14 少し話したいことがあって
「……自分、新卒だけど、26歳なんです。大学3年のときに怪我で入院して……記憶も何年か曖昧になってしまって。」
言葉はたどたどしかったが、朝陽の想いははっきりと伝わってきた。
坂元が静かにうなずき、周りも誰ひとり口を挟まなかった。
「知ってたんですよね?」
朝陽は、夕雨の方に目を向けた。
「うん。みんなも、ね。」と夕雨が周りに視線を動かしながら、優しく答える。
同僚たちもそれぞれうなずき、柔らかな空気が場を包む。
「その……」朝陽はさらに言い淀んだ。
すかさず日高が、「ほらその、別に、ね。みんな普通に、ね、一緒に働く人たちだし。」と言った。
それに背中を押されるように、朝陽が続けた。
「普通に接してくれて、ありがたかったです。俺が困ってるときも、気を遣ってくれてるの、わかってました。……その、お礼が言いたくて。」
「そんな、大げさなことじゃないよ。」と山口は笑った。
「うんうん。俺も最初から朝陽くんは頼もしいなって思ってた。」と東が言い、
「…逃げ恥知らないけど。」と続けた。
「だからそれ俺、知らないんすよ!」と朝陽は困ったように笑った。
すかさず坂元が、「でしたね〜前に恋ダンスの話したら、朝陽さん、めっっちゃポカンとしてて…」と、冗談めかして笑う。
周囲がどっと笑い、日高が「頼っていいんだよ、朝陽くん。『逃げ恥知らないです』って」と優しく言葉を添える。
「俺も!朝陽さん、かっこいいです!逃げ恥知らないけど!」と坂元がにこやかに言って、さらに場を明るくした。
朝陽は「もう〜……」と呆れたように笑い、グラスを軽く掲げる。
「みんな、大好きだ!」酔った勢いのままの素直な言葉に、テーブルがふわっと温かい笑いに包まれた。
「よし、じゃあ改めて乾杯しよう!」と東が声をかけ、グラスが軽やかに打ち鳴らされた。
夕雨はグラスを手に、口元に手を当てて笑いながらふと思った。
(この場所なら、きっと大丈夫。)
賑やかな光景を眺めながら、少しだけ、心が軽くなるのを感じていた。




