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37/59

37 人が増えるとバーベキューも疲れる


 夕日が地平線の周りだけを赤らめ始めた頃、俺たちは倉庫の外にあるテーブルに集まって炭に火を入れた。


 乾杯が終わってナドカさんはビールに口をつけ、虎太郎はせっせと野菜や肉を焼いている。どうやら迷惑をかけたことを反省しているつもりらしく、あれから虎太郎は謙虚だ。

 ドラコとメルカはテーブルについて、子どもだということで優先的に焼けた肉を与えられていた。どうもこいつらがただの銃火器だということをみんな忘れてしまっているらしい。


「メルカさぁ、お前は全然出番がないなぁ」

「別にいい」

「ほんとに? 天邪鬼なだけじゃなくて? ほんとはドラコばっか活躍して嫉妬してんじゃないの?」

「僕が出張らなくても問題がないなら結構なことだ。世の中、平和が一番だからな」


 金髪の日焼け肌をした男の子は、澄ました顔をしてオレンジジュースをちゅうちゅう吸っている。

 完全に思い上がった言い振りだが天邪鬼なのはほぼ確定しているので、こいつは悔しいに違いないのだ。


 ある程度肉が焼けると虎太郎は皿に盛り、自分も席に座った。

 こいつも中学生でお子様なのでソフトドリンクだ。


「でもさ。母さん、どうして俺にグリードのこと黙ってたんだよ? 息子の俺にくらい教えておいてくれても良かったのにさ」

「ん──……。まぁ、な」

「まだ詳しい事を教えてくれないつもりなの」

「お前ももう中学生だしな。そろそろいいか」


 ナドカさんは、自分がどんな特殊部隊にいたかを詳しく説明した。

 元々の本名は「シリカ・フェザーストーン」だったこと、そこで夫──つまり虎太郎の父を殺したこと、それは魔物に操られていたからだということ、それから引退してマーモットを営み始めたこと、その際に改名して「雪代ナドカ」にしたことを話した。


 すごく言いにくいことだっただろうなぁと思った。虎太郎がまだ成人していないから、もしかすると事実を受け入れる準備ができていないかもしれないと考えたのかもしれない。

 

 話を終えたナドカさんはビールをクイッと一口飲んで、話を聞き終えた虎太郎は神妙な顔をしていた。 


「一つ聞いていい?」

「もちろんだ。お前には全てを尋ねる権利があるからな」

「引退したこと、後悔してる?」

「していない。どうしてそれを尋ねたんだ?」

「うん……戦ってる時の母さん、今まで見たこともないくらい嬉しそうだったから」


 虎太郎は、自分のことを選んだが為に母が人生を曲げたのではないかと気にしてるんだろう。こいつは責任感や、それに伴う罪悪感が強いタイプな気がする。だから、地下射撃場から出てきたことをひたすら悔やんでいる。

 だけど、あの判断も場合によっては正しかったはずだ。結果マズッたかもしれないが、それはあくまで結果論。

 

「そうだな……戦いは、俺にとって全てだった。この国の未来を背負った最後の部隊だったんだ。そこの副隊長を任された。自分の命を全て懸けるつもりだった」


 それを聞いた虎太郎は、項垂れた。


「ごめん」

「何を謝ってるんだよ。それより大事なものができた。ただそれだけだ。単純な話だよ」

「……うん」

「それに……結局は、その部隊も失敗に終わった。お前のお父さんは俺と同じく副隊長を張っていたが、それでも魔物には敵わず操られた。隊は瓦解し、退却するしかなかった。他の生き残りは再起して今は別の隊を結成している。俺はそれよりも家族を選んだ」

「そんな大事なこと、もっと早く教えてくれたらよかったのに」

「お前の父さんを殺した俺を、きっと一生許さないだろうと思った。怖かったんだ。自分の都合だよ。ごめん。本当に悪かった」


 寂しそうにうつむくナドカさんを見ていると、俺まで悲しくなってくる。

 家庭の事情として見た場合こんなケースは一般的じゃない。だけど、虎太郎にはナドカさんを許してあげてほしいと思った。

 きっと、護るために必死だったんだ。


「ふん。馬鹿だなマジで。マジで息子のことが分かってねーよ」


 虎太郎は断じた。

 ナドカさんは顔を上げる。


「んな訳ねーだろ。前にも言った通りだ。いつか俺が母さんを護るよ。えーっと……まぁ、だから、その日までは頼むぜ」


 その顔は、きちんと前を向いている顔だった。俺と瑠夏がホッとしている前で、当事者の二人は、はは、と笑みをこぼす。


「……何年先になるだろうな。二十年で叶えばいいが」

「口が減らねーなぁ……」


 俺たちも笑みを浮かべ、笑いが起こる。

 暗い話はこれで終わりだ。まだ問題は山積してるけど、今くらいは楽しもう。


「あれ? そういや、バスちゃんはどこ言ったの?」


 瑠夏の声に、テーブル席に座っているベルが飛び跳ねた。


「え? あ、ああ……ほんとだな。猫のトイレじゃないか」

「そっか。あたし探してくる」

「待って! いや、お、俺が探してくるわ」

「そう? ありがと」


 この感じ、バステトを一度魔獣化させてみんなの前に姿を見せておくほうが無難だと思った。

 だから俺は女子化バステト──つまりベルに合図を送ろうと思ったのだが、俺がアイコンタクトする必要もなくベルは前向きな姿勢で場を離れて俺についてこようとしていた。

 ただ、結果として俺とベルがアベックで場を離れるという事態に。

 それを瑠夏が怪訝そうに見送っていた。


「おい。早く魔獣化しろ」

「わ、わかっておる!」


 ぽん、と姿が変わる。

 無段階で徐々にグニグニ変形していくとかじゃないようだ。それだとちょっと気味が悪いなと心配していた。

 そしてバーベキューの場に戻る。


「ほれ。やっぱトイレだったぞ」

「そっか。よしよし、一人は寂しかったよねぇ、ごめんねバスちゃん。……そんでさ、あのバイト女子のベルさんはどこに行ったの?」

「さ、さあ? トイレとかじゃない? 俺は知らないよ」

「へー」


 どこか含みのある「へー」だったが気にする様子を見せたら負けだ。


「お隣失礼しまーす」

「おう。あれ、ちゃんと真面目にソフトドリンクやってんじゃん。法律上等なのかと思ってたよ」


 隣に座ってきたのは美咲だ。


「ちょっとわたしに対する認識間違ってるよね。夜のお仕事だってちゃんと法に基づいてやってますよ?」

「ほんとかな。億でもなんでも稼ぐって、そんなのでいけると思えないけど」


 美咲が俺に腕を絡ませた。

 改めて見ると可愛い顔をしてる。人気が出るのも頷けるなぁ、と思った。


「じゃあお店来ればいいじゃん。サービスするよ? それか蒼真くんならプライベートでもいいし。あ、なんだったらこの後──」

「美咲ちゃん?」

「……あはは。彼女さんがお怒り(・・・)だからちょっと今日はこのくらいでやめとこうかぁ」

「怒ってないよ? 何度も言ってるけど彼女じゃないし。ただ、そういうのってちょっと不謹慎かなぁと思っただけでさ」

「へぇ。じゃあ、わたしが蒼真くんのことを好きだって言ったら不謹慎じゃないよね。それなら瑠夏さんは許してくれるの?」


 瑠夏が言葉に詰まる。

 パチパチと瞬きさせて、口を尖らせて、何か言おうとして、またやめて。


「ごめんごめんごめん! 冗談だから。やっぱ可愛いわ瑠夏さんはぁー」

「……もしかして、あたしのことおちょくってる?」


 真正面の席から瑠夏にガンを飛ばされた美咲はペロッと舌を出して俺にウインクし、肉を食べる。


「ったく……。ねぇ、そういやベルさん遅くない? 気分悪いのかな。あたしちょっと見て──」

「あああああの、俺が見てくるよ。瑠夏は座っときなって」

「そうちゃんが? だって女子トイレでしょ? どうしてそうちゃんが見てくんの」

「いやさ、あの子は喫煙者だから。きっとトイレのついでに吸ってんだよ。瑠夏に喫煙所とか近寄らせんのもアレだし、俺が見てくるって」

「そっか。……あっ、バスちゃんちょっと!」


 瑠夏の腕をするりと抜けた魔にゃんこバステトは、またこれが馬鹿みたいに俺の後ろをついてくる。

 アホ! 別ルートにしろお前!

 ……そして喫煙所でドロンと化ける。


「……ついでに一本吸っていくのじゃ」

「ああ、そうしろ。女子化したお前と一緒にいると瑠夏に睨まれんだよ俺」

「あの子も可愛いところがあるからのう。正直になれば良いのじゃが」

「まったくだ」


 そしてまたバーベキューの席へ。

 さっきから俺は何をやっているんだろう。


「瑠夏。バス……ベルはやっぱ喫煙所にいたよ」

「そっか。ってか、あの子のこと、もう呼び捨てにしてんの?」

「えっ!? いや、ほら、新人だし。新人に対してちょっとイキッてるだけと言うか」

「そういうのカッコ悪いからやめたほうが良いと思うけど」

「ですよね。今後気をつけます」


 なんか俺への態度が冷たい。




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