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30 邂逅、即戦闘


 マーモットで行われた数珠丸の報告会が終わり、銀髪坊主は帰って行った。

 

「情報源の取得方法についてはまだ確かなことは分からないが、数珠丸のグリードはほぼ間違いなく読心系だろうな。あの美咲が正直に話すわけがないから」

「だとすると情報には信憑性があるね。そもそもナドカさんが数珠丸さんを信用してるしね」

「まあな。敵の正体も判明したし、ルークと美咲の関係も朧げながらわかってきた。とりあえずルークを殺すってのは無しだ」

「ってことになると、山岡さんをどうするかだけど」


 阪口美咲はこのまま依頼を続けて問題ないが、山岡の依頼は断る必要がある。

 だが、魔族暴力団であるアルテリア龍神会がバックについている奴だ。最悪の場合は戦闘になるだろうし、マーモットにもう一度呼ぶのはナシだ。

 ……というか、あいつらにマーモットの場所を知られているのが問題だ。 


「……やっぱ電話は繋がらないね」

「そうか」


 時間をズラして五回は電話しているが、山岡は一度も出ない。

 コールはしているが、無視されている状況だ。さて。


「とりあえず、まずはルークと話をしよう。蛇ドレッド桐谷の討伐は後にして、ルークさえ護り抜ければ当面は問題ないし。まぁあのクラスの魔人がそう簡単にやられるとは思えないけど」


 ライオン丸の首を切った閃光のような剣撃を見る限り、そんじょそこらの敵では相手にならない気がした。

 というか、あれでB級だって?

 マジでA級とかS級ってどんだけなんだよ。


 とりあえず、俺たちは再び常夜の街・暗黒街へ向かうことにした。

 

◾️


 黒竜(ヘイロン)駅で降車し、瑠夏と手を繋ぎながら暗黒街を歩いてルークと出会った辺りへ向かう。

 ただ、よく考えれば、あいつの寝ぐらを知っているわけでもない。あのあたりを彷徨(うろつ)いていれば自然と会えるだろうか。あの時はたまたま会えたが……。


 今回も、バステトは瑠夏の肩の上だ。

 常夜の街には関係ないが今は黄昏時を超えて夜に差し掛かったはずの時刻。「虎太郎が寝てしまうかもしれないからダメ」と言われてバステトは追い出された。ナドカさんは徹底している。


「ねえ、メルカの出番がなかなかないね」

「そうだなぁ。まだ狙撃に入る段階になってないからなぁ。ドラコはずっと懐に入れとかないとダメなタイプの銃だし、しょうがないよ」


 そのドラコを何気に触ってみても、以前のような感情の昂りは感じられない。

 どうやら自粛しているようだ。調教がうまく行っているっぽい。


「とりあえず例のファミレスのあたり行く?」

「そうしよう。俺もそれしか思い浮かばない」

「あ」

「なんだ?」

「付与。二〇メートルくらい後ろかな」

「またか。いい加減にしろってマジで」


 ジャケットの内側にあるドラコに手を触れる。

 シュルッと触手が巻き付いて、ピリピリとドラコの殺意が伝わってくる。


「どうだ?」

「付与取りやめた。反応が早いよ」

「……よくない傾向だな」


 この前の奴よりも危険性が高いか。この後もつけてくるかどうかが問題だ。

 スクランブル交差点を渡り、センター街の方面へ。


「また一瞬だけ。でもすぐに取りやめた」

「これで確信されただろうな」


 敵からすると、付与が効かないなら直接戦闘するしかない。

 もちろんこんな人混みで襲ってくる可能性は低いだろうが、路地に誘えば乗ってくるだろう。もし最初から俺たちを襲うためにここへ来ているなら、付与グリード持ちだけで来るはずはない。


「瑠夏。戦闘になると思う」

「分かった。四級に変える?」

「このままでいい」

「……ったく。本当にあなたはもう……あたしはこれから先もそういう態度には断固反対するから」

「大丈夫だ。心配するな」

「はいはい。絶対に外さないんでしょ?」


 瑠夏と目を見合わせ、互いに口角を引き上げる。

 ライオンに襲われた路地の入口が見えてきたが、そこへ入る前に俺たちは振り向いた。


 そこには、スーツの男が六人。

 悪魔、鹿、犬、虎、虎。

 そして山岡。

 

「尾行ご苦労さん。暗黒街で待ち構えてたのかよ? さぞ待ちぼうけしてたんだろうな」

「待ち構えていたなんてとんでもない。進捗状況はどうかなと思いまして」

「へぇ。新人エージェントだから心配してくれてたのかな」

「その通りです。ルークを殺して欲しいという私たちの依頼がきちんと果たされるか、それが心配で心配で」


 常識的に考えてこういう話は通行人に聞かれないよう考慮するものだが、逆に山岡は妙に声を張っている。

 瑠夏の肩に乗っているバステトが、にゃあと鳴いた。

 俺の疑問の答えは、バステトが教えてくれた。こいつが向いている方向は、俺たちの後ろ──路地の陰にいる一人の魔人、ルークだ。


「よお。お二人さん、もう来んなって言っただろ?」

「……ああ、まだちょっと用事があって──」

「俺を()りにか?」


 刃圏、という言葉がある。

 もしそれが目に見えるものだとしたら、俺を含めた山岡一派六名すべてがこいつの領域に入っていると思った。空気を伝ってくる殺意が肌をビリビリと振動させている。


「待てルーク。俺たちは、お前と争う気はない」

「争う気はない? おかしいですね。私ははっきりと申し上げました。エージェントギルドのB級指定魔人・ルークを殺して欲しいとね。あなたはその依頼を正式に受けたではないですか」

「黙れ山岡! お前は俺たちを──」

「ほおー。アルテリア龍神会に(くみ)するエージェントだったってわけか。お前らエージェントは魔物に苦しめられている人間の恨みを晴らす組織だろうが。いつからお前らは腐り果てた。エージェントのくせに魔物の依頼を受けやがって」


 ルークは俺の言葉に被せてくる。

 非常にまずい。話を聞く気がない態度だ。


「待って! ルークさん、あたしたちの話を聞いて。確かに依頼は受けたけど──」

「中村さんよ。俺はあんただけは良い奴だと思ってたんだけどな。別に根拠なんてねーけど話せばわかることもあるだろ。だからショックだよ。自分の見る目の無さがな」

「中村? お嬢さん、確かあなたはメルさんと名乗っておられましたよね? それはSNSのネームだったはず。まさか中村メルさんというお名前でもないでしょう。ああ、ルークには偽名を使ったんですね」


 山岡の意図は分かっていたが、この場でこいつの思惑を凌ぐのは難しかった。

 偽名を使ったことが裏目に出る。


「……へぇ。黙るってことは本当かよ。この嘘つき共がよぉ。俺はなぁ、龍神会の魔物だけをターゲットにしているんだ。龍神会の刺客であるお前らにこれ以上喋ることは何も()ねー」


 ルークは腰に差した日本刀に手をかける。

 スタンス幅を広く取って姿勢を低くし、真下を向いて構えた。


「姉ちゃんよ。メル、だったか? 兄ちゃんから離れろ。俺は女を殺す趣味はない。兄ちゃん構えろ、それまで待ってやる」


 ルークの鞘が光り始めた。


 日本刀を使ったグリードには色々種類が思い当たる。

 単純に斬撃力の向上か、斬撃スピードの向上か、接近速度の向上か、はたまた刀が伸びるとか、波動が飛ぶとか、あの光を見たら動きを止められるとか──まぁ動きを縛る場合は付与のカテゴリに入るので瑠夏とこのまま手を繋いでいれば問題ないが。


 いずれにしても、この場でこれ以上話しても無駄だろう。すぐそこにいる山岡は無表情だが、心では間違いなく笑っている。

 瑠夏から手を離すかどうか──それについて俺は「離さない」と判断した。

 

「俺はこのままでいい」

「……はぁ? お前は好きな女を道連れにすんのかよ」

「ルークさん。あたしはね、元々この人と一蓮托生なの。だから全然いいんだよ?」

「……くっく。ほんと惜しい奴らだよ。どうして龍神会なんかの手先になるのか理解不能だが俺は絶対に退()かない。絶対に、退くわけにはいかねーんだ」

「よく喋るな。早くやれよ」

「いいから聞け。俺はお前のことは買ってるんだ。先に俺の技を教えておいてやる。抜刀術だよ。それも神速だ。A級指定であっても速さで俺に勝つことはそんなに簡単なことじゃねー」

「わざわざアドバイスどうも」

「……馬鹿が。お前に勝ちはねーって言ってんだよ……」

 

 こいつは、俺に逃げて欲しかったのかもしれない。

 別に逃げてもよかった。そうすれば無用な戦闘は避けることができただろう。

 ただし、それは山岡の──龍神会の仲間であることを認めることになる。きっと、二度とこいつの信用を得ることはできなくなる。


「俺がなんで逃げないか、それはこの勝負が終わった後に話してやる」

「終わった時にはお前は死んでるが」

「俺は殺さないよ」

「……くっく。ほんとに惜しい奴だ」


 ドラコに手を掛け、同期する。

 左手は瑠夏と手を繋いだまま、俺は棒立ちだ。

 俺的にはこのまま戦闘に入ってほしかったところだが、運命ってやつはもう一段階だけ難易度を上げてくれる。


「お兄ちゃん!」

「……美咲!」


 どこかに居て話を聞いていたのか、それとも今見つけたのか。

 目を見開いて必死の形相になった美咲ちゃんが、ルークに駆け寄る。

 山岡一派が、美咲ちゃんへ冷徹な視線を向けていた。

 

 


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