45 苦いレモンの香り
完結です。長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
ドアの向こうに立っていたのは、金髪の青年だった。
風が店内に入り込み、彼の髪を柔らかく揺らす。
あのときと同じ――いや、それよりも少し、落ち着いた眼差し。
口元が、ゆっくりとほぐれる。
「こんにちは。……レモングラス、だよね」
その声に、胸が詰まる。
あの日の笑顔と、大学の記憶と、兵庫の街角と、鹿児島の風景と――すべてが一度に重なって、夕雨の中で静かに波打った。
夕雨は言葉を探したけれど、何も出てこなかった。
ただ、彼の髪が金髪だったこと。
それだけで、すべてを察してしまった。
何も言葉を交わさず、ただ香りの中で立ち尽くすふたり。
やがて、彼が一歩だけ、夕雨の方へ近づいた。
それ以上は何もなかった。
でも、それで十分だった。
過去のすべてを肯定するように、夕雨は静かに微笑んだ。
彼の姿が、自分の中にあたたかくほどけていくのを感じながら。
物語の終わりに香るのは、爽やかで、苦くて、少しだけ切ない――
それでも、確かに前を向ける、レモンの香りだった。
(終)
込み入ったお話にお付き合いいただきありがとうございました。
今後、ネタばれありの登場人物一覧や、年表などの設定も載せる予定です。




