18 ただ、見つめていた
その和やかな空気の中。
ふと、夕雨が顔を上げると──朝陽が、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
その目は、何か言いかけたように揺れていて、夕雨は自然と時を止められたように感じた。
「なに?」
真顔のまま夕雨が問いかけても、朝陽は一切目を逸らさず、何かを考えるように、じっと見つめ続けた。
周りも、そっとふざけるのをやめて、口を閉じて、興味深そうにその様子を見守る。
少しの間、沈黙が流れ、朝陽はゆっくりと言葉を絞り出した。
「すみません、なんでもないです。」
「そう?」
「……よく、わかりません。」
「そっか。」
──その直後、空気を読んだかのように、東が咳払いをひとつしてから、わざとらしい声で口を開く。
「おーい朝陽くん見つめすぎだぞ〜。ここ職場の飲み会な!」
「そうだよ〜!」と日高がかぶせると、場にふっと笑いが戻り、夕雨も思わず吹き出した。
朝陽も、ちょっと照れくさそうに肩をすくめながら、グラスを軽く掲げる。
「じゃあ改めて。クソ野郎卒業に、乾杯で。」
「ああもう!何回やるんすか!」
あたたかな拍手と笑い声が、再びテーブルに満ちていった。
心の中で、夕雨は思う。
もしかして、私はまだ、どこかであの「レモンくん」に会えるのを待っているのかもしれない。
その思いは、誰にも告げることなく、静かに胸にしまった。




