変わった環境
両親に自分の秘密がバレてしまってしばらくの時が経つ。
怪我も完治し、普段通りの生活に戻ってしばらくして
訓練場に足を運んだ清美は頬を赤くしながら悔しそうにしていた。
「……うぐぐぅ」
あの日以降、訓練場の設備が異常な程に揃っていた。
完全に自分が秘密にしていた努力が露見してと言う確信がある。
最も、あの後、幸子からは清美お姉ちゃんの自慢!
凄くおじさんと叔母さんにしたよ! 凄い褒めてくれるって! と
嬉々として語っていたのだから、バレたのは間違いない。
あまり両親と顔を合せたくは無いのだが、同じ家で過ごしてる以上
食事の度に両親と顔を合せてしまうのは必然である。
(清美、今日も頑張るんだぞ)
(え、えっと……)
(清美、あなたならもっと成長出来るわ)
(……)
そして、その度に両親の表情が普段よりも緩くなり
自分を怒ることも少なくなってむしろ褒められてる。
褒められて恥ずかしい傍らで、嬉しそうにニコニコしてる
幸子が居るのだから、無下にキレる訳にもいかず
恥ずかしさで頬を赤らめながら黙々と食事を取るしか出来ない。
正直、嫌な気持ちはしないのだが、
今更恥ずかしいという思いが強い。
「はぁ、はぁ、えい!」
「はぁ……」
幸子が小さな刀を持って案山子に斬りかかってみる。
だが、刀は案山子に当っても深くは入らない。
「うぅ、清美お姉ちゃんみたいに斬れないよぉ」
「小さい内に斬れるわけ無いでしょ?」
「うー、で、でも、頑張る! えーい」
間の抜けたかけ声と共に清美が案山子に再び攻撃した。
だが、案山子は斬れる所か案山子に僅かな傷しか与えられない。
せめて、刃が食い込むくらいは頑張って欲しいと感じる。
「はぁ、一旦止めて」
「う、うん」
「はい、これ」
清美は訓練場に増えた木刀を取りだし幸子に渡す。
大きさは今、幸子が使ってる刀と同じ大きさだ。
これも霊具神姫が訓練用に作った木刀である。
現在の陰陽師達は長が清美である事も相まって
主に剣術と霊力を扱う戦いを主にして居るため
幼い頃から陰陽師候補に剣術を教えている。
その為、子供用の木刀も当然用意させている。
「凄いなー、私の刀と同じ位小さいね!」
「えぇ、因みにその木刀は見習い霊具神姫の作よ。
つまり、あなたと同い年の子が頑張った木刀ね」
「そうなんだ、えへへ、嬉しいな」
この木刀もまた、霊具神姫の新人候補が作った木刀である。
現在の霊具神姫では、新人の霊具神姫候補は小さい内には
陰陽師と同じ様に霊力を消費させることで霊力を増加させ
ある程度の疲労回復後は木刀を作らせることで物作りの修行をさせている。
当然、木刀と刀の作り方は全然違うのだが、何かを作る事で
集中力を鍛える為に、この木刀作りを訓練として組み込んだ。
その副産物として生まれたのが、この小さな木刀である。
「じゃあ、私の刀も?」
「いや、それは違うわ。
あなたに渡した訓練用の刀は7歳が過ぎた子が訓練用に作った刀ね。
霊具神姫の魂宿りを練習するために作った刀」
「そうなんだ」
自分の腰に付けてる刀を見て、少し嬉しそうに幸子は笑った。
そして、すぐに清美の方を向き直る。
「じゃ、幸子。私が軽く剣術も教えてあげるから掛かってきなさい」
「え? でも清美お姉ちゃん、この棒持ってないよ?」
「この小さい木刀で戦うわよ」
清美の手元には非常に小さな木刀が握られていた。
脇差しサイズよりもいくらか小さい木刀である。
「それは?」
「亜希子が気まぐれで作った小さい木刀らしいわ。
もはや刀? って感じの大きさだけど頑丈なのよね。
でも、これ以下は耐久的な問題で無理だったんだって」
「そうなんだ、凄いね亜希子お姉ちゃん」
「まぁ、あの子も天才だし?」
親友が褒められて、少し嬉しそうに清美は答える。
その姿を見て、幸子も少し嬉しそうに笑った。
「ま、この話は良いわね。じゃ、来なさいな」
「うん! 行くよ清美お姉ちゃん!」
「えぇ、遠慮は要らないわよ? 攻撃もしないから」
「うん、えーい!」
再び間の抜けたかけ声と共に清美に向って幸子が斬りかかる。
幸子はその攻撃を簡単に受け止めて見せた。
「うぅ! 凄い! 全く動かない! 小さいのに!」
「そりゃそうよ、私が持ってるんだから。
ほら、もっと攻撃して」
「うん、えいやー!」
少し無茶苦茶に刀を振う幸子の攻撃を清美は座ったまま防ぐ。
「幸子、刀で攻撃すると気は腕だけじゃ駄目よ。
全身を使って刀を振うの」
「こんな感じ!?」
「いいや、まだね、まぁ本来は全身を使って振うんだけど
まずは上半身の力で振ってみて、腕だけじゃ無くてね」
「どんな感じ?」
「こうね、剣を振うときに振りたい方向に一気に動かして」
清美はその日、巡回終了後から就寝時間まで幸子の指導を行なった。
その甲斐あってか、幸子は少しだけ成長したと言える。
「えい!」
乾いた音が響き、幸子が振った刀は案山子に確かに刺さった。
刃も深く入り、確かに案山子に大きな傷を与えた。
「良いわね」
「あ、あれ!? 刀が無くなったよ!?」
「……案山子を見なさいよ」
「え!? あー! 私の刀取らないでー!」
ただの案山子が刀を取るわけ無いでしょうと内心思いながらも
清美はその光景を見て、少しだけ微笑んだ。
「うーん、うーん! あ!」
必死に刀を引っこ抜こうとするが、不意に刀が抜ける。
驚きで刀を放してしまいそうになる。
「危ないから無理に引き抜こうとしない」
「ご、ごめんなさい」
だが、すぐに清美が幸子が転けないように支えると同時に
彼女が刀を持ってる手を握る事で
刀を投げ飛ばす事にならないようにした。
「まぁ、早々抜けなくなることは無いとは思うけど
こう言うときは、こうやってゆっくりと動かすの。
強く引っ張ると駄目よ、刀の持ち手を上下に動かして
ゆっくりと引き抜くようにすれば良いわ」
「う、うん。ありがとう、清美お姉ちゃん!
よーし! もう一回頑張るよ!」
「そうね、もうちょっと頑張りましょうか」
「うん! えりゃー」
頑張ってる幸子を見て、清美は昔を思い出して
少しだけ、懐かしい気持ちになった。




