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六 婚約破棄されましたが価値ある存在なのです

 

 ライマン皇太子は、ソフィアが座った席のそばまで、静かに歩み寄った。会場がどよめく中、ライマンは立ったまま、フィリップの方に向き直って問いかけた。


「フィリップ公子。貴様は、このソフィア・アルザン子爵令嬢と婚約したのではなかったのか?」


 フィリップは、一瞬だけ表情を引きつらせたが、すぐに薄く笑った。


「ああ、ライマン皇太子殿下、気にされることはありません」


 彼は手をひらひらと振り、ソフィアを嘲るように見た。


「この女は確かに、かつて、私の婚約者であった者。しかし、貴族としての価値がないと判断して、既に婚約は破棄しました」


 クラウディアも言い添える。


「フィリップは、今は私の婚約者なのです。殿下が彼女に気を遣われる必要など、ありませんわ」


「ほう……」


 ライマンは一瞬目を細めると、静かに息を吐いた。


「貴族としての価値がない、か」


「ええ、その通りです!」


 フィリップは自信満々にうなづいた。


「そもそも、この女は帝国の貿易にも、政治にも、何の関係もありません。関わる必要もない、去年のカレンダーよりも役に立たない、無用な過去の存在なのです」


 その瞬間、ライマンはふっと笑った。


 しかしその笑顔は、残酷で冷たいものだった。


「なるほど……」


 ライマンは、すっと顎に手を添えながらつぶやいた。


「では、貴様の言い分では、不要な者は切り捨てるというのが、リタールの掟か?」


「当然です」


「貴族は常に自らの利益を追求し、最善の相手と結婚すべきですわ」


 クラウディアが優雅に言い添える。


「下らぬ感情に流されることなく、最も価値ある血統を残す……それこそが、貴族のあるべき姿です」


「……フッ」


 ライマンは短く笑い、今度は真正面からフィリップを睨みつけた。


 その紫色の瞳には、氷のような冷酷さが宿っていた。


「では、その下劣な血統を根絶やしにすべきなのは、お前たちだな」


 会場が静まり返った。


「は?」


 フィリップの顔から血の気が引く。


「な、何を?」


「貴族とは、価値のある存在。そう言ったではないか?」


 ライマンの声は冷たく響く。


「では、貴様の価値とは何だ?」


 フィリップが凍りつく。


「おのれの利益のために婚約者を捨て、利権にしがみつこうとする薄汚い男の、どこに価値がある?」


「ぐっ……!」


「本当の貴族、本当に価値のある存在とは、義を守り、誇りを持つ者を言うのだ。血筋など問題ではない。おのれの都合で簡単に婚約者を捨て、目先の利益に踊らされるようなクズに、貿易など任せられるか!」


「何という暴言! 殿下。なぜ私に、こんなひどい仕打ちをなさるので⁉」


 我慢の限界が来て抗議し始めたフィリップに、ライマンは肩をすくめながら、冷たく言い放つ。


「簡単なことだ」


 彼は、ゆっくりとソフィアへと目を向ける。


「弱者を切り捨てる者よりも、誇りを保ち続ける者を、私は価値ある存在として愛し、信頼する」


 その瞬間、フィリップの顔が歪む。


「お前のような浅ましい男に、帝国の貿易を任せるつもりは毛頭ない」


「そんなあ……!」


「それにだ」


 ライマンは鋭く言い放った。


「この場で、彼女を侮辱する者は、私が絶対に許さない」


 その言葉の意味を、まだ誰も理解していなかった。


 だが、会場には恐怖と緊張感が張りつめた。


「処罰は、リタール国王の判断に委ねよう。しかし、覚えておけ」


 ライマンは静かに、しかし絶対的な威圧感をもって告げる。


「帝国は、義なき者とは手を組まない」


 貴族たちがざわめき始める。


「フィリップ公子殿……これはまずいのでは?」


「もし、ライマン皇太子殿下がリタール王国を見限ったら……」



「くっ……!」


 フィリップは歯を食いしばり、拳を握りしめた。


(なぜだ、どうしてこうなった!)


 事ここに及んでも、彼はまだ理解していなかった。


 自分が捨てた「ただの養女」が、オーヴェスト帝国にとって何よりも重要な存在であることを……。

次回、ついにソフィアの正体を明かす!(最初から言えよ

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