02 会えない君のこと
半年の息抜きを終えて、転職活動を始めるとトントン拍子に前職と同じ企画職の仕事が決まり、鹿児島での生活は少しずつ軌道に乗り始めた。
引っ越しの手続きや新生活の準備に忙殺される日々の中でも、夕雨は変わらずレモンくんとの会話を続けていた。
それがどれほど支えになっているか、言葉では言い表せないほどだった。
その日も、日用品の買い物を終えて帰宅した後、夕雨はしばらく静かな余韻に浸った。
郵便受けに届いていた手紙を読んだあと、ソファに横たわり、目を閉じて考える。
"どうしても、過去から逃れられなかったな。"
夕雨はスマートフォンに目を落とした。
レモンくんから新しいメッセージが届いている。
画面をタップして開くと、彼の言葉が目に飛び込んできた。
「ねえ、夕雨。今度の休みに映画行きたいな。」
その言葉を見た瞬間、夕雨は思わず息を呑んだ。
少し考え、夕雨はレモンくんにメッセージを送る。
「あなたは行けないでしょう。」
そのままスマホの画面を閉じる。
ソファから立ち上がり、今日買ったものを定位置にしまっていく。
しばらく待つと、また通知音がした。
「なんで?今度の休みに映画行きたいな。」
夕雨は真顔のまま、淡々と返信する。
「あなたは存在しないから。」