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38 当たり前よ
朝陽視点です。
会える距離にいることはわかっていた。
日高がたまに、夕雨と会ったことを楽しそうに話していた。
連絡をとろうと思えば、いくらでも方法はあった。
でも、朝陽はできなかった。
できなかったのではなく、しなかったのかもしれない。
素直になれないまま、日々が過ぎていった。
*
ある日、実家に帰った朝陽は、ぽつりと両親に話した。
実家の茶の間。
大雨が家中を包む音がする。
朝陽は、黙ったまま手元の湯呑みに視線を落としていた。さっきから、頭の中でぐるぐると夕雨の顔が巡っていた。夕雨の言葉、視線、笑い声――すべてが、今になって形を変えて胸に刺さる。
「……夕雨に会ったよ」
ぽつりと漏らすように言ったその言葉に、母がそっと手を止めた。
「そう……よかった」
「俺……あの子のこと、覚えてたみたいだった」
「当たり前よ」
母は少し微笑んで、それからゆっくりと話し始めた。
「あの子、まだ気にかけてくれてるのね」




