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18/58

18 休日は夫婦っぽいデートしてほしい。



 今回の依頼者・中谷氏が帰ると、予想の通り瑠夏は飛び跳ねた。


「ナドカさん聞いて! 次の依頼者を紹介してくれるんですって! イヤッホーっ」

「よかったな。お前たちが頑張った証拠だよ。次の依頼者はいつ来るんだ?」

「明後日には来るみたいです! だから明日はお休み。それにしても、もっと仕事の間隔が開いちゃうんじゃないかって思ってたんですけどねー」

「じゃあ、明日は二人で出掛けてくればいい。久しぶりのデートでもしてこい」

「……デート?」

「お。いいじゃん。行こうぜー」

「そういう言い方はちょっと引っ掛かりを感じるんだけど」

「そう? じゃあ『お出掛け』ならいいのかよ」

「……ですね」

「はは。なんで敬語?」


 過去のワンシーンを彷彿とさせるやりとり。

 妙に溜飲が下がる思いだ。

 逆に瑠夏がストレス溜まってしまったかな。口が尖ってるし。


「あんま気にしないでさ。純粋に休みの日を楽しもうよ」

「……ま、確かにそうだね。じゃあどこへ行く?」

「映画館へ行ったり、話題のスイーツ店を巡ったり、手を繋いでショッピングモールを歩いたり」

「デートじゃんそれ完全に」

「何がデートかって捉え方も人それぞれだし定義するのも難しくない?」

「ああ言えばこう言う」

「じゃあどこがいいの」

「渋谷の武器屋を巡ったり、新宿の武器屋を巡ったり、池袋の武器屋を巡ったり──……」

「そんなのマーモットでいいじゃん。ってかそんな人だったっけ?」

「仕事に真面目な人なのあたしは。休みだからってそんなに気を抜けるメンタルがむしろわかんない」

「じゃあ生真面目メンタル抜かなくていいから猫カフェに行こうよ」

「……ま、それならいいかも。うん。それにしよう」


 中指の先をこめかみに当てて難しい顔をする。

 そんな瑠夏に、ナドカさんが肩をすくめる。

 こいつの頭をクールダウンさせるにも一苦労だ。


◾️


 翌朝、八時。

 目が覚めると瑠夏はソファーに座ってもうメイクを始めていた。

 

 仕事の時を含めいつもはポニテが多いから、今日は髪を下ろして欲しいなー……なんて俺は思いつつ、リビングに置いてあった菓子パンをかじりながらかつての妻を眺める。


「……なに? ジロジロ見ちゃってさ」

「何でもないよ。すっぴんも可愛いけど、やっぱ化粧すると一段と──いてっ」


 ポンポン物が飛んでくる。

 ちょっとやり過ぎた。しばらくはやめておいたほうがいいかもしれない。


 俺の希望通り、肩下くらいの茶髪を下ろしたままにしてくれた瑠夏。

 そのくらいはいいよ、だって。


「でもさ。敵に出会ったときにはポニテのほうが動きやすいんだよね」

「そんな常在戦場みたいな気持ちでデートするの? ちょっと興醒めなんだけど」

「だからデートじゃねぇって」


 うーん。

 どうやって手を繋ごうかな。

 今日の目標はそこだけど、達成の見込みが全然立たないわ。


 せっかくのデートをガキ二人組に邪魔されたくないからメルカはマーモットでお留守番、護身用としてドラコは銃装化してジャケットの下にあるホルスターへ。


 とりあえず入ったのは猫カフェ。

 瑠夏が「ノルウェージャンがいないと嫌!」って叫んだがもちろん分かっているから既に調べてある。


「あ──……可愛い」


 椅子に座った俺と瑠夏の膝の上を、猫が歩く。

 瑠夏は抱きしめたくてうずうずしていたが、そんなことをすると猫にストレスをかけちゃうみたいなのでグッと我慢して撫でるだけにしていた。 

 ほとんどの猫は寝てばかりだけど、たまにキャットタワーを登って吊り橋をトコトコ歩くのが愛らしい。そんな様子を見上げながらホッコリする。

 

「猫飼いたい」

「どこで飼うんだよ。俺らは家にあまりいないし──」


 そう言いかけて、言葉を止める。


「……いや。それも良いかもな」

「でしょ? 絶対に癒されるって!」


 この世に未練を増やすこと。

 それは、きっと俺の目的を叶えるために大事なことだ。その役目は俺だけが担う必要はなくて、ノルウェージャンにも担ってもらっていいんだ。


「飼うとしたら、マーモットにもお世話にならないとかなぁ」

「拠点として使わせてもらってる上に猫飼うとかやりたい放題だけどね」

「一つ目の仕事も成功したから報酬も入ってくるし、使用料を払おうよ。ならきっと大丈夫じゃないかな。ナドカさん、猫大丈夫だと思う?」

「あの人、美形のメス虎のイメージしか湧かないから同類だろうしたぶん大丈夫じゃない?」


 あのクソ坊主に二百万円も払った上に、ナドカさんにも賃料か。俺たちの報酬は相場よりも安いようだし報酬設定はきちんと見直す必要があるかもだ。


 膝の上のノルウェージャンが瑠夏を見上げた。

 構ってくれるのかなぁなんて思っていたっぽい瑠夏は、澄ました顔でひょいと飛び降りるノルちゃんの様子を眺めながら名残惜しそうにしていた。


 俺はスマホで魔物被害相談所(エージェント・ギルド)のHPを開く。

 報酬は俺たちの口座に直じゃなくて、ギルドの口座に振り込まれている。金の流れを管理している銀行にも魔物が働いているため、エージェント個人を追跡される恐れがあるからだ。


 これはなるべくエージェントであることがバレないようにするためにやっていることだが、魔物がエージェントをターゲットにする場合にはそれ以外の手段で特定してくることが多いためあくまでギルド側としての処置。

 ログインして報酬額を確認すると、五百万円が入っていた。


「もうお金が入ってる。ほら」

「本当だ! なんか嬉しいね。帰ってみんなで夕方からバーベキューでもしようよ!」

「おー、いいね」


 ナドカさんの一人息子、虎太郎(こたろう)ももう一四歳。雪代親子はマーモットの裏にある家で暮らしてるから何度も一緒にバーべキューした。

 虎太郎は、俺たちより早いくらいの年齢から──すなわち小学校低学年くらいからバシバシ体力系の訓練を鬼の母にやらされてたから、すごく逞しい。


 そんなこんなで、二人っきりのデート時間は猫カフェと、お昼ご飯を外食したくらいで終了。ナドカさんに電話をして、スーパーで材料を買って帰ることに決定した。

 

「帰る前にさ、ちょっとだけペットショップに寄らない?」

「いいけど、まだ買わないぞ? ナドカさんに確認してからじゃないと飼えるかどうか分かんないし」

「うん。見るだけ」


 ペットショップに入った瞬間から、瑠夏は目をキラキラさせながらケージの中の猫ちゃんたちを眺めていた。ホントに見るだけだよ?

 このお店は魔獣系のペットも置いているようで、ツノが生えたミニチュアダックス・ペガサスとか、なかなかの牙が生えたネズミっぽいやつとかがケージに入って陳列されている。ポップには「キラーラット」って書いてあるけど一般家庭で飼って大丈夫なのだろうか。


「わー、かわいいー! 見て見てそうちゃん、この子、ほら!」

「へぇー。犬かぁ。それもいいよね」


 ただ、注意書きに「人に化けることがあります」と書いてある。

 それってグリード持ちじゃねーのか? なんか危ないな。

 瑠夏は色々目移りしているが、目的は一つだ。


「ノルウェー・ジャン・フォレストキャットって置いてますか?」

「ノルウェージャンですか。昨日引き受けたばかりの子が一匹いますが。ただ、売れ残りなんですよね。だからもう子猫じゃないんですよ」

「見せてください!!」


 食い気味で瑠夏が叫ぶ。

 勢いに圧倒された店員が、ちょっと待ってくださいと言って奥へ入って行った。


「おい。しつこいようだけどナドカさんに聞いてからだからな。まだ買わないから」

「うん。見るだけ」


 そうして店員が持ってきたのは、美しい毛並みをした一匹のノルウェージャン。

 鮮やかな白とオレンジの毛に覆われたもふもふの天使を目にした途端、瑠夏は飛び跳ねた。


「わぁー!! これこれ! えっ、オレンジじゃん!!」

「女の子になります。やはり子猫が人気なので、この子はどこのお店でも買われなくて」

「すっごい可愛いー! タマちゃんそっくりだ! 色も同じオレンジだし運命じゃない? じゃなきゃこんなに似てる訳ないもん! そうか……分かった! そうちゃん分かったよ!」

「何が」

「タマも転生したんだよ! くっそ……あの天使めタマまでよくも! そういうことならそうちゃん、この子、買おう!!」

「いや、ちょっと待って。さっき買わないって──」

「だって見てよこの子の目! 『私のことを買って』って言ってる」

「言ってるかなぁ……」

「ほら。このふさふさの毛並み。つぶらな瞳。なのにここで売れ残っちゃったら。そしたら、もしかしたら……そんなの可哀想だよ絶対にだめだ。蒼真はそれでもいいっていうの?」

「いや、俺はただナドカさんの許可をね……」

「ナドカさんが同じネコ科だから大丈夫だって言ったのは蒼真だよ?」

「そ、それはあくまで物の例えでさ。ただの希望的観測だし百パーじゃないし」

「だめなの」

「そんな潤んだ目をされても」

「お願い。一生のお願い」


◾️


「ふんふんふん〜♫」


 結局買ってしまった。

 時折ケージを覗き込みながら鼻歌まじりに歩く瑠夏とともに帰路に着く。こんなにご機嫌な瑠夏は久しぶりな気がするなぁ。

 ってか、寿命削ってる奴が一生のお願いとか口にするのは反則だ。


「でも、マーモットで飼って本当に大丈夫かな……」 

「なんとしてもナドカさんにお願いしなきゃだね! あの人、表情は怖いけどホントは優しいんだよ。だからきっと大丈夫」

「俺のこと何回か殺そうとしたけどな」


 まだ明るいうちにスーパーのレジ袋を下げてマーモットへ帰る。

 ナドカさんは、倉庫の外にテーブルを置いてもう準備を始めていた。


「結局はいつものバーベキューか。瑠夏はリフレッシュできたか?」

「ええ、まぁ。それに、確かに美味しいし楽しいから俺もこれで良いですけどね」


 俺たちもバーベキューの準備をしなきゃならないので、瑠夏はルンルンしながら猫のケージを倉庫へ置きに行った。


「……それで、あ、あの猫はどうしたんだ?」

「あのぅ……飼おうかと思いまして。瑠夏がどうしても欲しいと」

「そうか。確かに良いかもしれないな。復讐以外のことを考えさせるのも大事だ」

「……ですよね! 俺もそう思って!」


 良かった! ナドカさんも同じ気持ちだったんだ!

 じゃあ大丈夫だろう。


「まあ銃がたくさん置いてあるから危ないし、散らかさないようにしないといけないかもですけど」

「銃? そんなことを心配をする必要ないだろ」

「そうですか? ならいいんですけど。ところで、ナドカさんは猫を飼う人のことってどう思います?」

「どうって……まあ色んな人がいるからいいんじゃないか。それよりカーペットとか絨毯とかを引っ掻かれたりはしないものなのか?」

「俺も飼ったことないんで分かんないんですけど……まぁ殺風景だし、そういう類の物は無いから問題ないかと」

「そうか。もう少し瑠夏が喜びそうな内装にしたらどうだ?」

「俺の勝手にはできないですし。ああ、虎太郎も猫は好きかなぁ」

「さあ。あいつから動物を飼いたいという要望を聞いたことはないな。なんでだ?」

「いや、懐いてくれたらいいなと思って」


 なんかいけそうだ。

 虎太郎も喜んでくれると嬉しいなぁ。




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