヤル』って名前を自分の城につけるくらいだ。王族でも気取ってさぞ偉そうな奴なんだろうから乗り心地にもうるさいのかもしれないな。まあ気に入られるといいが」

「さて……名前の由来は清十郎も知らないようですが」


 確かに、そこは私も気にはなった。ナドカさんの言う通りロイヤルは「王室」とか「王族」とかそういう類の意味を持っているが、しかしこの読み方には別の綴りでもう一つ違う言葉があるからだ。


「裏切らない、浮気しない」という忠誠心を表す言葉。

 こちらがビンゴだった場合、厄介な相手かもしれないと思った。

 

◾️


 寺とは別棟──和風建築の自宅でデスクトップPCのキーボードを叩く。

 ロイヤルの移動屋求人情報は、一般求人サイト上に存在していた。ただし普通の人間では見つけることはできない。


 求人サイトへ登録する際に、種族欄を「魔獣・魔人」で登録する。

 その状態でログインして求人情報を閲覧すると、人間以外を求める求人情報がわんさか出てくる。その中にロイヤルの求人があった。


黒竜(ヘイロン)上空の浮遊城ロイヤルと地上の移動屋

・城主専属

・給与 月収一五〇〇万円以上 昇給あり

・住み込み必須

・勤務形態 不定期

 城主の命があった場合にはいかなる時でも業務に従事すること

 

 そもそも、魔人や魔獣だけを必要とする求人には人間社会のように法に護られた仕事はほとんどないため、アンダーグラウンドな求人に溢れている。これを閲覧する求職者もまた、それを理解しているわけだ。


 その求人欄には、「応募する」というボタンがあった。

 私はそのボタンをクリックする。

 すると、まるでPCが私を見張っていたのではないかと思うくらいのタイミングで求人サイト上の私のアカウントへメールがあった。


「一九時〇〇分に天堂(ティエンタン)ビルの地下一階「カフェ・リリス」にお越しください」


 自動メールではないだろう。

 指定されていたのは時刻だけで日は明記されていないのでこれは今日来いということだ。求人は、よっぽど切羽詰まっているらしい。

 

◾️


 黒竜(ヘイロン)駅を出て、暗黒街をセンター街のほうへ歩く。

 オシャレとは到底言えないビルは、ともすれば見逃すところだった。「カフェ」などとオシャレっぽい場所を連想する情報を中途半端に提示されたから、余計に。


 ビルに入り、共用廊下の途中にあった階段で地下一階へ。

 天井に設置された照明がチカチカと瞬いていた。


「これは……中華料理屋かな」


 ひっそりと佇む店舗。

 看板は確かに「カフェ・リリス」となっているが、そもそもここは中華街っぽくて有名チェーン店のようなカフェ的な印象は皆無だ。

 

 外から見ると店内にうっすら灯りが見える。きちんと営業しているようだ。ドアを開けると、からんからん、と夏に似合いそうな音がした。


 薄暗い店内に居るのは二人。

 カウンターの向こう側にいる従業員のような女性が一人と、奥のテーブルにいる男性──というか中学生くらいの男の子が一人。

 いずれも、私が入ってきたからといってこちらに目線を向けたりはしない。


 腕時計を見ると、一六時五九分。

 客は一人しかいないので、私は奥のテーブルにいる男の子の真正面に座った。フェンリル化した時に使用する「鞍」を持参していたのでそれを後ろの壁に立てかける。


「間に合えば別にいいけど、一秒でも遅れたら城主は許さないよ?」

「あなたは?」

「僕は浮遊城ロイヤルで第一席のペットを務めている、ミナトだよ」


 ミナトと名乗った彼の外観は、獣人だ。

 頭部にあるフサフサの耳を見る感じは犬である印象。まだ可愛らしい顔をしているところからして年齢は中学生ほどだろう。

 瞳が水色と黒のオッドアイになっていて、シベリアンハスキーの獣人と言われればスッと納得できる感じだ。仕立ての良さそうなダークグレーのスーツを身に纏っていて、若いとはいえ自分のことをペットだと言うような人物だとは思えない。


 そして間違いなく、こいつは魔獣だ。

 私と同じく、犬魔獣と化すことができるだろう。


「そうですか。初めまして、私はセトと申します」

「セトさんね。本名かどうかはとりあえず気にしないけど、偽名ならバレないようにやってね。嘘、裏切りは命が無くなるよ。うちの城主は、下々の者のそういう行為には容赦しないから」

「城主は束縛が強い方なんですか」

「その口ぶりも僕の前だけにしときなよ。口答えも絶対にダメ」

「ご忠告ありがとうございます」

「それで? あなたはどういうグリードの持ち主?」

「グリードは持っておりませんが、私はフェンリルでして。ジャンプするだけでロイヤルに到達することができます」

「へぇ。それはいいけど、ジャンプだと衝撃が加わっちゃうんじゃない?」

「試されますか?」

「もちろんだよ。きちんと確かめておかないと僕の首が飛ぶからね。比喩じゃなくて、本当に」




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