表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/57

10 何があっても、俺がなんとかする。


 訓練は、今日も変わらず続く。


「標的は二五ヤード先の動くもの一つだけだ。それに向けて二〇発撃ち、その全てを一発目で空けた穴に通せ」

「はい」


 普通の人間がこんなことを成すのはほとんど無理だろう。

 だけど、俺が外せば瑠夏の命が無駄になる。

 四級魔弾なら一日。ちょっと聞いただけなら大したことがないように聞こえるかもしれない。

 でも、俺たちはこれから数限りなく戦うことになるから。


 紫眼の魔女は神出鬼没で、その正体は未だ明らかになっていない。

 奴と相対した人間のうち、幸運にも生き延びた者が提供する情報によってモンタージュだけは作成されている。


 異常なほどに鮮やかな桔梗(ききょう)色の瞳と、その中に描かれた漆黒の魔法陣。

 間近で目の当たりにした者が声を揃えるのはこれだけで、あとは髪の色も紫だったような気がするとか、可愛らしい少女だったということくらいしか手掛かりはない。

 俺たちには、奴を探し出すまで戦い続ける日々が待っている。


 それまで、瑠夏は生きていられるだろうか。

 紫眼の魔女を倒せるだけの寿命を残して、ラストステージまで辿り着けるだろうか。


(馬鹿野郎が)

(気に入らない。マジで気に入らない)


 この能力を得てからというもの標的を完全に外したことは一度もないが、しかしヒヤッとしたことはある。

 今が、まさにそうだ。


(二ミリ、ズレた)


 この程度の誤差、普通の人間からしたら一発目で開けた穴を通した扱いになるだろう。ナドカさんも気づいていない。

 でも、完全な中心じゃない。

 もし弾丸の直径プラス一ミリレベルの大きさしかない穴を通さなければならない状況があるとしたなら、これではアウトになる。

 こういう時は、得てして撃つ時点で既に確信感が薄い。

 絶対に外せないのに、外してしまいそうな感覚が混じるとか殺意が湧く。 

 

(当たれよ)

(ズレんな。当たれ)

(外れるなんて絶対に許さない)


 全力で集中する。

 今気づいたが、たぶん俺の場合は眼に集中するのがいい気がした。銃を持っている「手」とかではなく、「眼」だ。


 そうすると、眼が少し温かくなってくる。絶対に外さないと確信している時、いつも俺はこうなっている気がする。


「おい。蒼真、ちょっとこっち向け」


 軌道上に入ろうとする障害物が事前にわかる。それは、言わば未来予知だ。

 俺が物を的に当てようとした時、そういう力が働いている。眼に集中するとそれが研ぎ澄まされていく印象だ。


 数秒先までしか見えなかった未来が、一分間くらい先まで見えるような。

 一ミリくらいは狂っていた照準が、一マイクロすらも狂っていないと確信できるような──。


「聞こえてるか、蒼真!!」


 ナドカさんが俺に呼びかけていた。

 照準合わせ(エイミング)に集中している時、たまに俺はこうなってる。周りが暗くなって、ターゲットしか見えなくなっているんだ。こうなると照準が狂うことは絶対にないだろう。


 ただ……これだと真後ろとかにいる敵が俺を攻撃してきた場合に気付けない。

 俺の射撃を阻害してくる奴らの感知──言うなれば「狙撃障害検知機能」みたいなものが喪失してしまうんだ。今も、真横にいるナドカさんの声にすら気付けなかった。

 ナドカさんはゾーンだとか言ってたけど、周囲の敵の存在にすら気が回せないのはあまり良くはない。すなわち当てることが難しい敵の時ほど、それ以外の敵に要注意ってことだ。


「……はい?」

「大した集中力だが、周囲の敵の存在にすら気が回せなくなるのはあまり良くないぞ」

「はいはい、わかってますよ。まさに今そう思ってたところで。ってか、これから撃つのに邪魔しないでくださいよ」

「刻印、だ」

「え?」

「刻印が見つかったよ。鏡を見てみろ」


 射撃場にある全身鏡の前に立つ。

 銃を持った俺の瞳は、黄金色になっていた。

 その瞳の中には、まるで照準器の中にある照準線──「レティクル」のような黒い紋様がある。


「……なるほどね」


 この眼が温かくなった感覚こそ、俺のグリード──いわば「必中のグリード」とも言える魔眼が覚醒した証ってわけだ。

 これこそ確かに俺のグリードを表している。

 なんか化け物じみているけどな。


 くっくっ、と笑いが漏れた。


「……蒼真?」

 

 いいじゃんか。

 魔物どもを殺し、紫眼の魔女を──天界最強の天使を殺そうってんだ。それも、必要最小限の威力と弾数で。

 異形。そうでなきゃ、そんなことできそうにないもんな。


◾️


 組み手の時間。

 長い間、これは俺の課題だった。


「おらっ」


 ナドカさんの回し蹴りが俺の頭部をかする。

 それだけでも意識が飛びそうなほどに鋭い。


 瑠夏の秘密を知ったからって、急に強くなったわけじゃない。

 それはそうだけど、気持ちはもちろん変化した。


(あの馬鹿野郎が……!)


「あああああああああああああ!!」


 ナドカさんの両足を掴んだままタックルする。

 そのままグラウンドへ持ち込んでも俺の不利は変わらない。というかむしろあっちの土俵だ。気持ちでどうにかなるものじゃない。


「う……あああああああああ!!」


 だからと言って引くことは絶対にしない。

 全力で敵を睨んで倒しに行く。

 

(マジで馬鹿野郎だよ。あいつは)

 

 俺は、あれからそんなことばかり考えていた。


◾️


 準備は着々と進んでいる。だけど、確認しておかなければならないことはある。

 訓練の合間、俺たちはマーモットの倉庫内にある長椅子に座りながら喋っていた。


「なあ。寿命を込めるって言ってもさ、元々何年あったのか分かんないなら凄い危険じゃない? 例えば瑠夏が明日交通事故に遭う運命だったら」

「こら縁起でもないこと言うな。……このグリードを得た時に、自分の寿命はわかったよ。百年。それがあたしの寿命」

「え──……。仙人級じゃない? 俺の寿命よりたぶんダントツだよ。ちょっとくらい弾で消費してくれたほうがトントンにできる気がしてきた」

「アホ。……今までの訓練で一年分くらいは使ったかな。今は中学二年生で一四歳か。よって現時点で使える寿命は八五年分でーす」

「アホはお前だ、何を全部使う気になってんだ。子どもの小遣いじゃねーんだぞ」

「参考値は知っときたいでしょ?」

「……まあな」


 知っときたいというか、知らなきゃならない。

 この印象だと、制御は俺がしないとこいつは多分ブレーキが効かない。


「弾に力を込めるのは、まだ練習する必要があるのか?」

「うーん。込める速度も、威力も、種類も、大体は大丈夫になってきたかなぁ。あと少し練習すれば──」

「もう弾に力は込めるな。やるのは本物の実戦が来てからだ」

「でもさ、実戦じゃ何が起こるか──」

「俺がなんとかする」

「無理だよ。この世界の魔物たちは、なんでか分かんないけどグリードの効力が乗った攻撃でしかダメージが入らないんだ。だから人間はこんなに戦争兵器を持ってるのに魔物の進軍を止められなかった。

 そうちゃんは眼にグリードの効力を使っちゃってるから、弾丸自体にグリードが働いてない。あたしが弾に力を込めなきゃ一匹すらも魔物を倒せないよ。つまり、弾に力を込める速度が遅かった場合にはそれが原因で敵にやられちゃう可能性だってあるんだ」


 確かにそれはナドカさんも言っていた。

 ある男が「誰も躱せない剣技を手に入れたい」と願ったようだが魔物には効かなかった。部隊で分析した結果、命中率だけにグリードを働かせたことが原因だと結論づけたらしい。


 魔物の肉体はグリード効力が乗っていないと破壊できないが、逆に言うと、効力さえ乗っていれば人間の肉体と同じような感覚で破壊できるようだ。つまり、その男は「命中させて殺したい」とさえ願っていれば魔物を倒せたんだろう。

 だけど、不意に訪れるお願いタイムでそうそう都合よく完璧な能力を願えるもんじゃない。


 殺すことを願った奴にだけ与えられる比類ない殺傷力。

 何度考えても、あの神は、悪魔だ。


「瑠夏が弾に力を込めるのを邪魔できる奴なんてそうそういないだろ。……あ、そうか。もしかして聖女の加護は無くなったのか。お前が前世で持ってたやつ」


 瑠夏──いやメルは、前世では聖女だった。


 つまり神の巫女。

 俺たちの前世、故郷とも言える異世界での、人間の救世主。

 魔王の手先である残虐極まりない魔物の群れと神の先兵である天使どもの間で板挟みになり、長いあいだ人間は不遇を被ってきた。聖女とは、そんな人間を哀れに思った神が遣わす「神の使徒」ってやつだ。

 まあ結局はその神も最底辺のクソッタレだったが。


「今もある」

「えっ、あるの!?」

「うん。なんかね、完全には消えてなかったんだ。でもね、一種類しか使えなくなっちゃった」

「何が使えんの? 当たり(・・・)でありますように!」

「どうだろ。付与系グリードの完全無効化なんだけど」


 前世──異世界でいうところの付与魔法か。

 バフ・デバフ、毒、混乱、その他の状態異常なんかを付与する補助魔法系の無効化特性。


「でも、なんで気づいたんだよ?」

「街中を歩いてたらね、いきなり後ろから付与グリードを仕掛けてくる魔人がいんの。この加護って、付与を掛けられたことには気づけるけどどんな付与かを体感する前に弾いちゃうから、仕掛けられたのが何かまでは分かんなかった。どうせエロ目的の最低なやつだと思うよ。操り系のやつとか。自ら『触って欲しい』って思ちゃうやつ」

「そういう時は俺にもちゃんと教えてくれる? 危ないだろ」


 この加護は瑠夏の体に触れていたら俺にも効果が及ぶから、例えば瑠夏と手を繋いでいれば俺にも付与系グリードが効かなくなる。

 これは結構デカいな。攻撃力一辺倒じゃなんともできない戦闘ってのは存在する。

 ちょっとだけ戦い方が見えてきた。いけるかもしれない。


 ってか、復讐のために神の遣いを殺そうとしている闇堕ち聖女にも加護って発動するんだってことには驚きだ。

 自分たちの仲間を殺しにくる奴にも力を与える神経が俺にはわからない。まぁそれを言うならグリードを俺たちに与えたのも同じだけど。

 いや……そもそも魔物にもグリードを与えてる時点で、(あいつ)は最初から遊んでる。





お読みいただき、ありがとうございます。


下の「星マーク」から評価していただけたら嬉しいです。

ブックマークもしていただければ励みになります。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ