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守護狐の千年物語  作者: オリオン
プロローグ、少女との絆
6/41

お別れの時間

再開を喜び、少しして由紀恵は小さく謝罪し

涙を拭いて、錫音の顔を見た。


「ふふ、もうちょっと甘えてても良いんだよ?」

「い、いえ、流石にこれ以上は……

 その、娘の前でもありますし」

「あはは、それもそうだね。優しいお母さんが

 私みたいな人に独占されてたら怒っちゃうかもね」

「いえ、そう言う意味では……

 と、とにかくです、錫音様。

 その、私が見付けた技術を学びたいというのは」

「うん。もし由紀恵ちゃんに霊具神姫の技術を教わって

 私がその技術を会得することが出来れば

 村の刀鍛冶とかにも私が技術を教える事で

 より安全に色々な人達を救えると思ってね」


技術を広めるというのは、諸刃の剣に等しい。

少なくとも、下手に広めすぎてしまえば

霊具神姫の希少価値が減ってしまうだろう。

だが、由紀恵がこの技術に注いだ想いは

1人でも多くの命を救いたいという想いだ。

少しでもこの技術を広められるのであれば

断わる理由などないだろう。


「分かりました。でも、少し問題が」

「問題?」

「はい、その……実は、私達も未だに

 この技術は誰に会得できて、誰に会得できないのか。

 それが、全く分からないんです。だから、もしかしたら

 錫音様でも会得できないかも知れなくて」

「うーん。なる程、由紀恵ちゃんでもまだ完全には分からないと。

 何か理由があるのか分からないけど、まずはやってみないとね」

「そうですよね、では、お教えします」

「うん、ありがとう」


錫音は由紀恵に霊具神姫の技術を教わる。

何度も細かく、どうすれば刀に霊力を込められるのか。

それを徹底的に教わっていった錫音は

僅か1年でその技術を完全に物にした。


「なる程、こんな感じなんだね。流石に大変だよ」

「さ、流石ですね錫音様……1年程度でこんな業物を」

「刀鍛冶自体は私、結構やってたからね。

 まぁ、貰った刀以外は全部折れちゃうんだけど」

「え!? どうしてですか!?」

「いやぁ、私、刀を使うときに霊力とか妖力とか纏わして

 より攻撃力を底上げして戦ってるんだよね。

 纏わせないと、悪鬼相手に攻撃が通りにくいから

 でも、そう扱うと刀に負荷が掛かるみたいでね。

 白時雨と花時雨は大丈夫だけど、他の刀だと

 1年も持たないで折れちゃうんだよね」


この言葉を聞いて、錫音が今まで白時雨以外を

持ってなかった理由を由紀恵は理解した。

当然、それが全てではないのだが、大きな要素だ。


「花時雨は大丈夫だったんですね」

「うん。更に霊力を刀に纏わせて近付ければ

 相手に霊力を渡せるようになってる。

 本当に凄い刀だよ」

「流石は由紀恵の最高傑作だな」


死にかけてる幼子に霊力を分け与えることが出来る。

これにより、より多くの命を救う事が出来た。

由紀恵が打った花時雨は、錫音が欲した力を持っていたのだ。


白時雨は妖力を纏わせ、より攻撃力を高めることで

悪鬼を倒すことに特化した刀。

昔の錫音が求めていた、悪鬼を倒す力を持った一振り。

花時雨は霊力を纏わせ、より防御力を高める事で

誰かを守ることに特化した刀。

今の錫音が求めていた、救う力を持った一振りとなる。


「ありがとうね、救える命が増えて嬉しかった」

「……私の方こそ、私を救ってくれて

 私に、こんな素晴らしい夢を与えてくれて……

 こんな、幸せな時間を私に与えてくれて……」


過去を思い出す度に、彼女は涙を流していた。

あの時、錫音に救われた瞬間こそが

彼女の刀鍛冶としての原点であり

今の幸せを得る事が出来たきっかけでもある。

本来、あのまま消えるだけだった命を救って貰い

今、この上ない幸福を感じている。

懐かしい匂いと共に1年も過ごした事で

彼女の脳裏には、何度もあの過去が蘇っていた。


「錫音様! 見て! これ!」

「ん? 霊力を少し纏ってるね」

「真似したの! 凄いでしょ!? でもなぁ

 全然違うんだよね、お母様達の刀とは」

「そうだね、あまり纏えてないからね。

 由希子ちゃんはまだ6歳だからね。

 霊力が少ないし、霊力を注げないのは当然だよ。

 でも、悪鬼に襲われた訳じゃ無いのに

 ここまで纏えるんだから、このまま頑張れば」

「え!?」

「ん? どうしたのかな?」


由希子と錫音の会話を微笑みながら聞いていた由紀恵が

錫音のとある言葉を聞いて反応した。


「す、錫音様……その、どう言う事なんですか?

 悪鬼に襲われたわけじゃ無いのにって……」

「あ、そうか、知らないんだよね。

 じゃあ、教えようかな。ねぇ、由紀恵ちゃん。

 どうして子供が悪鬼に襲われちゃった場合

 7歳まで、再び狙われやすくなると思う?」

「え? いや、それは分かりませんね……」

「俺も分かりません」

「答えは、襲われた子供の霊力が急激に増えるから」

「え!?」


今まで、刀鍛冶の事にばかり集中していた2人は

この事実を聞いて驚きの表情を浮かべた。


「霊力を成長させる方法はいくつかあるんだけど

 霊力が成長しやすい時期って言うのは3歳から7歳まで。

 この間に霊力を使った修練を積んでる人間。

 例えば、陰陽師とかは霊力とかが爆発的に増える」


陰陽師は実際、何故悪鬼と戦えるのか。

錫音の言葉を聞いて、少し思っていた疑問が晴れる。


「そして、この間に悪鬼に襲われた子供は

 悪鬼に対抗するために霊力を急激に高めるんだ。

 霊力は悪鬼からすれば、本来は毒になるからね。

 人間の防衛本能に近い反応と言えるんだ。

 だから、幼い頃に悪鬼に襲われた子供は

 悪鬼に襲われなかった子供よりも

 最低10倍以上の霊力を得る事が出来る」


だが、悪鬼は霊力を狙ってくるという。

普通に生活していれば、それは常識に近かった。

いくら刀鍛冶にばかり意識を割いていたとしても

それ位は知って居た。


「し、しかし、悪鬼は霊力を狙ってきてます。

 悪鬼からして霊力が毒なら、何故悪鬼は霊力を!」

「霊力が悪鬼にとって毒になるのは

 正式にその霊力を扱う事が出来れば。

 あるいは、一気に霊力を吸い取った場合だよ。

 でも、悪鬼は一気に霊力を奪わない様に少しずつ奪う。

 だから、救う事が出来る子も生まれてくるって感じ。

 とは言え、霊力が一定以上あれば襲われにくいんだけどね。

 だから、才能が凄い陰陽師は小さくとも狙われない」

「なら、どうして悪鬼は3歳から7歳の子を狙うんですか?」

「そうだね、その時が1番美味しいかららしいよ」

「らしいというのは……」

「悪鬼の中には会話が出来る奴も居るからね。

 そいつらから聞いたんだ。私は霊力奪わないし」


悪鬼には色々な種類が存在している。

会話が出来ない異形な形をした者も居れば

会話が成立する、人型も居る。

むしろ、力ある悪鬼は人型の方が多い。

錫音の姉妹も同じ様に、会話が出来る悪鬼である。


「でも、本当に皮肉としか言えないよね。

 身を守るために霊力を増やしたはずなのに

 その増やした霊力のせいで悪鬼に狙われるなんて。

 だから、出来れば陰陽師の技術も広めたいんだけど

 陰陽師は才能が凄く大事だから広められないんだ」


少し悲しそうに錫音は呟いたが

改めて、錫音は自分が打った刀と

由希子が打った刀を見て微笑んだ。


「だけど、霊具神姫が作る武器は才能が無い人でも

 悪鬼に対抗する手段を得る事が出来るんだ。

 由紀恵ちゃんが見付けた技術は刀に霊力を込め打つ技術。

 つまりは、悪鬼を倒す為の武器になるんだ。

 だから、沢山広めて欲しいな」

「……はい! 錫音様のお陰で分かりました。

 霊具神姫の技術を極める事が出来る人が誰か。

 幼い頃に悪鬼に襲われた子か、幼い頃から

 悪鬼を倒すために努力した子と言う事ですね」

「うん。そしてもうひとつ。

 霊具神姫に所属して、1人でも多くの人を救いたいと

 そう思って、一切努力を妥協しない人だね」

「と言うと?」

「例え7歳までに悪鬼に攫われてたり、霊力を鍛えて無くても

 必死に霊力を増やすように努力した子はいつか必ず

 非常に大きな霊力を身につけることが出来るんだから。

 だから藤一君も頑張ってね?」

「は、はい!」

「それじゃあ、私はこれで。1年間、本当にありがとう。

 もしかしたら、もう会えないかも知れないけど

 絶対にあなた達の事は忘れないからね」


もしかしたら今生の別れとなってしまうかも知れない。

錫音はもう来ることはないかもと、そう考えてるのだろう。

長く旅をし、小さな村々を救っている彼女。

安全なこの都に、再び来ることになるかの確証は無い。

だから、この言葉を伝えてくれたのだろう。


「……錫音様、なら、1つ、お願いがあります」

「何かな?」

「錫音様が打った二振りの刀。秋時雨あきしぐれ月華げっか

 この二振りのうち、月華を私にくださりませんか?」

「月華を?」


月華は今回の練習で錫音が打てた刀の1つだ。

錫音はこの1年で、傑作だと感じた二振りに名を付けた。

1つは秋時雨。あまりにも美しい刀身を見せるが

その輝きは、花時雨や白時雨には劣っている。

だが、十分な業物と言える一振り。

霊具神姫の技術、霊力を込めて打つ技術により打った刀。

もう1つは月華。霊力を込めて打てるのであれば

妖力も込めて打てるのではないかと、そう感じた錫音が

霊具神姫の技術を応用して打った、妖力がこもった刀。

つまりは、より錫音の力に近い刀であった。

妖しく光る刀は、まるで妖刀の様である。


「月華だけで良いの? 秋時雨も渡そうか?」

「いえ、秋時雨は錫音様がお持ちください。

 私が見付け出した技術により打たれた刀です。

 だから、私達には錫音様が見付けた新技術により打たれた

 その月華をください。家宝とします。

 そしていつか、その月華を元として、

 擬似的ですが錫音様と共に新たな刀を生み出し、

 私達の最高傑作を錫音様にお渡しします」

「私が打った刀を元にして、新しい刀にするんだ」

「はい!」

「ふふ、楽しみにしてるよ。それじゃ、これを」


優しい笑顔を見せ、錫音は由紀恵に月華を渡す。

由紀恵は錫音から、その月華を受け取り

その刀を見ながら、熱い心を覗かせた。


「またね、皆。今度もし会えたらまたお話ししよう」

「はい! 錫音様!」


由紀恵、藤一、由希子、そして霊具神姫の人々は

錫音に対し、深々と頭を下げ、錫音を見送った。

その後、錫音のアドバイスにより、

霊具神姫の人数は一気に増える。

由希子はその後も努力を続け、

霊具神姫の二代目姫長として

霊具神姫の歴史を刻んでいった。

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