帰還1
優理にはいつからかは思い出せないが、よく見る夢がある。
それは誰かに呼ばれている夢。
声の相手を探すけれど、視界は悪く姿は見当たらない。それでも、その声はだんだん近づいてきていて、ついに昨日は肩に手をかけられた!と、思ったところで目が覚めた。
「ねえ、正輝どう思う?」
朝食時、優理は夫に聞いてみた。
私の問いかけに夫は、生返事を返しながらスマホでニュースを読んでいる。
「怖さは感じないんだよね。どっちかって言うと、心配されてる感じ?迷子の子供を探すような、そんな感じの声だからなんか申し訳なくなっちゃうんだよね。」
トマトを頬張りながら話す私に正輝は「ふーん」と、聞いているのか聞いてないのか分からない生返事を返す。
まあ、人の夢の話なんて面白くもないから仕方がない。
玄関で先に仕事に行く正輝を見送る。
「今日、帰りはいつもどおり?」
「あー、多分。何も無かったと思う。」
「じゃあ、待ち合わせて外でご飯食べようよ!」
皮靴の踵をならしながら、正輝は振り向きその唇に優理はキスをする。
「この間、言ってたところ?」
「そう。丸山さんが行ったらしいんだけどね、いい感じだったって」
「わかった。なら時間はまたあとで連絡する。」
正輝は優理を優しく引き寄せ唇にキスを返した。
「行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
ご機嫌になった優理は、正輝がエレベーターホールへ歩いていくのを玄関ドアから顔を出し、手を振りながら見ていた。
それを見た正輝は笑って手を振り返した。
家の中に戻って、さて自分も支度をしようとリビングに足を向けたときどこからか温かな風がふわりと舞い上がった。その途端、優理を眩しい光が包む。
なに、なに、なに!⁉
突然の事に訳もわからず、驚きすぎて声も出ない。
「危ねえ、スマホ忘れ…え」
そこへ、忘れ物を取りに正輝が戻って来た。
「正輝くん‼」
「優理‼」
やっと声がでた真理は助けを求めるように腕を伸ばした。正輝もその腕を掴もうと手を出し、2人の指が繋がるかどうかの瞬間、光は一段とその輝きを増しフッと消えてしまった。
そして、2人の姿もどこにもなかった。