21 夕雨が明かした過去
居酒屋の個室。
少し落ち着いた空気が流れる中、同僚たちは夕雨に優しく声をかけた。
「ほら〜…東くんのせいで、白石さんビビってんじゃん。」
山口がからかうように笑う。
「大丈夫だよ、夕雨ちゃん。誰も噛みついたりしないからね」
笑う日高の隣で、東が申し訳なさそうに、少し躊躇いながら声をかける。
「……無理に話さなくてもいいんだよ。俺が勝手に見つけて、勝手に騒いだだけだから」
夕雨は少し目を細めて、静かに笑った。
「いや、実はそろそろバレそうだなって、なんとなく思ってました。」
犯人の自白のように、あっさりと夕雨は言う。
「まじかよ」
「白石さん、こんなときも冷静なの?」
同僚たちが笑い、和やかな空気が流れる。
そんななか、一人だけ、夕雨が強がっていると察した日高が、やや真剣な顔で問いかけた。
「無理はしなくていいんだよ。でも、辛いなら、話して?」
夕雨は少し手を握りしめ、深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた。
「……大学時代、橘朝陽くんと私は友達でした。大学で出会って、気が合って、いろんなことを話しました。……お互い忙しくて会えないことも多かったけど、仲は、けっこう良かったと思います」
その言葉に、誰も遮らず、静かに耳を傾ける。
「でも……ある日、すごく寒くて、雨が強く降っていた日……彼が脳卒中で倒れて、事故に遭ってしまって……骨折とか……ほんとに、ひどい状態って聞いて」
少しの沈黙が流れ、夕雨の声がわずかにかすれる。
「少しして、彼は、大学に入ってからの記憶を、全部、失ったと聞きました。私のことも──全部」




