27 遠ざかるレモンの香り
レモンくんは静かに頷いて、口を開いた。
「理由、あったんじゃん。」
夕雨は静かに返す。
「そうだね。」
今、バスの中でそのことを思い出した夕雨は、少しだけ安堵の息をついた。
あの時、「レモンくん」とつけた理由が、やっと心にしっくりきた気がした。
「でも、本当は……夕雨が彼と向き合って話せたから、気づいたんだよね。」
夕雨はレモンくんの言葉にハッとした。
「ああ、そうか…」
夕雨の中で、いろんなことが繋がり、整理されていった。
「そう……そうだね。朝陽を、朝陽として受け止めきれなかったから……別の名前をつけて、切り離してたんだ。今、やっと分かった気がする。」
レモンくんはうん、と頷き、窓の外に目を向けた。
景色は流れ、淡く色を変えていく。
しばらく沈黙が続いた後、レモンくんは、ほんの少しだけ寂しそうに、けれど穏やかに言った。
「もう、大丈夫だよ。夕雨はちゃんと、朝陽と、みんなと向き合えたから。」
夕雨は、そういわれ、その言葉の意味をすぐに理解した。
目の前にいるこの存在は、静かに離れていこうとしている。
「……うん。ありがとう、レモンくん。」
夕雨は、少しだけ泣きそうな顔で笑った。
レモンくんも笑って、それきり何も言わなかった。
二人の間に流れる時間は、あたたかく、そして少しだけ切なかった。
*
誰かの降車ボタンが鳴り響き、夕雨ははっと目を開けた。
気づくと、一人、隣には誰もいない。
慌てて窓の外を見る。
よかった、まだ乗り過ごしてはいないようだ。
濡れた顔を拭うが、指では足りなくて、ハンカチを取り出す。
車窓の向こうに広がる街の光が、ぼんやりとにじんで見えた。




