幸せを運ぶ鈴の音
蒸籠村、久し振りに帰ってきた故郷。
雰囲気は昔とは変わらず、相変わらずの豊穣だ。
錫音がこの村に訪れて田畑を耕してからと言う物
この蒸籠村は作物が豊穣となり
非常に裕福な村へと進化していた。
裕福となった為、金銭的な余裕も生じ
この村には護衛として陰陽師も滞在している。
「栄えてるなぁ、由紀恵の故郷」
「うん、元は貧乏だったんだけどね。
錫音様が手伝ってくれてからは豊穣になって
本当に裕福になったんだよ」
「凄いんだな、錫音様って」
「うん、間違いない」
自分が常に憧れていた偉大な人物。
僅か2年であれど、その記憶を
この村に住む人達は一時も忘れなかった。
村の習わしとして、小さな祭も催されてる。
錫音を信仰するための神社も用意された。
この村における豊穣の神は錫音である。
だが、錫音はその事を知らないだろう。
「由紀恵ちゃん?」
「あ、お久し振りです」
「あぁ! 久し振りだね! 噂を最近聞かないから
おばさん、心配してたんだよ」
「あはは、心配掛けてごめんなさい。
でも大丈夫、藤一さんのお陰で」
「藤一さんって言うのは、隣に居る」
「は、はい、私が雪妻藤一です、よろしくお願いします!」
「もしかして、お付き合いしてるのかい?」
「はい、結婚します」
「結婚だって!? そりゃおめでたい!」
久し振りに村の人達との再会をした後に
両親の元へ向う。
「由紀恵!?」
「ただいま、お父さん、お母さん」
「あぁ……元気そうで良かった。お帰りなさい」
「所で、その男性は?」
「雪妻藤一です」
「もしかして……お付き合いを」
「うん、結婚しようって」
「なにぃ!? うちの娘はやらねぇぞ!」
「何言ってるのよあなた!」
「藤一さんは私を支えてくれた大事な人よ!」
「ボクは由紀恵さんの事を本気で愛してます!
なので、どうか、娘さんをボクにください!」
「なにぃー!?」
唐突の話で流石の両親もかなり困惑して居たが
由紀恵が長い時間を掛けて両親を説得し
3日後、無事に両親は藤一を受入れた。
「……由紀恵の夢を支えてくれて、ありがとうな」
「いえ、由紀恵さんの尊い夢を支える事が出来て
ボクも本当に幸せでした」
「由紀恵、良かったわね……」
「うん、藤一さんには本当に感謝してる。
そして、私が幸せになれたのは錫音様のお陰。
感謝してもしきれないよ」
もし、錫音があの時、助けてくれなかったら
彼女は確実に悪鬼に霊力を吸い尽くされて死んでいた。
今の幸せを噛みしめれば噛みしめるほどに
彼女の中で錫音の存在は大きくなっていく。
あの美しい笑みを思い出せば思い出すほどに
心の中がポカポカと暖まってるのが分かった。
そして、自分の手元にある最高の一振り。
……これをついに、錫音へと渡す。
あの時の恩を返しきれるわけでは無いけど
少しでも恩返しが出来るのだから。
「しかし、錫音様が来てくれるか持って言うのは
俺達としても本当に嬉しい事だよ」
「えぇ、あの時の感謝をもう一度伝えないとね」
そんな会話をして少しの時が経ったとき。
外がさっきよりも騒がしくなってるのが分かった。
「もしかして!」
錫音が来たのかも知れないと感じた4人は
すぐに家から飛び出す。
そして、久し振りにその姿を見た。
「うん、栄えてるね。良かった」
「す、錫音様!」
久し振りに命の恩人を見た由紀恵の瞳から
自然と涙が溢れ出してきた。
あの日見た姿と何も変わらない。
ずっと会いたかった人物が目の前にいる。
「錫音様!」
「ん? あ、由紀恵ちゃん。久し振りだね。
羽美から聞いたよ」
羽美とは恐らく、あの時話をした白い人だろう。
本当にあの話から少しの間で
この場所へ来てくれた。
由紀恵はその事を理解し、再び歓喜の涙を流した。
「あ、ありがとうございます、私の事を忘れないでくれて」
「忘れる訳無いでしょ? 由紀恵ちゃんの事を」
成長した自分を一瞬で見抜いてくれて
そんな優しい言葉まで掛けてくれた。
今まで必死に錫音のために努力して良かったと
由紀恵は心の底から思った。
「ありがとうございます、錫音様。
錫音様が私を助けてくれなかったら
私は今、こうやって幸せでは居られませんでした」
「良かった、すぐに幸せだって言えたなら
本当に幸せに過せてきたんだね。
うん、あなたを助ける事が出来て、私も良かった」
「錫音様! ずっと、ずっと今までこの時のために
私は毎日毎日努力しました!
好きこそ物の上手なれ。あなたに贈られたこの言葉。
それを常に忘れること無く、毎日、毎日努力しました。
錫音様が持つ、天下の名刀、白時雨に勝つ事は出来ずとも
並んでも遜色ない刀を打つために!」
自分の思い全てを目の前にいる錫音へ打ち明ける。
今までの努力は全てあなたのお陰だと
そう伝えるために。
「そして、ついに出来ました! 私の最高傑作です!」
刀を取り出し、錫音へと手渡した。
「ありがとう、由紀恵ちゃん」
刀を受け取った錫音は満面の笑みを浮かべてお礼を述べた。
「錫音様、刀を抜いて貰えますか?」
「うん」
由紀恵のお願いに従い、錫音は彼女から受け取った刀を
村人全員が見守る中、ゆっくりと引き抜いて見せた。
宝石のように輝く刀身、花吹雪のような刃文。
見た者を一瞬で魅入る一振りだ。
「凄いね……これを由紀恵ちゃんが?」
「はい!」
「ありがとう! 名前は決めてるのかな?」
「勿論です! その刀の銘は花時雨。
私の最高傑作です!」
「花時雨、良い名前だね」
銘を聞き、再び錫音が笑みを見せた。
その笑みを見た由紀恵は感極まり
再び大粒の涙を流す。
「あなたの……あなたのお陰で、わ、私は……
錫音様、私……結婚、するんです」
「結婚? 相手は、そこの子かな?」
「は、はい、ボクの名前は雪妻藤一です!」
「藤一君か、ふふ、由紀恵ちゃんの事
しっかりと幸せにしてあげるんだよ?」
「はい、勿論です!」
「由紀恵ちゃん、良かったね。大事な人が出来て。
これからも幸せに、そして、誰かを助けてあげてね。
あなたにはそれが出来る。
こんな最高の刀を打てるんだから」
「はい! そうだ錫音様。
白時雨と一緒に花時雨を見せて貰えますか?」
「うん、分かった」
由紀恵の願いを聞き、白時雨も抜いた。
久し振りに見た、自分が憧れた天下の名刀、白時雨。
自身が全力で打った最高の刀、花時雨。
その2つを見比べて、由紀恵は小さく頷く。
「やっぱり、白時雨は凄い。
でも、こうやって並んだとしても
私の花時雨が劣ってるようには見えない」
「うん、ありがとうね、由紀恵ちゃん。
最高の刀だよ、この花時雨は。
見ただけで分かる位にね」
憧れの刀と自分の最高傑作。
その2つを並び見て、優れてるとは言えずとも
劣ってるとも言えない、そんな刀を打てた。
彼女の心は感極まっている。
「由紀恵ちゃん、やっぱり君は凄い子だよ」
「ありがとうございます、錫音様」
「これから君がどうするかは私には分からない。
でも、幸せに生きてね、由紀恵ちゃん。
どんな事をしても良い、何をしても構わない。
あなたが思う、幸せを生きるために
これからも毎日、幸せに生きて」
「はい! 錫音様!」
彼女はついに人生の大願を果たした。
その後、錫音の前で2人は式を上げる。
最高の幸せを、自身を救ってくれた恩人へ見て貰い
再びまた会える事を願いながら
由紀恵は、再び村から発つ錫音を見送った。
同時に彼女は心にあることを決めた。
「……藤一さん、私は新しい夢が見付かった」
「え?」
「1人でも多くの命を救うんだ。
錫音様の様に、自分が出来る最大の努力をして」
「あぁ、応援するよ、今までと同じ様に」
「ありがとう。頑張るよ、これからも」
新亭525年、雪妻由紀恵が発見した技術。
霊力を込める技術は世界に広がった。
正式に対悪鬼用の装備を作る為の専門機関
霊具神姫が設立された。
初代の長は雪妻由紀恵、後に人間国宝となる女性だ。