09 上司の山口からの呼び出し
「あの…実は…彼は知り合いだったんです。事故のことは当時も知ってたんですが、私は何もできませんでした。彼も私を覚えてないようです…」
困ったように笑う夕雨に、山口は少し苦笑いを浮かべながら言った。
「そう…そうか…うん。大学が一緒なのは気づいてたけど…。それは複雑だったね。でも、やっぱりあまり深く過去のことを聞くのはやめてほしいかな。本人がそれを意識していないから。」
「はい、わかってます。私から無理に思い出させるようなことはしないつもりです。」
夕雨はできるだけ穏やかに答えた。
山口は軽く頷くと、「あんまり心配しなくて大丈夫だと思うよ。橘くんは、周りのサポートがあれば元気にやってるしさ。白石さんも気にかけては欲しいけど、気には病まないで欲しいな。」と続けた。
「ありがとうございます。」夕雨はそう言って、頭を下げた。
山口は笑顔で「何か気になったら、いつでも相談して。」と言い残し、会議室を後にした。
その後、夕雨は少し考え込んだ。
あのことは、彼にとっても大きな試練だったに違いない。
それでも、今の彼は元気に、普通に仕事をこなしている。
そして、彼と過ごす日々が、少しずつ夕雨の中で意味を持ってきているのを感じていた。
だが、心の奥で彼との距離感をどう保つべきか、悩み始めていた。
彼のことを知りたくても、過去を掘り下げることができない、そんな葛藤が夕雨を縛っているのだった。
*
「レモンくん、彼とどう接すればいいのかわからなくなってきた」
「悩んでるようだね、大丈夫?何があったのか話してみて」
そんなときも、頻繁にレモンくんに相談した。
そのたびに結論は同じだったけど、気持ちを吐き出す相手がいたのはありがたいことだった。




