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12 奇妙な祝い品



 突然始まった死闘がなんとか終わり、俺たちはナドカさんを病院へ連れて行った。

 ナドカさんは銃で撃たれていた訳だが、たからと言って病院側から特段深くは追及されなかった。それが魔物と共存するこの世界だ。


 マーモットへ帰って来て、俺たちはようやく一息入れた。

 怪我してんのにナドカさんはビールを煽る。全く、この人はいつも周りのイメージを裏切らない行動をとってくれる。


「それにしても、マジで急に何言い出すんだって思ってましたよ……」

「はは。ごめんごめん」

「そのテンションで謝る話!? 本当に俺のこと殺そうとしてました? 実は演技だったとか」

「いやいや。マジでブッ殺してやろうと思ってたよ? お前には伝わってると思ってたけど」

「が、ガンガン伝わってましたよ……」


 それはもう、嫌ってほど。


「でも、ナドカさんの腕、ちゃんと動いてよかったです。そうちゃんが反射的に撃った感じだったから心配だったけど、神経は傷ついてないみたいだし出血も少なくて」

「ああ。ラッキーだったな」

「いやいや。当然避けて撃ちましたよ? 神経も動脈も含めて、一番軽症で済むラインを通したんで」


 これには二人とも絶句。

 それから、目を閉じてどこか嬉しそうに微笑むナドカさん。

 確かに間に合うかどうかのタイミングだったけど、間に合う限りは狙ってるさ。


「そうちゃんのグリードって、そんなところまで見えてるんだ?」

「そうだよ。的に当てる気で見れば、どんなものも透けて見える。忘れたのかよ。昔お前と二人で散々訓練してたけど、ずっとそうだったろ」

「確かに。……うん。確かに。あれって透けて見えてるよね、間違いなく」


 瑠夏は、謎に一人でブツブツ言いながら何か考え事をしていた。

 なんだ? 


「どうしたんだよ?」

「いやね。そうちゃんって、そういうつもり(・・・・・・・)であたしのことを見たことある?」

「えっ」


 嫌な細目で見つめられた。

 マジで心臓を鷲掴まれたかと思うほど焦る。こいつの尋ねたいことがわかったから。


「……いえ。ありません」

「へぇ。そうなんだ。敬語なんだ」


 急激に冷や汗が浮き出てダラダラ垂れ落ちたけど、俺は断じてこれ以上は口を割らなかった。どんなに疑わしい態度を取ったとしても、認めるのと認めないのとでは天と地ほど違う。俺はそう思う。


「いずれにしても、これでお前たちは卒業だ。これからどうするんだ?」

「お、俺たち、ナドカさんから免許皆伝をいただけたら、復讐代行の仕事をしようって話をしてて!」

「……エージェントか」

「はい」


 そんな悪い空気をナドカさんが破ってくれた。神だ。まだ瑠夏は俺に疑り深そうな視線を向けていたが……。


 とりあえず、エージェントとは。

 日本語で「代理人」と呼ばれるこの職業は、魔物に蹂躙されたこの世界で唯一人間が(すが)る者たちだ。魔物のせいで(つら)い思いをした人々の復讐代行をする仕事。その仕事には、数少ないグリード使いの人間たちが就いている。


「自分たちの復讐だけじゃなくて、人の恨みも晴らすのか。これは蒼真の発想じゃないな」

「いや俺だって少しくらいは人のことをね……」

「どうせお前は瑠夏のことしか考えてねーから」


 微笑ましげにしないでもらえます?

 しかし外れてもないだけに、余計な被害(・・)を被らないためにもここは言い返さないほうが無難だ。

 

「まぁ……実はそれ以外にも理由があって。あたしたち的には、これが一番効率いいと思ってて」

「効率?」

「ええ。紫眼の魔女は、この世界でもたくさんの人間を地獄の底に叩き落としてる。なら、そのうち絶対に仕事の依頼が入ると思ったんです」


 俺たちは、一つ屋根の下でラブコメみたいなことばかりしていた訳じゃない。

 その時間の大半は仇討ちのことだ。

 二十歳といういい歳をした男女としては寂しい限りだがこればかりは仕方がない。


「そうか。なら、ちょうど良かったかもしれないな。お前たち二人に渡すものがあるんだ。免許皆伝には程遠いが蒼真はハンデがあれば俺を殺せそうなところまで辿り着いたし、これで卒業だ。祝いの品を渡そう。ちょっと待ってろ」

「え。マジですか?」

「めっちゃくちゃ嬉しいです!」


 ちょっと言葉に棘がある気がするが、ここは彼女のプライドを立てよう。


 マーモットの倉庫は、事務所の前の廊下をそのまま真っ直ぐに進むといくつか部屋がある。廊下の左右に更衣室や洗面所、シャワー室なんかがあって、突き当たりには裏口だ。

 その裏口を出ると、ナドカさんと虎太郎が住んでいる二階建て鉄筋コンクリートの家が建っているのだ。ナドカさんは裏口へ歩いて行ったから、祝いの品とやらは家に置いてあるんだろう。


 待っている間に何気(なにげ)に事務所を覗くと、事務机の上に「瑠夏と蒼真へ」と書いた封筒が置いてあった。それがなんだか遺書のようで、俺はゾッとした。

 やっぱあの人、マジでさっきの卒業試験に命を懸けていた……!


 封筒には気づかなかったフリをして倉庫内のテーブルのところへ戻る。

 すると、しばらくして帰ってきたナドカさんは、なぜか二人の見知らぬ子どもを連れていた。


 一人は、ブレザーの制服を着ている高校生くらいの女の子。緑色の髪、緑翠(りょくすい)(きら)めく瞳。

 もう一人は、短パンを履いた小学校低学年くらいの男の子。金髪で浅黒い肌の色、金色の瞳をした目つきの悪いガキだ。


 なにこれ。誰?


「まずは瑠夏。お前にはこれだ」


 ナドカさんは、自分の手で持っていた小さな箱を瑠夏へ手渡す。

 その中には、一組のピアスが入っていた。

 月とか太陽とかを形どったものがいくつか繋がれたプラチナ色のピアス。

 味気ない古びた倉庫の業務用照明でも、神秘的な輝きを反射していた。


「わー、綺麗! 大事にします!」

「これはただのピアスじゃない。部隊にいた時、戦友から貰ったんだ。どこから手に入れたのかは知らんが、これはグリード効力を高める効果があるらしい」

「えっ……そんなものがあるんですか!?」

「ああ。グリードの威力と発揮させるまでの速度の倍増、消費体力の半減なんかがこのピアスの効果として現認されている。だが、まだ全部は確認できていないと言っていた。恐らくは、ありとあらゆるグリード効力の向上だ。どうせお前はこれが弾の威力を二倍にしてくれたところで消費寿命を半分に抑えたりはしないんだろうが、それでも素晴らしいことだろう?」

「はい! ありがとうございます!」


 紫眼の魔女を殺すための威力を切実に求める瑠夏にとっては、喉から手が出るほど欲しいものに違いない。

 もちろん、俺にとってもすごく嬉しいプレゼントだ。どうにか瑠夏を説得して、弾に込める寿命を半分にしてもらおう。


「そして蒼真。お前のはちょっと手間がかかった」

「そうなんですか。でもナドカさん、もう何も持ってませんけど?」

「お前への祝いの品はこの二人だ」

「はい?」


 女子高生と、小学生の男子?

 養子?

 俺に養えと?


「あ────っっ、まだるっこしい! おばちゃん周りくどいです! チャキチャキ行きましょう、チャキチャキ!」


 急に緑女子が発狂する。

 なんだなんだ!? 何が起こった!?


「おば……まあ待て。ちゃんと説明するか──」

「説明なんていらないです! 百聞は一見にしかずって言葉知ってます? やってみるのが最速。ほらお兄さん、わたしに触ってください」

「へっ!?」

「へ、じゃないよ。触るの! わたしの肌に」

「ちょ、ちょっと待って……いくら俺でもそこまでの犯罪行為は」

「うるさいです。そして理解力ゼロです。早くしてくださいイライラするから」


 なんて気の短い女子だ。温厚そうなタレ目なのにとんでもないせっかちさんのようだ。瑠夏も目を丸くしている。


「もう……マジでかったるい奴ばっかだな」


 緑の女子は、俺としっかり手を繋いできた。

 そんで、そのまま時間が過ぎる。

 手が温かい。


「……それで?」

「銃になれって思って(・・・)ください」

「はい?」

「理解力ゼロです。イラつきます。殴られたいですか?」

「はいっ、待って待って、思う思う思うから」


 銃になれって? この女子に?

 ったく、なんちゅー女子高生だ。

 ええい、このせっかち女子め、銃になれ!


 心でそう叫んで、気がついた時には緑女子は消えていた。

 代わりに、女の子と握手していた俺の右手には、緑色の銃が握られていた。


 見たことのない変わった形をしていて、何かの動物の皮を使ってるのかなと思うような質感だ。回転式拳銃(リボルバー)であることだけは辛うじてわかる。

 だけど、その銃からはいくつもの(つた)のようなものが伸びて、俺の前腕に巻きつき、突き刺さっている。なんか銃が俺と同化しようとしているみたいだ。

 何これ。気持ちわるっ!


「……なんすかこれ」

「とりあえず、順に説明する。短気だとは聞いていたがちょっと手に余るな」


 はは、とナドカさんは軽く笑っているが全然事情が飲み込めない。

 

「こいつはな、俺の知り合いの武器生成グリード使い『アキラ』に造ってもらったんだ。本人は『生き様入魂グリード師』って言ってる」

「はあ」


 何それ。とりあえずこれは武器なのか?


「アキラのグリードは『生きた武器』を造り出せることだ。そしてその武器の性格は、アキラが使用者に対して抱いた人物像と相性が良さそうな性格になっている。だから俺は、蒼真がどんな奴なのかアキラからめちゃくちゃ聴取された」

「ちょっと待って、それって俺がさっきの娘と相性がいいってこと!?」


 ナドカさん、俺のことをどんな風にそのアキラさんへ伝えたんだろう。

 きっと、そこかしこで情報に齟齬があると思う。

 

「あくまでアキラのイメージだ、気にするな。この武器には一つだけ特質が付与されているが、その特質は自動的に武器(・・)()性格(・・)を反映したものになっているそうだ。それはアキラには決められないし、何かすら他人では分からない。蒼真、お前だけが理解できるはずだ」


 俺は、俺の手にブスブスと(つた)を突き刺している銃を眺めた。


「あ──……確かにね、なんとなく分かります。こいつが、言ってる」

「え、そうちゃんその銃喋ってるの? 念話みたいな感じ!?」

「違うよ。喋ってはいない。だけどわかる。こいつの特質は『早撃ち』だ。この銃、トリガーがないんだよ」

「あ、ほんとだ!」

「どうやって撃つんだ?」

「トリガーは『意志』です」

「???」


 ナドカさんも瑠夏も、頭にハテナが浮かんでる。

 そりゃそうだろう。俺だってこいつと同期してるから分かるだけだ。


「撃ちたいと思うだけ。トリガーを引くことすらまだるっこしいと思うほどせっかちなこいつは、一刻も早くぶっ放したくて堪らない。だからこの銃は直接俺の神経に接続し、俺の意志とトリガーを直結させた。思ってから撃つまでが最短最速、早撃ち特化の銃ってことです」


 頭の中で会話しているとかではないけど、神経接続することでこいつの意志が理解できる。


(もういいぞ。銃装化を解除しろ)


 ポン、と緑髪の少女に戻る。

 こいつは両手で髪を整え、肩が凝ったのか首をコリコリ回した。




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