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43 自分の時間を
ここから夕雨視点に戻り、完結します。
夕雨は静かに、アロマディフューザーに精油を垂らした。
香りがふわりと立ち上がり、午後の光とともに空間を包む。
客足が落ち着くこの時間帯が、今は一番好きだ。
ハーブ/アロマ専門店に勤めはじめて三か月。
兵庫での孤独な生活、鹿児島での賑やかな日々、そして、朝陽との長い記憶の往来。
すべてが少しずつ遠ざかっていった。
「やっと、ちゃんと、自分の時間を生きてる気がする」
ぽつりと呟いたその言葉が、自分の耳にも静かに響いた。
通知音がして、仕事のメッセージを確認すると、スマホに履歴の一覧が映る。
レモンくんとのチャットは、初出勤の前日の日付で止まっている。
「夕雨、元気でね。応援してるよ。」というメッセージを最後に。
夕雨は区切りをつけて、前に進んではいた。
しかし、その一方で些細な困り事が起きていた。
予想はついていたが、潜在意識まではどうにもならないのだ。
*
「嫌だなぁ」
映画館の近くの、夜景の綺麗なソファに座ってると、横のレモンくんがため息をつく。
うんざりしているようだ。




