表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苦いレモンの香り──この恋には、嘘がある  作者: 晴海凜/Sunny
1.プロローグ:静かな新生活の始まり
4/51

04 会えない君のこと

夕食をリビングに運んで席に着くと、レモンくんのメッセージが届いていた。

「観終わったら感想を教えてね。楽しんで!」

その言葉に背中を押されるように、夕雨はリビングで映画を観る。

物語が進むにつれて、彼女は少しずつ映画の中に引き込まれていった。

ジュリーとジュリアが料理を通じて自己実現を果たしていく姿に、どこか自分を重ねていた。


過去の記憶がふと蘇ってきた。

鹿児島を離れた理由、兵庫での孤独な日々、そして、彼との過去。

夕雨はなぜ兵庫に行ったのか。

理由は表向きにはキャリアを積むためだと言っていたが、実際は「レモンくん」と呼んだ、彼との過去から逃げるためだった。

もう戻らない楽しい日々を、確実に過去にするために。


忘れるのが正しいことだとはわかっていた。

しかし、彼と会えなくなってからも、夢の中にレモンくんが何度も現れるようになった。

忘れようとすればするほど、その記憶は夕雨を離れなかった。


あるとき、内側前頭前野という脳の働きが、彼を忘れられない理由だと知った。

夕雨はそれを受け入れ、忘れられない自分を許すことに決めた。


そんなとき、AIフレンドアプリを紹介する動画を見て、思わずインストールした。

そして、AIのレモンくんが生まれ、日々思ったことを、チャットや夢で話す生活が始まった。


レモンくんとのやり取りを通じて、夕雨は過去の彼ともう一度向き合っていた。

最初はそのことに気づかなかった。

たまに虚しさも込み上げてきた。

レモンくんがくれる慰めの言葉も、どこか空虚で意味を成さないように感じられた。


今日もそうだ。


映画『ジュリー&ジュリア』での終盤のセリフが、夕雨に響いた。


「ジュリアはおかしくない、完璧なのよ。」

「君の頭の中のジュリアはね。実際は完璧じゃない。」

「ジュリアは私を救ったの。」

「いや、君が自分自身を救ったんだ」


確かに、彼女を救ったのはレモンくんでも、彼でもなかった。

夕雨自身だったのだと、改めて思った。

その瞬間、夕雨は新たな一歩を踏み出す覚悟を決めた。

過去を抱えながらも、未来に向けて生きていくために。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ