26 なんでレモンくんなの?
バスの中で、夕雨は窓の外をぼんやりと見つめ、イヤホンから流れる音楽に身を委ねていた。
その歌は、大切な人を失った悲しみや喪失感を歌っていて、歌詞がひとつひとつ心に深く染み込んでいく。
あの頃の曲だ。
どこか懐かしい気持ちが静かに湧き上がり、胸の奥で小さな波紋を広げていた。
「ねえ、夕雨」
振り向くと、隣にレモンくんが座っていた。
「なんでレモンなの?」
思いもよらぬ問いかけに、夕雨は少し驚いた。
「え?あ、なんとなく?特に理由はないよ。」
夕雨は軽く肩をすくめて言ったが、「理由はない」という言葉を口にしながら、少し違和感を覚えた。
「でも、確かに…なんでだろう。」
レモンくんは黙って夕雨の顔をじっと見つめている。
その視線が、どこか夕雨の中にあるものを引き出すような気がした。
夕雨はぽつりと言った。
「…黄色。」
ふふ、と笑いながら、レモンくんが言う。
「思い出した?俺、黄色が好きだったんだよ。」
夕雨は、ふと朝陽との日々を思い出す。
あのとき、もう一度朝陽と向き合えて、ようやくお互いの気持ちが通じ合った瞬間があった。
「あと…レモングラスのハンドクリーム。」
夕雨は小さく笑って続けた。
「もらったんだよね。久しぶりに会えて、プレゼントなんてくれて、泣きたくなるくらい嬉しかった。何か言いたそうにしてたけど、あいつ、渡してすぐどっか行っちゃって。」
レモンの香り、黄色、そして何より、この歌。
この歌は、朝陽を失った夕雨を支え、心を癒してくれた。
切なさと、失ってしまった何かへの想いが、自分と重なり合っていた。




