37 俺のこと、関係ある?
朝陽視点です。
いつものように同僚の東と昼食を共にしていたときだった。
「はあ、来月の今頃はもう白石さんいないのか〜……え?うそ、聞いてないの?」
その一言に、朝陽は箸を落としそうになった。
まるで、自分だけ知らない世界が急に動き始めたような、そんな感覚だった。
あんなにいつも隣にいたのに。
なんでもない日々の中で、何度も一緒に笑ったはずなのに――。
午後、朝陽はすぐに夕雨を捕まえた。
休憩スペースで、カップに紅茶を注ぐ彼女の背中に声をかける。
「本当に……辞めるの?」
夕雨は少し驚いたように振り返り、それからゆっくりと笑った。
「うん。前から、考えてたことだから」
「……なんで?」
「いろいろかな。疲れたのかもしれないし、そろそろ新しいこともしてみたいし」
夕雨は淡々と言い、また背中を向け、砂糖やミルクを入れていく。
気まずい沈黙が続いたのち、朝陽は言った。
「俺のこと、関係ある?」
夕雨は、振り向いたのち、目を逸らした。
「何かあれば、また連絡してよ」
その言葉は、確かに優しかった。
でも、それ以上近づくことを許さない距離感があった。
朝陽は何も言えず、その場に立ち尽くすしかなかった。
*
数週間後、夕雨は会社を去った。何もはっきりさせないまま、静かにいなくなった。




