表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護狐の千年物語  作者: オリオン
プロローグ、少女との絆
5/41

奇跡の技術

霊具神姫という、新組織が正式に完成して数年。

新しい技術を見つけ出した由紀恵は悩んでいた。

それは、この技術を継承出来る者のが分からない事だ。


「うーん……」


自らの夫となった藤一に技術を教えても

決してそれを会得することは出来なかった。

自らが初めて女性の刀鍛冶となった事で

女性の刀鍛冶も増えてきて

自らに弟子入りする女性も増えていたが

その女性達の中でも才能に差がある。


それは当然なのだが、問題としては

才能が無さそうな不器用な子が

自らが見付けた技術を会得出来るが

刀を打つのが上手く出来ない。

逆に才能に秀でた女性は素晴らしい刀を打つも

霊具神姫の重要な要素。刀に霊力を込めると言う

重要な部分が出来ないと言う問題だった。


勿論、中にはその両方を熟せた弟子も居たが

彼女はその差を見抜くことが出来ないで居た。


「私の技術は現状だと女性のみの技術……

 それは分かったけど、私の技術を会得できる女性と

 会得できない女性の差が分からない……」


帝が喜んで設立してくれた霊具神姫ではあるが

その人数は非常に少なく、彼女自身を含めても

現在、霊具神姫に所属する女性は5名ほど。

技術の法則性を理解し、どうすれば出来るのか。

それを理解してる由紀恵が教えてこれ位しか

人数を集めることが出来ないのは驚きである。

彼女は必死に頭を動かし、法則性を探る。

だが、何年も頭を悩ませようとも見付からない。


「すまない、由紀恵。俺が使いこなせたら

 一緒に考える事も出来たんだが」

「あなたは男の人でもこの技術を身につける方法を

 私の代わりに探してくれてる。謝ることは無いよ」


2人の現在の目標は、この技術を世に広めることだった。

1人でも多くの人々を救うために、この技術を広める。

由紀恵は女性に安定して広める方法を模索して

藤一は男性がこの技術を会得する方法を模索していた。

全ては悪鬼に殺されてしまう幼子を救うために。


「お母様! お父様! 見て見て! 打てたよ!」

「あ、ふふ、凄いね、由希子ゆきこちゃん」

「あぁ、もうお父様より上手かもな」

「えっへん! 私もいつか錫音様に会って刀を贈るんだー!」

「ふふ、きっと錫音様も喜んでくれるよ」

 

由希子は由紀恵と藤一の1人娘であった。

彼女が霊具神姫を設立する少し前に生まれた少女。

年齢は5歳。彼女にはまだ霊具神姫の技術を教えてない。


彼女の才能は1人の刀鍛冶としてみても

かなり抜きん出た才能を持って居ると2人は見抜いていた。

しかし、霊具神姫の技術を安定して伝える方法が分からぬ以上

下手に教えて、娘が折れてしまうのを避けたいと思っていた。


「はっはっはー! 悪鬼を倒す刀を作るもんねー!

 錫音様の訳に立つ様な凄い刀を打つもん!

 母様みたいに! 凄く綺麗な刀を打つんだ!

 宝石みたいに、綺麗な刀!

 その刀で、錫音様に沢山の人を助けて貰うの!

 そしていつか、私の刀も凄いって思って貰うもんね!

 お母様の刀よりも凄い刀って思って貰うの!

 あはは! 世界一の刀を作るぞー!」

「あ! 駄目よ! 刀を収めて走りなさい!」

「いだい! うぅ、お母様痛いよぉ、殴らないで!」

「刀は危ないの! 良い!? 刀って言うのはね

 人々を救う道具にもなるけど、扱い方を1つ間違えれば

 罪のない人を殺してしまう、とても危ない道具なの!

 だから、誰かを怪我させたり、殺しちゃったりしないように

 刀は慎重に扱わないと駄目! 使わないときは鞘に収める!

 抜き身のまま走り回るなんて言語道断なの!

 それを守れないなら、お母様はあなたに刀の打ち方は教えないし

 あなたの事、嫌いになっちゃうかも知れないわよ!?」

「ご、ごめ、ごめんなさい、お、おが、さま!

 き、嫌いにならないでぇ!」

「なら、しっかりとお母様とお父様の言い付けを守ること。良い?」

「う、うん!」


刀は非常に危険である。扱い方を1つ間違えれば

人1人の命など、容易に奪えてしまうのだから。

彼女達が打つ刀は、悪鬼から人々を守る為の武器。

その武器が、人の命を奪ってはならないと、そう考えてる。

故に、霊具神姫が刀を打つのは悪鬼と戦う者のみだった。


「本当に、あの子は危なっかしいな」

「えぇ、しっかりと教えないとね」

「こんにちはー」


そんな親子のやり取りをしていると、誰かの声が聞えた。

女性のような声である為、

もしかすれば弟子入り志願者かも知れない。


「あ、はーい」


すぐに由紀恵は玄関に向かい、客人の姿を見る。


「あ!?」

「あ、久し振りだね、由紀恵ちゃん」


自らの工房にやって来たのは、あの時と何一つ変わらない

優しい笑みを浮かべた錫音であった。


「す、錫音様!?」

「藤一君も元気そうで安心したよ、どうかな?

 由紀恵ちゃんと仲良く出来てる?」

「は、はい! 勿論です!」

「誰? え、あ、す、凄く綺麗……」

「ん? 小さな子だね。もしかして2人の娘さんかな?」

「は、はい!」


由希子を見た錫音は、姿勢を低くして由希子の目を見る。

そして、とても優しい笑みを見せる。

その笑顔を見た由希子は一瞬で頬を赤くし、

錫音の瞳をキラキラとした目で見ていた。


「ふふ、こんにちは。

 私は錫音。あなたのお名前は?」

「あ、あ!? す、錫音様! 錫音様!

 あ、あの! ゆ、由希子です!

 雪妻由希子! 錫音様! この刀を!」

「ん?」


少しパニックになりながら、由希子は錫音に刀を差し出す。

かなり困惑して居た事もあり、彼女が差し出した刀は抜き身。

それを見た錫音は、少し困惑の表情を浮かべたが

すぐに優しい笑みに変わり、その刀を受け取った。

錫音が扱うには、あまりにも小さな刀ではあるが

錫音は笑顔を見せている。


「ふふ、ありがとう。刀を貰ったのはこれで3回目だよ。

 でもね、誰かに刀を渡そうとするなら、鞘には入れないとね」


そう言って、由希子が持って居た鞘も受け取った。


「もし、相手が怪我をしちゃったら大変だよ?」

「あ! ご、ごめ、ごめんなさい! 嫌いにならないで!

 私、錫音様に刀を、お母様みたいに刀を渡したくて!

 す、凄い刀を!」

「そうなんだ。なら、まだこの刀は受け取らない方が良いかな」

「え!? どうして!? き、嫌いだから!?」

「いいや、由希子ちゃん。あなたはきっと、もっと凄い刀を打てる。

 まだ小さいのに、こんな凄く綺麗な刀を打てる位なんだもん。

 だから、もっと沢山お母さんとお父さんに教わって

 凄い刀が出来たら、その時は私に渡してね?」

「う、うん!」


優しく鞘に刀を戻して、錫音は由希子に刀を返した。

由希子はその刀を受け取り、目をキラキラさせていた。


「ご、ごめんなさい、由希子が迷惑を」

「迷惑なんかじゃ無いよ。私も凄く嬉しかったから。

 ふふ、でも2人の子供かぁ、やっぱり人間は成長が早いね」

「あ、あはは……あ、そ、そうだ錫音様。

 今日はどのようなご用件で!?

 今まで姿を見せてくださらなかったから、忙しいのかと」

「ごめんね、色々な所を旅してたから来るのが遅れてね。

 本当は霊具神姫が設立されてすぐに行き予定だったんだけど

 小さい子が誘拐されちゃって、

 その子のためにしばらく滞在してたんだ」


その言葉を聞いて、彼女はあの時の事を思いだした。

自らを救ってくれた際も、錫音は2年間村に滞在し

自分が7歳になるまで、しっかりと護衛してくれていた。

方々の村を巡り、子供達を救っているのだから

自分1人の為に時間を割く余裕は無いはずだと。

だから、今、彼女がここに来たのは何故か疑問が増えた。


「それならば、何故ここに……お忙しい錫音様が

 時間を割いて、私達に会いに来てくれるだなんて」

「うん。実は由紀恵ちゃんの技術を教わりたいんだ」

「え!? どう言う事ですか!?」

「由紀恵ちゃんが見つけ出した技術は凄くてね。

 実はね、この花時雨のお陰で救える命が凄く増えたんだ」

「え……」

「霊力を吸われて、死にかけてる子に

 霊力を与える事が出来たんだ。お陰で沢山の子供を救えた」

「そ、それって……」

「うん、由紀恵ちゃんのお陰で救える命が増えたんだ」


とても優しい笑顔を錫音は由紀恵に向けてくれた。

同時に彼女の脳裏の蘇る、あの最悪な瞬間。

一緒に救って貰ったはずの男の子が死んでしまった。

あの、最悪な記憶だ。


「私の……お陰?」

「うん、由紀恵ちゃんが必死に見つけ出してくれた技術。

 この技術のお陰で、沢山の人を救える。

 陰陽師達も霊具神姫のお陰で戦えるようになったし

 帝直属の御剣部隊みつるぎぶたいも悪鬼に対抗出来る。

 鈴邸りんていって言う仲間からの情報で、

 それも全部聞いてるんだ。

 本当にありがとうね。お陰で、凄く助かってる」


その言葉を聞いて、由紀恵の瞳からは無意識に涙を溢れ出した。

自らの夢が叶ってると、改めて実感できたからである。

自らが打った刀が、大恩人の助けとなった。

この事を改めて知ることが出来たことで

彼女は喜びのあまりに涙が出たのだろう。


「良かったな、由紀恵」

「う、うん、うん! ありがとう、ありがとう……

 錫音様……そして、藤一さん……」


涙を流す由紀恵を前に、錫音は優しい笑みを浮かべ

由紀恵の頭を優しく撫でてくれた。


「ふふ、良かったね。由紀恵ちゃん」

「す、錫音様……うぅ!」

「おっと、あはは、甘えん坊だなぁ」


咄嗟に由紀恵は錫音に抱き付いてしまう。

そんな由紀恵の行動に、少し驚きながらも

優しい表情を浮かべながら、由紀恵の頭を撫でる。


「頑張ったね、由紀恵ちゃん。好きなだけ甘えて。

 本当にありがとうね」

「ありがとうございます……ありがとうございます……」


もし万が一、あの時錫音が来なければ

自らの今の幸せは無い。その想いを彼女は1度も忘れては無い。

彼女からすれば、錫音は自らを救ってくれた恩人であり

どれだけ成長したとしても、彼女からすれば錫音は

あの時、自らを助けてくれた優しいお狐様であり、

自らの道を教えてくれた、偉大な姉なのだ。


そして、錫音からすれば、どれだけ彼女が成長しようとも

あの時救う事が出来た、小さな命である事に変わりなく

どれだけ成長しようとも、甘えん坊の妹のままだった。


「お母様、凄い嬉しそう……」

「あぁ、錫音様はお母様の大事な人だからな。

 自分を助けてくれた、偉大な方だ」


自分がどれだけ成長しようとも、態度を変えることなく

あの時のままに接してくれる。

少し有名になってしまった彼女はそれがとても嬉しかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ