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苦いレモンの香り──この恋には、嘘がある  作者: 晴海凜/Sunny
6.対話と告白/大学時代の真実(朝陽視点)
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32 答えは出た

朝陽視点です。

画面が、あっけなく開いた。

まさか、と思った。

偶然かもしれない。

けれど、その数字で開いたことに、胸がざわつく。


アルバムを開くと、見覚えのない風景が次々に現れる。

写っているのは自分のはずなのに、まるで他人の記録を見ているようだった。


ふと、一枚の写真で手が止まる。

自分の部屋でも実家でも教室でもない、雑多で無造作な部屋。

大学のどこか……かもしれない。

古びたソファ、段ボールの山。使われていないラック。

その片隅で、誰かが眠っていた。

胸が詰まる。

——彼女だった。


その瞬間、画面の奥から、冷たい風が吹いた気がした。

そして——引き込まれるように、朝陽の意識は、過去の記憶の中へと連れ去られていった。



ドアを開けた瞬間、冷たい空気が肌をなでた。

部屋の隅で、毛布にくるまり眠る彼女の姿が目に入る。

……まただ。

朝も、昼も、夜も——何度も見た光景。

夕雨は、よくこの場所で眠っていた。

そんなに忙しいのか。

思わず、過去の自分が呟く。


「大丈夫かよ……」


その声に、夕雨がゆっくりと目を開け、もっさりと体を起こす。

寝ぼけた顔が、あまりにも気が抜けていて、思わず笑いそうになる。


「……ごめん、起こしちゃった?」

「ん、起きてたよ」


思わず言葉を続けていた。


「風邪ひくよ。ちゃんと帰って自分の部屋で寝なよ。」


少しの沈黙。

そして夕雨は、頭の上に手を置いて、困ったように首を傾げる。


「部屋…ないよ。布団もない。ふふふ」


冗談のような、そうでないような笑いだった。

その言葉の意味が、すぐには飲み込めなかった。

けれど、理解した瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。

何か言わねばと思ったが、言葉が出てこなかった。

夕雨は気まずそうに笑って、立ち上がる。


「はは、じゃあ一限あるから。」


いつも通りの顔で、毛布を畳み、荷物をまとめる彼女を、朝陽はただ見つめていた。

けれど——その僅かなサインを見過ごすことができなかった。

気づけば、体が先に動いていた。


「これ、あげるから」

「ん?」


振り返った夕雨の目の前に、朝陽は鍵を差し出していた。


「……え?」

「使っていいから」


自分でも、何をやっているのか分からなかった。

でも、そのときの自分には、これしかできなかった。

困惑する彼女の手に鍵を握らせ、スマホを取り出して住所を送る。


「403号室。いま、住んでるとこ」


無計画で、唐突だった。

けれど——ほんの少しでも、"彼女が休める場所"を作ってあげたかった。


「夕雨、ちゃんと休んで。」


夕雨はしばらく固まっていたが、やがて、小さく笑った。


「ふふっ……ありがとう」


その一言で、救われた気がした。

ほんの少しだけ、あのときの自分が。



写真を見つめていると、胸の奥に、優しくて温かい感情がじんわりと広がっていった。

彼女があの鍵を使ったのは、ほんの短い間だった。

すぐに「もう大丈夫」と返してきた。

それでも——その日々は、たしかにあった。


忘れていたはずなのに、仕草や声、空気の温度まで、なぜかぼんやりと思い浮かぶ。

あれは、白石さん——夕雨だった。

ずっと前から、心のどこかで知っていたのだ。


記憶が戻ったわけではない。

けれど、その感覚だけは、どうしても疑えなかった。


——記憶が失われても、心に残った思いは消えない。

——消えているけれど、消えていない。


あの言葉が、今になって胸の奥で静かに響いてくる。

その意味を、自分の感覚として、ようやく理解しはじめている気がした。

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