22 あの髪を撫でたいくらい、懐かしいのに
隣の日高が静かに、背中に手を添える。
「原因は、ストレスじゃないかって言われてました。学科の勉強がすごく大変だったみたいで、けっこう無理してたみたいで……。私も、大変なのはなんとなくわかってたんですけど、そこまでとは、気づけなくて。倒れるまでも、倒れてからも、何もできませんでした。」
涙をこらえる夕雨。テーブルの誰もが息をひそめて、その言葉を聞いている。
上司の山口も、予想を上回る告白に、眉をひそめていた。
「知らないふりをするのって、思ってたよりずっとしんどかったです。毎日会って、話して、笑って──でも、全部『初対面』みたいに接しなきゃいけなくて……本当は、あの髪を撫でたいくらい、懐かしいのに」
誰かがそっと鼻をすする音が響き、静かな空気が広がる。
それでも、夕雨はまっすぐ前を見つめ、続けた。
「……最初はすごく悲しかったけど、少しずつ今の彼と話すようになって、わかってきたんです。昔の朝陽とは違うけど……今の彼も、ちゃんと、彼なんだって」
テーブルに沈黙が落ちる。それは重苦しくなく、むしろ温かく、包み込むような静けさだった。
「だから、無理に思い出させるつもりはないんです。彼が自然に思い出してくれたら……いや、思い出せなくても、今はそれでいいかなって、思ってます」




