33 俺と、前に会ったことがあるよね
朝陽視点です。
朝陽は、記憶の断片が少しずつ蘇り、夕雨との過去が鮮明に浮かび上がるのを感じていた。そして、もはやその問いを無視しておくことはできなくなった。
「白石さん、今日の仕事終わったあと、ちょっと付き合って欲しいことがあるんですけど。」
仕事中、そう朝陽に言われ、夕雨は快く受け入れた。
仕事終わりに2人で近くのカフェに入り、朝陽は、スマートフォンを机に出し、話した。
「俺と、前に会ったことがあるよね。しかも、かなり仲が良かった。」
あのときの黄色いスマホカバー。
懐かしいアイテムと、朝陽の口調から、朝陽に何があったかを察した夕雨は静かに微笑んだ。
「…大学のころ、仲が良くて、会えたときは話したり、たまに遊んだりしてたよ。再会できて嬉しかった。でも、むやみに刺激したくなくて、自然に思い出すのを待ってた。……それで、どうしたい?」
「俺は、過去を思い出したい。協力してほしい。」
*
その後、朝陽は少しずつ記憶のピースを埋めていった。夕雨に頼んで、大学時代の友人に連絡を取った。そして、思い出の場所にも何度か足を運んだ。
それぞれの場所で、朝陽は少しずつ過去を取り戻していったが、次第に、そのたびに胸の奥が痛むような感覚を覚えた。
*
ある晩、朝陽はサブスクの動画を観終わり、リモコンのTV入力切替ボタンを押した。
地上波に変わると、音楽番組が放送されていた。
画面に表示された曲名は「変わらないもの(2006)」。
静かなピアノの旋律が流れ出し、やがて歌声が響いていく。
耳に届く柔らかなメロディと透明な歌声は、何か懐かしく、どこか切ない。
朝陽は無意識にそのまま画面に目を向け、じっと聴き入っていると、心の中で何かが疼くような、微かな痛みのような感覚が広がっていく。
言葉にはできない何かが、朝陽を締め付けていた。
その曲は、どこか夕雨のことを思い出させた。
かつて一緒に過ごした日々、そしてふと、その日々が何かの拍子で壊れてしまったような感覚がよみがえる。
思い出すたび、なぜか胸が痛む。その理由はわからない。ただ、確かにそこに悲しい何かがあった――そんな確信だけが残った。
曲が終わると、朝陽の目は潤んでいた。理由はまだわからない。
ただ、心の奥底に眠っていた何かが、ふと溢れ出した、それだけだった。
*
翌日、朝陽は勇気を振り絞り、夕雨に尋ねた。
「夕雨、俺たち、何かあった?悲しい出来事とか。なんか最近、夕雨のことを思い出すと、悲しい気持ちになることが増えてて。」




