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第8話 うーん と あーん

よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


 蕩けるような甘さを堪能していた美鳥の目が、ゆっくりと開かれていく。


「美華姉。美味しかった。ありがとう」


 気のせいか、美鳥の口調が抑揚がないものになっていた。


「そうか、よかったな」


 と美華が言うが否や、


「もう、少し分けてね」


 と美鳥は自分の持つティースプーンを美華のマンゴーピンスの氷河の一角に差して掬い取ってしまう。


「ちょっ、ちょっと美鳥…」


 美鳥はそれを目にも止まらぬ早さで自分の口に入れていく。

 それを繰り返して、ただ、ひたすらにスプーンを口に運んでいく。


「ちょっと、美鳥! 私のかき氷よ。止めなさいって」

 美華は慌てた。すると、


「う〜ん」


 美鳥は自分の手のひらの母指球に額をつけてテーブルにかがみ込んでしまった。


「美鳥、大丈夫か?」


 何もできず呆然としていたが一孝もあわてた。


「う〜んん」

「美鳥! そんなに慌てて、掻っ込むから痛くなるんだ。この食いしんぼ」


 美鳥は、まだ頭の痛みが取れずにいる。


「………頭がキーンってきてる。痛いの」


 顔を伏せたままでくぐもった声が聞こえてくる。


「冷たいのを慌てて食べれば、痛くなるのも道理。ゆっくりと味わって食べればなんともないんだからね」


 美華は伏している美鳥の後頭部を眺めなら、ティースプーンをマンゴーピンスに差し入れると、少ない量を掬い上げて口元に運ぶ。唇から溢れてでしまわないように、ゆっくりと押し込んでいく。美華の舌の上に氷が乗り、ゆるりと溶けていき冷たさと甘さをを染み込ませていった。


「ふぅ〜。美味しいわぁ。美鳥の言うとおりさね」


 美華は瞼を閉じて、ゆったりとマンゴーがの上で蕩けていく様を味わう。心地よい甘さを堪能した彼女は、スプーンを口から取り出すと、


「ほらね。ゆっくりと口の中で俺氷を溶かせば大丈夫。見てなさい」


 と、手ほどきのつもりで、もう一度かき氷を口に運んだ。スプーンの柄を鉛筆握りで持ち、口の中に流し込む。

 が、これみよがしに美鳥に見せつけるようにしたのが災いした。溶けて喉に流れた氷の冷たさが三叉神経を刺激してしまった。神経が冷たさを勘違いして痛みを頭の芯を通して額の裏側に伝達する。



「う〜んんん」


 美華も手で額を抑えてデーブんに突っ伏してしまう。


「美香!」


 美華の隣でそんな様を見ていた美桜は、


「あなたまで何やってるの。一孝くん。美鳥の方をお願い。こうしてやって」


 驚いて、固まってしまっていた一孝に指示を出す。先ほど、かき氷を頼んだ帰りに美華が持って来た、お冷のコップから氷をを二つ取り出すと美華の頭を少し持ち上げて、額につけた


「ひゃっ、冷たい」


 刺激されて起き上がった美華の顳顬にも氷を押し当てる。


「冷たあーい。一孝さん、氷をとってえ」


 美鳥も同じようにされて、跳ね起きる。


「………でも少し、痛みが薄れたわ。ありがとう、ママ」


 美桜の素性を隠す余裕もなくなり、ぼろっと美華は呼んでしまう。


「でねえ、美華ちゃん。舌を口の中の上の方に押し当てられる?、こう」


 それどころではないと美桜も気にするのをやめて。美華に自分の口を開けて見せて舌の動かし方を諭していく。




 しばらくすると、痛みもなくなり、美鳥も美華も平静を取り戻した。


「良かったぁ。額の痛いのなくなりました。美桜姉ありがとう。こうすると痛いのなくなるのですね。良いことや教えてもらいました」

「もう、ママでいいわよ。取り繕ったって何か変わるのでもあるまいしね」

「ふふ、ママ、ありがとう」


 お互い、気軽に話しかけられると、言葉の角も取れていく。


「よく知っていましたね。美桜さん。初めて聞きましたよ」



 一孝は感心しきり

「そりゃあ、年の功………、こら! 一孝くん何言わせるの、もう」

「ママ、自爆してる」

「美華まで。嫌になっちゃうわ」


 とは言うものの美桜は笑っている。娘たちと気兼ねなく話せることが楽しいのだろう。


 そんな和やかな中、一孝というと、彼は美鳥の額に汗とりシートを当てている。額を冷やすためにつけた氷が溶けてしまったのだ。美鳥は一孝に手当てをされているのが嬉しいのか甘えた表情を見せている。


「一孝さん、ありがとう。さっぱりしました」

「良かったよ。俺も経験したことあるせど、痛いもんなあ」

「ええ、本当に助かっちゃいました。で、お礼に」


 と言って美鳥はミルク苺から氷をひと掬いして、


「アーン」


 と一孝に寄り添い、スプーンを彼の口に寄せていく。


「美鳥!」

「アーン」

「俺は良いよ」

「アーン」

「美鳥が全部食べれば良いから」

「アーン」

「甘いのそんなに……」


 美鳥の。諦めない催促に一孝が根負けして折れて口を開く


「あーん」

「はい! どうぞ」

「うぐ」


 美鳥はにっこりと微笑みスプーンを一孝と口に差し入れる。彼は美鳥の抜き打ちのスマイルパンチにクラっときながらも、じっくりと下の上で溶けていく氷を味わう。


「本当だ。苺の甘さとトロッとした練乳の甘さが溶けて、これは美味い」

「でしょ! でしょでしょ」


 美鳥は嬉しそうに、もう一回氷を救う。一孝に寄り添いスプーンを持った手を伸ばしていく。


「アーン」

「みっ、美鳥。もう良いよ」

「だめです。一孝さんが優しくしてくれた私の心を感じてください」

「美鳥…」


 美鳥は、いっそう一孝に張りつき体を預けていく。一孝は服越しの柔らかさを感じてドギマギしてしまう。


 そんな、二人のいちゃいちゃを眺めながら、隣に座る美華に耳打ちをする。


「見てみて、あの二人、あの距離」

「あれは、全てを許し合う、恋人の距離だね」

「そうそう。美鳥も一孝君もお互い認め合ってるのね。ママ嬉しいわ」

「ママ」

「思い出すわね。美華と和也君もあんな感じだったのよ」

「ママ」

「見ているこっちが赤面ものよ」

「ママ」


 真っ赤になって美華は美桜の口を塞ごうとジタバタする。そんな仕草を美桜はあしらって、


「美鳥、それに一孝君も」


 と呼ばれて、自分たちががどういう痴態を演じていたかを思い出して顔を真っ赤に染めている。


「二人の世界に浸ってて悪いけど、今夜は鰻よ。楽しみにしてね」

「やったね。大好きっ」

「帰って来た甲斐がいるってものよ」

「待ってました」

「二人とも手伝ってね」


「「もちろん」」


「一孝君も良いかな」

「はい、食堂へ夕飯はキャンセルするって連絡しました」

「一孝! そこは『いいとも!』っていうところだよ」

「すっ、すいません」

「ふふ、一孝君らしいわ」




  楽しい夏の1日は終わらない。


ありがとうございました。


挿絵(By みてみん)

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