13 新しい相棒たち
「わかったでしょ? 喋るなんて無駄です。まずはやってみるのが早い」
「考え方が偏ってんな……」
えっへん、と控えめな胸を張る緑髪の少女。
こいつと神経接続したことで概ねのスペックも理解した。
銃単体ではグリード効果が弾に乗っていないため魔物を倒せないが、瑠夏が力を込めた魔弾を装填した時にはあらゆる魔物に対して先制攻撃をぶち込むはずだ。
有効射程は一〇〇メートル、普通はハンドガンでこんな射程を使いこなすのは無理だが俺の魔眼なら問題ない。
「しかしアキラが言うには、武器に主人として認めてもらわないと使えないはずなんだけどな。どこかでユーザー認証されたか?」
「いえ? 特にそんな感じは」
「あー、それなら大丈夫です。わたし好みのお兄さんだから。一目見た瞬間に気に入りました。ルックスが」
「はえっ?」
「でもね、いくらイケメンさんでもまだ気安く触らせるつもりはありませんから。銃の形になったからって許可なく触らないでくださいね? 人の形になったわたしのカラダのどこを触ってるのか想像して頂ければ、普通の倫理観のある方なら迂闊にそんなことはできないはずです」
瑠夏がまた俺を薄目で見ていた。
おい。変態を見る目で俺を見るな。
「そういや、まだ名前を聞いてないな。まずはきちんと名前を名乗れ」
ナドカさんはそこにうるさいタイプだ。この人自体がそんなに礼儀正しいタイプってわけじゃないと思うんだけど、武器にまで礼儀を強要している。
「はーい! わたしの名前は『ドラゴンバスター50AE』です! ドラちゃんって呼んでくださいね」
「おう。よろしくなドラ子」
「ドラちゃん! 一回で言うこと聞いてくれない人めんどうくさいですぅ!」
口を尖らせた様子が案外可愛い。それに、うるさいガキだがそんなに嫌な気分にはならなかった。
あれ? 俺ってこういう性格とマジで相性いいの?
「そしてもう一つ。この子だ。ほれ、挨拶しろ」
「…………」
こっちのガキはジト目で俺を見るばかりで挨拶すらしようとしない。
こういう奴はナドカさんに雷を落とされたらいいんだ。あの頃の俺みたいに。
「しょうがない奴だな……どうやらこの性格もお前と相性が良いらしいぞ蒼真」
「嘘でしょ。んな訳ない。いいよ名乗りたくなければ言わなくても」
「メルカ」
「あ?」
「メルカ・トール。僕の名前だ」
なんだろう。言わなくていいって言ったら急に教えてくれた。
「そうか。メルカ、お前の特質はなんだよ?」
「知りたいか?」
「いや……だって俺へのプレゼントだろお前は」
「それはアキラとナドカの都合だろ。僕がお前の言うことを聞かなきゃならない理由にはならない」
「うわ──……めっちゃ生意気なガキだ。だって知らなきゃ使えねーよ」
「どうしても知りたきゃ一つ条件がある。それがユーザー認証の要件だ」
このガキ、なんか性格がひん曲がってんな。天邪鬼か?
「いいよもう。お前なんて使わない」
「蒼真。そんなこと言わずに使ってやってくれよ」
……ったく。
ナドカさんの祝いの品だしな。大人の俺が拗ねても仕方ねーか。
「分かったよ。条件ってなんだ?」
「僕はこれからしばらく銃装化したままにする。もちろん特質は使わせない。その状態でお前の実力を僕に示せ」
「この陰キャ小僧め」
気づけば、男の子は消えていた。
代わりに、宙に浮かぶように立っている銃は、スナイパーライフルだ。
さっきのドラコ然りこっちも見たことのないデザインで、近未来兵器かっていうほどサイバー感満載。
なんの素材を使っているのか本体は漆黒。ところどころに金色の部品が使用されていて、俺の魔眼を意識して作ってくれてそうなデザインだ。
しかし長さがとんでもない。
全長が三メートル近くありそうだ。
「こっちはスナイパーライフルだ。アキラが言うには有効射程は五キロメートル、魔眼の使用者である蒼真専用だからスコープは付いていない。さっきも自分で名乗ってたが名称は『メルカ・トール』。俺が名付けた」
「五キロって……とんでもライフルですね。ってかその名前がよく分かんないですけどナドカさんが名付け親ですか? なんかの地図みたいな名前っすね」
「ふふ。お前の前世の妻は『メル』だったよな」
「はい」
「今の妻は『ルカ』」
「いや、まだ妻じゃありませんけど!!」
瑠夏が口を尖らせた。
「まだって言っちゃってんじゃん」
「いやっ! そうじゃなくてっ! 今のは違っ」
「お前が愛した二人の女神を二つ合わせて『メルカ』にしたんだ。それに北欧神話の雷神である『トール』を引っ付けた。それで『女神の雷』だ」
「うわ。めっちゃ恥ずかしいんですけど」
瑠夏は俺をチラチラ見ている。パチパチと、瞬きしながら。
瑠夏は恥ずかしいのかもしれないけど、名前の由来を聞いた俺は、この名前に自然と満足していた。
「……まぁそうちゃんがいいならいいけどさ。それにしてもナドカさん、なんで全部単発系なんですか?」
「俺がアキラにそうオーダーしたからだよ」
「あたしとしては連射で確実に当てて欲しい感があるんですけど。ねぇ、そうちゃんもそう思うでしょ?」
「いや。これは絶対に蒼真もこのほうがいいと思うはずだ」
「えー? 本当に? そうなの、そうちゃん」
「ああ。間違いない。ナドカさんは良くわかってるよ」
「はは。そうだろ」
「わっけわかんない。使うのはいいけどちゃんと当ててよね?」
一人で勝手にプンスカする瑠夏はシャワーを浴びに行った。手にはピアスを持ってるから、今つけているやつを外して貰ったやつにするつもりだろう。
瑠夏の寿命の消費を最小限にする。
だから、俺は絶対に連射系を使うつもりはない。
せっかくのプレゼントでも連射系だったら使えなかったところだ。
やっぱナドカさんはさすがだ。
◾️
仕事をするための武器が揃って、今すぐに依頼が来ても大丈夫な感じに体制が整ってきた。
瑠夏はこれからホームページを作ったりSNSで宣伝を始めるそうで、俺がバッシバシ標的に当てるところを動画再生してバズらせる方針らしい。
それは別にいいけど、魔物を殺す「エージェント」であることはくれぐれもバラすなと一応釘を刺しておいた。そんなことをしたら一瞬にして魔物たちに情報が回って、命を狙われてしまうから。
とりあえずメルカは宣言通り自ら銃装化し、うんともすんとも言わなくなった。
ドラコは擬人化しておいても良かったんだけど、いちいち口うるさいのでだんだん鬱陶しくなってきた。そのくせ俺の武器なので、俺の指示がない限りは俺から離れないようだ。
面倒くさくなって、当面のところ俺は二人とも銃装化させておくことにした。
そうして俺は二つの頂き物を倉庫の壁際にある大テーブルに置き、ベンチに座って眺める。
ほんと、見れば見るほど異形の型だ。
性格には難があるが、これでこそ、これから俺たちが成す所業に相応しいという気持ちにもなる。
ナドカさんが、ビールを片手にやってきた。
「どうだ。気に入ったか」
「ありがとうございます。まぁあの性格は慣れるまで時間が掛かるかもしれませんが、頼もしそうな印象はありますね。俺たちの目的からするとメルカは名前も好きだし」
「そうか。でも、お前と瑠夏はなんか歯痒い感じだよな。前世では夫婦だし、今も好き同士に見えるのに」
「ええ。俺というより原因はあっちですけどね。その理由も見当つきますけど」
「気づいてたか。まぁ見てりゃモロバレか」
「紫眼の魔女を倒したあとは俺が一人っきりになってしまうから、辛い思いをさせたくなくて結婚しないと決めてるんでしょう。つまりあいつは、紫眼の魔女へ撃ち込む弾に自分の命の全てを注ぎ込むつもりでいる。ったく、あいつはホントにね」
「その銃にあいつの名前を使ったのには理由があってな。お前は怒るだろうが」
「……? 俺がっすか」
「お前が言った通り、その銃が最後の魔弾を撃つときに瑠夏が生存しているかどうかはわからない」
「…………」
「だが、仮に最後の魔弾が紫眼の魔女を仕留めたとしたなら、それは間違いなく瑠夏の力であり、悲願の成就だ」
「もちろんです」
「その時、その結果を瑠夏にも見せてやりたいだろ?」
────…………
祝いの品は、メンテ品もセットになっていた。
メルカはとりあえず置いといて、俺はドラコをせっせと磨く。
ドラコは気安く触るなと言っていたが、俺は銃の凹凸の隅々、ありとあらゆる穴まで念入りに掃除してやった。
そうして一度擬人化させて感想を聞こうとした。
すると、ドラコは涙ぐみながら顔を真っ赤にして怒っていた。
「……ど、どこ拭いてるんですか。いつまで拭いてるんですか。こんなことされたらマジで頭おかしくなる」
「へぇ? 何がぁ?」
俺は反論を途中で打ち切ってすぐさまドラコを銃装化する。そしてまた部品同士の溝や穴を優しく丁寧にほじほじ掃除する。
まぁこれも一種の調教だ。何度かやれば大人しくなるだろ。
シャワーから帰ってきた瑠夏は、まだ濡れている髪を後ろへ靡かせながら俺のところへ歩いてきた。
耳には、さっきもらったピアスがついている。どうやら気に入ったらしい。
「もう拭いてんの? 新品なんだからまだ拭かなくて良くない?」
「んー。なんか気分的に」
「気に入ったんだ。良かったねぇ良い相棒たちができて。でも、正規の相棒はあたしなんだからね」
「銃に焼く女とか初めて見たわ」
「前世今世通じて経験なんてあたし以外ないくせに偉っそうに」
……ったく。こいつはホントにな。
生意気なガキどもだったけど、それでもナドカさんのプレゼント、俺は嬉しかった。
メルカの特質はまだ分からないけど、ドラコの特質を見る限りきっと俺たちの戦闘力を強力にしてくれるはずだ。
仇討ちを果たし、瑠夏とこんなやりとりをいつまでもする。
その目的を果たすための、大切な相棒たちが増えた。




