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28 謎の銀髪さん①(美咲視点)


 待機中に人が訪ねてくることは、今まで一度もなかった。

 というか、仕事中のキャストを訪ねてくるなんてどういう神経だ。パクられんのかとビビったけど、それなら店ごとだろうし。

 なんかの事件の捜査をする刑事か? もしかするとお兄ちゃんが殺した魔物の件とかだろうか。


 要は、お店で働くわたしに見知らぬ人が訪ねてきたらしい。今日は客が少なくて鬱ってたんだけど、出ていくと銀髪の超イケメンだった。

 うわ。マジ当たりじゃん!

 ……って、違うか。客だって言ってなかったもんな。ただの訪ね人。


「あなたが『あいか』さんですか?」

「そうだよ。お客じゃないって聞いたけど」


 わたしの質問には答えずに、じっと見つめてくるイケメン。

 どういう目だろう。わたしはいろんな人を見てきたはずなんだけど、この人、全く分かんない。


「……えっと。そんで、どうします?」

「ああ、そうですね。あいかさん、少しお時間をいただけませんか」

「お客してよ。しながら話せばいーじゃん」

「お金が必要ですか?」

「じゃなきゃ、やってねーよ」

「なら、私とお話するだけでプラス三万なら?」

「たまにそういう人いるね。お仕事するより稼げるんならもちろんいいよ」


 あのエージェント二人組に六百万円くらい払わなきゃなんないんだ。急いで稼がなきゃ。

 それに、桐谷へもお金を渡さなきゃならない。こっちのほうがもっとシビアだ。


 それにしても、この銀髪さんは話が止まるたびにわたしのことをジーッと見つめてくる。なんだろう?

 金だけ払って何もしない客はいるけど、それに三万足してまで外で話をしたいだなんて、ちょっと不気味で怖い。


 カウンターしかない狭いラーメン屋に連れてったら銀髪さんが奢ってくれるって言ってきた。

 このラーメン屋のおっちゃんはわたしの知り合いだし客もほとんど知り合いだ。ここなら色々話しても問題はないし、この男が襲ってきても助けてもらえる。


 カウンターに座って、注文を終える。

 ラーメンが出来上がってくるまで、この男はラーメンの話しかしなかった。どっちかっていうと魚粉の効いてるつけ麺が好きだけど、この店で言うなら塩が美味しそうだからそれにするって。

 なんなんだこいつ?


「お待ちー」


 ラーメンが来た。

 ズズズ、と啜りながら仕方なくわたしから尋ねる。


「で、話って何?」

「あなたにはお兄さんがいますよね」

「いないよ」

「嘘はいけませんねぇ。誰にも言ってませんが、私はね、心が読めるんですよ」

「あれ。そっち系のヤバい人だったか」


 イカれてると命の危険まであるからなぁ。ラーメン屋のおっちゃんも、心配して厨房からわたしたちを見てる。


「兄のこと、誰から聞いたの?」

「あなたの心です」

「いいからそういうの」

「なら、証明しましょうか。そのお兄さんは、今、命の危険がある。具体的には分かりませんが、桐谷って男が関係してるんですね」

「……なに言ってんの?」

「心の上澄に漂っている情報を読み取っただけですよ」


 やっぱ、あぶねー人だね。

 それか、めちゃくちゃ情報収集できる人か。


「信じてくれました?」

「んな訳ない」

「お兄さんのことが好きなんですね」

「嘘はいけないんじゃなかった? 心を読めるってのは嘘だわ。わたしはあんな奴がどうなろうが知ったこっちゃないよ。ただ、あんな奴でも一応は血を分けた家族だからさ」


 わたしの両親は、魔物に殺された。

 九年前の、ある日曜日。今でも鮮明に覚えてる。

 わたしとお兄ちゃんは仲良しだった。だから、小学生だったわたしとお兄ちゃんは二人して同じコーチのところでバスケを習ってた。そんなあたしたちが夕方からバスケの練習に行った日のことだ。


 帰ったら、遅めの夕飯を食べる予定だった。

 お兄ちゃんと喋りながら歩いて、家へ着くと玄関ドアが開いていた。いつもわたしたちが帰ってくる時間にはお母さんが鍵を開けておいてくれるから、今日もそうだと思ってた。


 ドアを開けたら、血痕があった。

 それは、すぐそこにあるリビングの中へ続いていて、わたしとお兄ちゃんは無言でそれを辿った。


 あったのは、ぐちゃぐちゃに分解された死体だ。

 ただのバラバラ死体。見たことのある顔が二つあると認識できるまでに、きっと五分間くらいかかったと思う。

 それから、警察へ通報の電話をするまでに、たぶん二〇分間くらいかかった。

 精神が動き出すのに、それくらい時間が必要だったんだ。今でも夢に見てしまう。眠れない夜がいつまでも続いてる。


 身寄りがなかったわたし達は施設に入った。

 お兄ちゃんだけが、わたしの家族になった。


 その頃からだ。

 お兄ちゃんは外でよく喧嘩をするようになり、いつの間にか武道を始めていた。

 ひどい怪我をして帰ってくることも一度や二度じゃない。真っ当な武道じゃないことは一目で分かった。わたしはお兄ちゃんを問い詰めたけど、お兄ちゃんは何も言わないし教えてくれない。


 だから、わたしたちはしょっちゅう言い争っていたんだけど、ある日、跡をつけてみて、お兄ちゃんが何をしたいのか、ちょっとだけ分かったんだ。


 お兄ちゃんは、理不尽な暴力に困っている人を助けてた。魔物に対抗できる力が使えるらしいお兄ちゃんは、相手が人間だろうが魔物だろうが真っ向から戦っていた。

 昔のように、優しいお兄ちゃんだったことにわたしはすごく安心した。

 でも、心配事も増えてしまった。


 たった一人の家族。

 なのに、お兄ちゃんは相手が魔物でも関係なく喧嘩しちゃうから。そのせいで、いつか魔物から狙われちゃうんじゃないかってずっと心配だったんだ。


「そうですか。それで、ご両親を殺した魔物は特定できましたか」

「…………!!」

「まだ疑ってましたか? なら、もう少しお話ししましょうか」

「何を」

「悪夢を見るのはつらいですね」

「……やめろ」


 強く言わなければ、次の言葉を止められないと思った。

 こいつは危険だ。


「お兄さん、正義感の強い人なんですね」

「……馬鹿なんだよ。馬鹿は長生きできないんだ。マジで嫌気が差す。あんな奴、嫌いなんだよ」

「そんなお兄さんが誇りだった」

「違う」

「自分は水商売のスカウトに──魔物に惚れてしまって、危険な世界に足を踏み入れてしまいそうだ。だから、お兄さんにはこちら側へ来てほしくなかった」

「違う!!」

「なのに、そのスカウト──桐谷(きりや)剛毅(ごうき)は」


 わたしは、カウンターをバン! と叩くように立ち上がった。食器がガチャンと音を立てる。

 もう無理だ。


「帰る」

「このままじゃ、お兄さんは死ぬ」


 銀髪は、コップに水を注いで口をつけた。

 わたしは、立ち上がったままそれを眺める。


「と、あなたは考えた。私も同感です」

「…………なんでそう思うの」

「これは思考を読んだ結果ではなくて、裏の世界で生きてきた私の勘です」

「ただの勘かよ。なら当たんねーかもしれないでしょ」

「不思議と当たるもんなんですよね。悪い予感というのは」


 ……くそ。なんで分かるんだよこいつは。

 そうだよ。このままじゃ、きっとお兄ちゃんは死ぬ。




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