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27 数珠丸の報告会


 暗黒街を出てマーモットに帰り、状況をいつものメンバーに話す。銃の二人も、もちろん擬人化だ。

 事務所のソファーに座って飲み物を飲みながら。これはもうお馴染みの光景になってきた。


「ってことは、どちらかが嘘をついているということか」

「うーん……ただねナドカさん、山岡さんは、殺された中島さんのことを人間だとは明言してないんすよ。そもそも自分たちのことすら人間だとは言ってない」

「なるほどな。仮にどちらも嘘をついていないとしたなら、中島という男は魔人ということになると」

「その山岡さんまで魔物だったとしたなら、話は変わってきますね。というか既に話は変わってきているか。そうちゃん、どう思う?」

「そうだな……仮に山岡の件が魔物からの依頼だったとして、それによって辛い思いをした人間の思いが浮かばれているのなら別にいいとは思うけど。そこはエージェントの規約には特に記されていないだろ? ねぇナドカさん」

「だが本来の任務内容じゃない。魔物がエージェントを利用して、殺したい奴を殺そうとするのはよくあることだ。だが、慣れたエージェントはそういうことをする組織のことをよく把握しているようだから、狙われるのは新人エージェントだな」

「なるほどねぇ……こうなると、もう一度山岡から話を聞く必要があるな」

「だね。あたしもそう思う」

「よし、方針は決まった。ところでドラコ。お前に話がある。ちょっとこっち来い」

「…………なんですか」


 俺はしゅんとするドラコを連れて、事務所を出て倉庫内の離れたところへ。

 そんなに落ち込んだ様子をされるとなんか少し可哀想になってきた。でも、ここはきちんと言っておかなきゃならない。


「暗黒街で撃った時、俺がまだ完全に撃つ意志を固めていないのに撃ったよな」

「……そんなことはありません」

「いや。少し早かった。今後は俺の意志をきちんと確認してからにしろ。でないと、殺しちゃならない相手を殺してしまうこともある」

「…………」


 ドラコは、不服そうにうつむいた。

 こいつはそんなに快楽が大事か。それともせっかちが過ぎるのか。

 ったく、どっちにしてもとんでもない銃だ。


「わかったか? ちゃんと返事しろ」

「……わかりました」

「いい子だ。お前のことが嫌いで言ってるんじゃないんだぞ。大事なことなんだ」


 俺はドラコの頭を撫でてやる。

 拗ねたように口を尖らせていたドラコは、少しだけ表情を柔らかくした。

 それからみんなのところへ戻り、これからのことについて続きを話す。


「そうちゃん、山岡さんに電話してみたんだけど繋がらなくてさ。忙しいのかもしれないし、殺し屋が留守電にメッセージ入れる訳にもいかないからまた後で掛けてみるよ」

「そうだな。わかった。ってか数珠丸はどうなったんだよ。ちゃんと仕事してんのかな」


 ガガガ、と鉄扉が開けられる音。

 事務所から顔を出して覗くと、スラックスに襟付きの長袖シャツ、上からコートを羽織った銀髪住職が倉庫へ入ってくるところだった。


「お前、俺たちの話をどこかで聞いてるんじゃないのか。タイミング良すぎんぞ」

「なんの話ですか」

「いや別に。今日は普段着か。なんか新鮮だな」

「ええ。さすがに法衣で仕事(・・)する訳にもいきませんし。美咲さんのことを探りに行ってましたからね」


 ドラコが立って数珠丸に席を譲った。数珠丸は手を挙げて軽く礼をしてから座る。

 誰かに指示された様子はなかったがメルカが数珠丸の分のコーヒーを持ってきた。性格曲がってる癖にそういうところはちゃんと覚えたようだ。


「美咲は素直に応じてくれたのか?」

「ええ。客になってくれと言われましたが」

「「え!?」」


 俺と瑠夏は目を丸くした。

 何かを察した数珠丸が、コホンと一つ咳払いする。


「まあそれは置いておいて。早速、話を進めましょう」

「……数珠丸さんって、そういう人だったんだ」

「違います!! これは仕事です! 心は瑠夏さん一筋なんです!」

「じゃあ体はもう違うんだね。楽しそうでよかったね」

「そんな……!」


 数珠丸は肩を落とした。もう報告どころじゃなくなっている。なんだか可哀想になってきた。

 追い討ちを掛けるように、バステトが汚いものを見る目を数珠丸へ向けている。


「大丈夫だよ数珠丸さん、気にしないでね。話を進めようよ」

「目が笑ってませんが」

「瑠夏はそういう奴だから」

「どういう意味? 普通の女の子の反応だよ」

「だよね。俺もそう思います。全部数珠丸が悪いと思います。まだ陽も明るいうちからそんなところへ行って」

「蒼真……! あなたという人は……!」

「はいはい、冗談はここまでにしてそろそろ本題へ入れ」


 ナドカさんの言葉で、数珠丸は反論を諦めた。こいつも瑠夏と同じでナドカさんには逆らわない。

 数珠丸はコーヒーに口をつけ、気持ちを落ち着けてから話し始めた。


「とりあえず分かったことからお話しします。彼女──美咲さんがどうしても護りたいと願っているのは、エージェントギルドのB級指定魔人・ルークという魔物です」

「……それは確かなのか?」

「ええ。百パーセントです」


 例によって百パーセント。だとすると困ったことになった。

 二件同時に依頼を受けて、殺して欲しいという対象と、護って欲しいという対象が同一人物とは。

 瑠夏と視線を交わすが、やはり瑠夏も一目見てわかるくらいに困惑している。


「そしてもう一つ。あなた方に仕事を依頼してきた株式会社ウィズユーという会社、どこかで聞いたことがあったので調べました。この会社は魔族暴力団『アルテリア龍神会』のフロント企業です」

「……アルテリア? マジか」

「ええ」


 アルテリアとは、俺と瑠夏が異世界で住んでいた国の名前だ。

 アルテリア王国。

 そこに根付いていた暴力団の構成員が人間界へ転移とか転生とかして、こちらでも同じような団体を組織したんだろうか。


「その関係者と接触することができました。それによると、『中島』という人物は、株式会社ウィズユーには存在しません。あなた方にルークを始末させるための口実のようですね」

「それ、その関係者から聞き出したの? そんなことを簡単にゲロったのかよ」

「百パーセントです」


 あっそ。本当だとするともう確実に読心系のグリードだなこりゃ。

 発動条件次第だが、今もまさに俺たちの心を読んでいるかもしれない。

 

 付与グリードの範疇に入るか入らないか。

 こいつの能力の設定次第だが、例えば「印を付与した相手の心を読む」とかなら付与の範囲になって、瑠夏と手を繋いでいれば防げる可能性もゼロではない。


 ……とか考えてるこの思考もすでに。うわ最悪、瑠夏が付与グリード全部弾けることがバレたかも。

 もうやめよう。今さら手遅れだし余計に沼る。

 だって数珠丸がにっこり微笑んでいるから。


「ふふ。どうかしましたか?」

「……気にするな。それで、なんで山岡はルークを殺したいの?」

「ここ最近、ルークはアルテリア龍神会の構成員を殺して回っているようですね。龍神会側は、ルークを新興勢力『バジリスク』の鉄砲玉だと考えているようです」

「龍神会はぽっと出の敵対勢力の力を削ぎたい訳か。それにエージェントを利用しようと」

「ええ」

「それで、バジリスクってのはどういう組織だ?」

「半グレの集まりみたいな集団ですね。これから龍神会を喰っていこうと企んでいる勢力です。ただ、少数ですが超武闘派で」

「ふーん……」

「ねぇ数珠丸さん。美咲ちゃんの話に戻すんだけど、彼女は人間だよね?」

「ええ」

「美咲ちゃんは『お兄ちゃんを護ってほしい』って言ってたんだよ。でもルークは魔人だよね。それで兄と妹? 意味わかんなくない?」

「そこは私にもまだ分かりません。分かっているのは、阪口美咲は『蛇ドレッドの男』がルークを支配していると考えていることです」

「それは、どうして?」

「蛇ドレッドの男の名前は『桐谷(きりや)剛毅(ごうき)』。彼の正体はバジリスクの総裁ですが、阪口美咲とは水商売のスカウトとして出会っていました。路上で話し掛けられたのがキッカケで彼女はそのまま惚れ込んでしまったようですが、夜の世界にはまだ入っていなかった。しかしある日、『兄貴を解放してほしければ一億用意しろ』と桐谷に言われ、金を作るために夜の世界に入ったようです」

「それも美咲ちゃんの心を読んで知った情報か」

「なんの話ですか?」


 美咲ちゃんも、サービスしながらじゃそこまでの情報を喋れるほど口動かせないからね。そういう方向性の推理で読心であることを看破した俺ってすごくない?


「あのね。何を勘ぐっているのか知りませんが、お店を出てご飯をご一緒しながらお話しした内容ですよ?」

「へぇー。まるで俺の心を読んだようだね?」

「気のせいだと思いますよ?」

「そうちゃん、そこはちょっと置いといてさ。数珠丸さん、ちょっと話飛びすぎて意味分かんないです」

「すみません。少し話を戻すと、美咲さんは蛇ドレッド『桐谷』が部下と話をしているところを盗み聞いてしまったようです。『ルークを差し向けて、次はもっと上をやれ』と指示しているところをね。美咲さんがそれを問い詰めたことによって桐谷が本性を現した」

「……ったく、あの女。他に情報は知らないとか言っておいて、やっぱ隠してたか」

「彼女は他のエージェントに軒並み仕事を断られていました。桐谷がバジリスクの総裁だからという理由です。桐谷はエージェントギルドのグレーディングで言うとS級首。並のエージェントが逃げてもおかしくありません。だから、もう断られたくなくて隠したんですよ」

「マジか。めちゃくちゃ大物じゃないか。この国にいるS級なんて五〇匹もいなかっただろ」

「ビビりましたか」

「いや? 報酬額が上がるだけだよ」


 S級首なんて、まだC級エージェントの俺たちにとってはエージェントギルドから紹介してもらえないレベルの仕事だ。もちろんそれは危険だからなんだけど、B級を追っていて偶然S級にぶち当たってしまった場合は仕方がない。


 もちろん逃げる気はない。横にいる瑠夏を見ても全然ビビってる感がない。こいつは最初から命捨てる気だから何も怖いものはないはずだけど。

 そもそもS級だからといって逃げてるようなら紫眼の魔女なんて夢のまた夢だからだ。これは俺たちにとって、今後を占うにはむしろ良い相手と言えるだろう。


 しかし、あの美咲のことが気になる。

 いくら断られたくなかったとしても、普通に考えて隠したら後々判明した時に断られるだけだ。その程度のことに頭が回らないほど追い詰められてたというのだろうか。それとも単にガキだからか。

 しかしどっちにしてもあの娘、きっと報酬額を引き上げても払えないだろうなぁ。


「数珠丸さん、ルークさんが桐谷に従っているのは、桐谷がS級で強いから?」

「それは美咲さんにも分かっていませんでした。よって私にも分かりません」

「でもよ、『魔物を殺して回ってる』って言っても、魔物はグリードがないと倒せない。それも美咲は知ってたのかな。それとも、何も知らないけど単純にお兄ちゃんなら魔物くらい倒せるって思ってたのかな」

「彼女はグリードを明確に認識してはいませんでしたが、ルークに魔物を倒せる特別な力があることは理解していました。兄であるルーク──本当の名前は阪口清十郎というようですが、彼は人間の頃からグリードを使えたようです」

「人間の頃?」

「ええ。どうしてそうなったのかは分かりませんが、ルークは、元は人間でした」




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