質問回答コーナー①
【作者からのひとこと】
物語の余白や読者の想像を楽しんでいただきたいので、解釈は皆様にお任せしますが、参考までに書く上で考えた設定は以下の通りです。
質問:
「内側前頭前野」って何ですか?
どうしてそれが『朝陽を忘れられない理由』になるんですか?
回答:
内側前頭前野は、脳の前のほう、ちょうどおでこの奥のあたりにある部位で、「自己に関係する記憶」や「感情を伴う過去の出来事」を管理している場所のひとつです。
簡単に言うと、「自分にとって大事な記憶」や「強い感情と結びついた出来事」を、無意識のうちに脳が手放さずに持ち続ける——その“司令塔”のような働きをしています。
たとえば、忘れたつもりの誰かの言葉や表情が、ふとした瞬間に夢や思い出として蘇ることがありますよね。
これは、「もう終わった」と頭で理解していても、脳が「それは自分にとって重要だ」と判断しているため、完全には消せないことが多いのです。
作中の夕雨も、意識では「朝陽を忘れたほうがいい」と思っています。
でも、内側前頭前野が働いていることで、「彼との思い出」がずっと心の深くに残り続けていた、というわけです。
つまり、忘れられないのは心が弱いからではなく、脳がそういうふうにできている、という説明になります。
だからこそ夕雨は、自分を責めるのではなく、「忘れられないのは仕方ないことだ」と理解し、それを受け入れる選択をして、AIレモンくんを作りました。
質問:
夕雨はなぜ「部屋も布団もない」と言ったのですか?
回答:
夕雨の「部屋も布団もない」という発言は、文字通りの事実です。彼女は社会的地位のある親を持ち、裕福な環境で血の繋がった家族と暮らしていましたが、家庭の中に謎のルールがあり、悪意があるわけではないのに、なぜか部屋も布団も与えられていません。つまり、物理的に自分の居場所が家の中に存在しないのです。
夕雨は家で発言しても家族に無視されることが多く、勉強をしているときに勝手に電気を消されたり、寝ているときに部屋に掃除機をかけられたりすることもあります。それでも家族は彼女を嫌っているわけでもなく、傷つけようとしているわけでもありません。ただ、なぜか彼女の存在を認めず、距離を置き、まるで空気のように扱い続けているのです。
この状況は、毒親的な家庭でよく見られる「表面上は幸せで問題のない家族」を演じながらも、無意識のうちに子どもを苦しめてしまう矛盾を象徴しています。夕雨の孤独や苦しみは精神的なものにとどまらず、生活の根幹に関わる非常に現実的な問題であり、彼女の心に深い影を落としています。
質問:
朝陽が夕雨に自分の部屋の鍵を渡す行動は、どんな意味を持っていますか?
回答:
朝陽にとって鍵を渡すことは、ただの物理的な空間の提供以上の意味があります。夕雨にとって初めて「本当に自分が存在できる場所」を与える行為であり、孤独と否定に苦しむ彼女に対するささやかな救いであり、信頼の証でもあります。
質問:
朝陽の記憶障害はどのように物語に影響していますか?
回答:
朝陽の記憶障害は、過去と現在をつなぐ重要なテーマです。彼が「思い出せるはずなのに思い出せない」ことは、心の奥に残る記憶や感情の複雑さを表現しています。
記憶の断片をたどる過程が、彼と夕雨の関係やそれぞれの心情の理解を深める役割を果たしています。
質問:
朝陽が夕雨に部屋の鍵を渡しても大丈夫だったのですか?危なくなかった?
回答:
鍵は朝陽の家にもう一本あり、朝陽と夕雨は同じ大学の学生で連絡先も知っています。なのでコミュニケーションを取れば十分対応できると朝陽は判断しました。
また、朝陽は夕雨を深く信用していたため、躊躇なく鍵を渡すことができました。単なる友達以上の信頼関係があり、彼女の状況や気持ちを理解し助けたいという強い思いがあったからこそ、この行動に至りました。
夕雨にとっては初めて「自分の居場所」を持てる貴重な機会でした。
質問:
夕雨は「すぐに鍵を返した」とありますが、それはどういう意味ですか?
回答:
文字通りすぐに返したからです。
夕雨は過酷な環境で体調を崩しましたが、朝陽の家でゆっくり休んで体調も気持ちも落ち着けました。その後、暮らしを立て直す心の余裕が生まれ、親戚や大学の組織のサポートを受けて一人暮らしを始めたため、鍵を返したのです。短期間なものですが、これは彼女が自立へ向かう大切な過程を示しています。
質問:
なぜ医師が白衣ではなく青いスクラブを着ていたのですか?
回答:
医療現場では、必ずしも白衣を着ているとは限りません。スクラブは白衣よりも動きやすく好まれる服装で、処置の後にそのまま対応したのかもしれません。
また、この医師はただ患者の処置をするだけの存在ではなく、朝陽の事故直後から人生の伴走者として寄り添ってきた人物像にしています。堅苦しさよりもリラックスした雰囲気を大切にしていることを示すため、スクラブを着せました。
質問:
夕雨は被害者ぶっているように見えますが、部屋や布団がないなら親にちゃんと文句を言えばよかったのではないですか?言わないのが悪かったんじゃないでしょうか?
回答:
夕雨に部屋や布団がなかったのは、単に本人の問題というよりも、育った環境や家族の関係性に深く根ざしたものです。
「言えばよかった」というのは表面的な見方であって、実際に毒親のいる環境では、子どもが自分の存在を認められず、声をあげても無視されることが繰り返されるため、自己主張が困難になるケースが多いです。言っても聞いてもらえなかったのかもしれませんし、そもそも言えないような環境だったのかもしれません。表面上だけではわからない事情や感情もたくさんあります。
だからこそ、無神経に「こうすればいい」「ああすればいい」と簡単に言って、それができなかったら「被害者ぶっている」などと当事者をさらに苦しめてしまうことは避けてほしいと思います。この描写は、夕雨の孤独や葛藤、そして家族の無意識の距離感を象徴するための重要な要素となっています。




