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05 はじめまして、黒髪レモンくん
26歳の秋、夕雨は地元・鹿児島の同じく企画職の職場に入社し、落ち着いた生活を始めていた。
新しい生活に少しずつ馴染んできた頃、ある日の会議で、顔を合わせたことのない、研修上がりの新卒社員が紹介された。
その青年の名前は、橘朝陽。
夕雨はメモを取っている最中、突然自分の名前を呼ばれて視線を上げた。
「白石さんですか?はじめまして、橘朝陽です。」
その瞬間、夕雨の胸は大きくざわついた。
声を聞いたとき、すぐに何かが引っかかった。
そして、彼の顔を見た瞬間、確信に変わった。
黒髪の青年。
その顔が、レモンくんそのものだったのだ。
「はじめまして、橘くん。中途入社の白石です。」
夕雨はぎこちなく笑った。
会議は淡々と進んだが、夕雨の心はどこか落ち着かず、混乱していた。
確かに、目の前にいるのはまったく別の人物だ。
しかし、その容姿や雰囲気、そして何よりも目の前の朝陽が放つ何とも言えない優しさに、あのレモンくんの面影を感じてしまう自分がいた。